第34話

エド、エラ、ハインケルを残して、王都へと向かった冒険者一行は、早く行って早く帰りたいドズの速さで快速で王都へと到着していた。

ハンセンを乗せたルークと、自分の足で走り通したルーシリアの疲労が色濃く、冒険者協会への報告はボイズとエリカの役目となった。

「マスル!帰ったぞ!酒!」

「ミザ姉、ただいま!お土産あるんだよ」

元気いっぱいの二人に、むしろ久々のエリカの笑顔に?協会内は、俄かに盛り上がった。

「ボイズ、エリカ、おかえり。話を聞こう。部屋へ」

「すぐにお茶を持って行くわね。エリカの好きなお茶にするわ」

ニコニコと奥へ押し込む二人に、ちょっと困惑する親子だった。

協会長の執務室でお茶とお菓子を摘まみながら、二人は王都を出てからの事を、エリカの出自に係るところだけを省いて細かく報告した。

「で?しばらくは、こっちか?」

「そうしたいところだがな…ドズが嫁と息子に会いたがってんだわ。あいつがあんなに家庭的な奴だとは…」

「エラもエドも、美人だし可愛いからね。仕方ないよ、おっとぉ。おっとぉみたいなもんだと思う」

「まぁ、そだな。ってことで、俺とエリカは多分すぐにあっちに行くぜ」

「そうか、じゃ、エールの樽は、持たせることにするわ。用意出来たら声かけるから、持って行けよ」

「本気で用意してたんかっ!」

「お前が言ったんだろうが!」

2人のやり取りに、仲良しだなぁと遠い目になるエリカだった。

「そうだ、エリカ」

「何ですか?」

「ガン爺さんが、会いたがってた。出る前に、会いに行ってやってくれ。もう、中々外出できんみたいでな」

「わかりました」

執務室をでたその足でエリカは、薬の師匠であるガンダルフの元へ急いだ。

そこで寝たきりとなり、やせ細った姿の師と再会することになった。

「ガン爺?」

「エリカ、来たな。待っておったよ。そこにまとめてあるモノを持って行きなさい」

「何があったんですか?数か月前はまだ、お元気でした」

「…年だ年。つまずいてコケて、骨を折ったらこの様だ。気にするな、充分生きた。優秀な弟子も取って、知識も引き継いだ。全て、持って行きなさい。眠いんだ、わしは寝るよ」

涙を我慢したくちゃくちゃの顔で師を抱きしめて荷物を持ち、頭を下げて部屋を出ると、世話役の女性から師がもう長くは持たないと聞かされる。

食事が減り、眠りが長くなり、死を迎える準備に入っていると言う。

エリカは何もできない自分に腹を立てて、ボイズに抱き着いて眠ってしまうまで泣き続けた。

抱き上げられて久々の我が家の自分の寝台でその日のエリカは死んだように眠り、目覚めてすぐに荷物を全てひっくり返して確認した。

器量な初版の薬草茶の本も、手によく馴染む古い調合器具もとても高価なガラス製の蒸留器具も、欲しがった物は全てそこに入っていた。

小さな神経質な文字で書かれた短い手紙には、感謝の言葉が綴られて、エリカの背中を押す言葉が並んでいた。

手紙を胸に抱きしめて一筋の涙を流した後、エリカは荷物をカバンに詰め直した。

「エリカー。起きたか?飯食って酒貰いに行くぞー。連絡が入った」

「はーい」

務めていつもの声といつもの調子で、階段を駆け下りたエリカだった。


出発は思たよりも早く、王都を出たのは帰ってきて4日目の朝。

今回は、親子二人だけの旅。

協会にたむろする冒険者たちからは、まだ行くなと泣きつかれること数人。

漏れなく、ボイズのゲンコツを貰っていた。

ごめんね。と、苦笑いで協会を後にして、今か今かと出発を待っていたドズに引きずられるように王都の門を通り抜けたのだった。

「急ぐ旅でもないんだが、ドズが早いから、最短記録で到着するだろうな」

「そうだねぇ、薬草とか拾えるといいんだけど…」

「どうだろうなぁ、あいつ、そこらの魔物位なら蹴散らして進むからなぁ」

「期待しないでおくよ。早くエドに会いたいのは、分かるしね」

そして、本当に夜間も含めてほぼ止まることなく辺境領へとたどり着いたのだった。

「お早いお帰りだな。さすがの俺も、びっくりなんだが?王都を出ると言う知らせが、昨日届いたところだが?」

「ドズが、夜通し走ったんだよ…腰と首が痛てぇ…」

「エラとエドに、早く会いたくて堪らなかったみたいです」

「…そうか。お疲れさんだったな…前に使っていた部屋で、休んでくれて構わんぞ」

「そうさせてもらうわ…」

「おっとぉ、年取ったね…」

「うるせぇやぃ!」

到着した日の夕食の時間までしっかりぐっすり眠ったボイズは、元気いっぱいで食事を平らげると、お代わりまでしていた。

「お前は、元気だな…」

「食べ過ぎじゃない?」

「平気だぞ?で?何か進展あったのか?」

「こんなにすぐに、進展があるわけないだろう…」

「それもそうか。しばらく世話になるぞ?依頼があれば、言ってくれ」

「すいません、よろしくお願いします」

「構わんさ。そのつもりだ。丁度、領内視察がある。明日は、護衛を依頼しよう」

「わかった」

「朝早くに出て日帰りの予定だから、頼むぞ」

「わかりました。ちゃんと、叩き起こしますから安心してください」

アントンがカイヤからもらったレシピをふんだんに使ったおいしい食事と共に、3人だけになっても賑やかな、明るい食卓となった。


ボイズ達がドルイドからの依頼や教会での依頼などをこなしながら何日か過ぎた頃、ドルイドの元に突如として不穏な知らせが舞い込んできた。

その日の夕食時、ドルイドはボイズとエリカに一つの依頼を出すことにした。

「ボイズ、シュレインからの知らせが届いた」

「あいつ、どこにいるんだ?なんだって?」

「まず、隣国の施設は軍事施設として稼働が予定されていたようだ。それを何とか阻止したはいいものの、シュレインが追手によって怪我を受けた。それによって動けんらしい。迎えをくれと書かれている。行ってくれるか?」

「隣国へか?」

「あぁ、あっちの大森林沿いの小さな町の様だ。なんとか追っ手を撒いて、そこまでは逃げ切ったみたいだな。容体が分からんし、あいつからこちら側の情報が洩れたらコトだ」

「国王へは?」

「既に連絡してある。緊急回線で、動く了承は取り付けた。経費は、国持ちだぞ?」

「知らねぇ顔じゃないし、仕方ねぇな。行ってやる。急ぐぞ、エリカ」

「わかった。すぐにドズと準備するよ」

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