第3話 ミコの式神召喚!
ミコは考えていた。
(不本意だ…)
そう、とても不本意なのだ。
突然悪霊に襲われ、危ない目にあったミコだが、今こうして無事に助かり、家にいるのだ。
それはつまり、親父に助けられたって事ではないのだろうか。不本意だけど…。
「助けてくれてありがとう」
ミコは小声で呟くように言い、お茶を啜りながら、チラリと親父を見る。
キッチンのテーブルを挟んで、向かい側に座る親父だが、珍しくシリアスな顔をしながらミコを見る。
「その事なんだがーー」
結論から言うと、ミコはお礼を言う必要がなかった。
(お礼返せよ)
なんて、思ってしまうのは大人げないのだろうか?
(いや、15歳はまだ子供か)
何のことはない。親父の説明によると、ミコを助けたのはミコ自身の力だと言うのだ。
「実はなぁ、息吹と紬はお前を守るために一緒にいさせていた訳ではない。まあ、多少の守護の役目もあるのだがーー。お前は子供の時から天才の自分に劣らないくらいの強い力を持っていてな。その力があまりにも強すぎるために、封印を施していたのだ。強すぎる力を持った状態で、扱い切れない霊をその身に宿した時、本当に危険な状態になる。それを危惧しての封印なのだが。その封印が解けた時のストッパーと、連絡役として、二人を付けていたのだ」
何気に自分自身を上げるようなことを言ってきたので、なかなか話が入って来ない。
そんな事を考えてるミコを置いて、親父は説明を続ける。
「その封印が今回解けてしまったのだがーー、ミコよ、体の傷の調子はどうだろう? 」
そう言われてふと、ミコは自分の体の状態を確認してみる。
「痛みもほとんど無いし、意外と平気かも知れない」
ひどい火傷や、擦り傷等、明らかに大変な怪我をしていたのだが、先ほど目を覚した時よりも今の方がどうって事ないと感じていた。
「やはりか…」
親父は一呼吸置いた後に話し出す。
「息吹達が消えた時、それを感じ取ってすぐにお前の元に向かった。その時、お前は自分の力で封印を解き、悪霊とかしたあの少年の霊をお前自身の力で追い払ったのだ」
ミコはその話を聞き、一瞬考える。あの時ほとんど意識を失っていたし、自分で霊を追い払った事など、到底信じられる話では無かったのだ。
(う〜ん、全然思い出せない)
「息吹達を消した事から考えると、あの霊はかなりの力を持った悪霊だったのだろう。それを追い払った事といい、わしの封印を解いた事といい、今なら自分の力を使いこなせるのではないのだろうか?傷の治りを見ても、気の流れのコントロールも出来ているようだしーー」
親父はもったい付けるように一呼吸置いて再び話し出す。
「やってみるか、式神召喚」
「私に出来ると思う?」
めずらしく、少し不安そうに尋ねるミコに、
「天才が認めた天才だからな」
ミコは晴々とした青空のような、曇りのない笑顔で親父の顔を見る。
目の前に居るのが親父だという事も忘れて。
ミコは今祭壇の前にいた。
あの後、不用意に笑いかけてしまった事で、ニヤけた親父がミコに抱きつこうとするのを、落ち着かせるのが大変だったのだ。最終的に平手打ち一発で黙らせたのだが、若干息吹と紬には引かれていた。ような気がしたのだった。
前に、親父の召喚術を見よう見真似でやってみた時、ぷよぷよした物体や、丸いよく分からない物体を呼び出してしまった。親父から聞いた話だと、それは、とても弱い霊体で、一瞬で消滅してしまう様なものしか呼び出せなかったらしいのだ。だが今は違う。ミコは自分の体をとても軽く感じていた。ベットから起きた時のフワフワとした感覚は、力が漲っている証拠ではないのだろうか。そもそも封印状態のまま不完全な式神を呼び出せた事に親父は相当驚いていたと言っていたのだ。
(私なら出来る!)
ミコは集中し、掌を合わせ、祭壇の前に座る。
先ほど親父から教えてもらった事を思い出す。
静かな神殿の中で、ミコの深い息遣いだけが聞こえる。
(ゆっくりと…自分の意識の中に入り込むように…)
やがてミコは不思議な感覚に捉われる。
深い深い海の底の様な場所。暗い。しかし、そこには光る玉が沢山在る。ミコはその一つに触れようとした。が、
(違う)
深層心理の中のミコ自身がその玉をそう判断する。
やがてその玉は、静かに光を失くし、完全に消滅する。
すると、また直ぐに新たな玉が生まれる。
それからまた、何個かの玉に触れようとする物の
(違う、これでも無い)
そんな事を何度も何度も繰り返して行く。
しばらくすると、一際まばゆい光を放つ玉がミコの前に現れる。
「君、だよね?」
ミコがそう問いかけると、玉はミコに吸い寄せられるかのように近づいてきた。
「私は力の強い主を待っている。あなたに私と契約する程の力が有ると言うのですか?」
玉はミコにそう問い掛けてくる。
「私は強い力を持っている。天才的な才能もある(はず)。君を上手く使えるのは私だけだ」
ミコがそう言い放つと、玉は少しの間を置いた後、
「ならば私を扱って見せて下さい。少しでもあなたの器が足りなければ私はあなたの身を滅ぼすことでしょう」
(臨む所だ!)
心の中でそう叫ぶと、ミコは一気に現実の世界に引き戻されて行く様な感覚を感じた。
「さあ、姿を見せよ!そして、私に従え!式神召喚!!」
両手を力強く、天に振り上げるミコ。
ミコの周りをまばゆい光が包む。深層心理の中で見たその玉の光と一緒の光。その光がやがて収束し、ミコよりも頭1つ分位大きな人の形を成していく。
(大き…い?)
ミコの頭の中では式神は息吹や紬の様な子供の姿を想像していた。
しかし、ハッキリと現れたその式神は、明らかにミコより年上の成人男性の姿をしていたのだ。
(こんな筈では…)
ガックリと肩を落とすミコの姿を気にも止めず、その式神はミコの前に跪く。
「あなた様のお力、しかと見届けさせて頂きました。私はあなたを主と認め、付き従う事を命ある限りお約束いたしましょう。私の事は一夜とお呼び下さい」
「却下!!」
式神の言葉に、ミコは即座に答えた。
ミコの言葉に小首を傾げる式神。
「だーかーら、もっと可愛い、妹、弟系が良かったのよ!あなたじゃない!」
ゼーゼーと息を切らしながら言うミコの言葉に、しばらく沈黙した後、式神は何かを悟ったように手のひらを一回打つ。
「ああ、主様はショタ…」
「ちっがーーう!」
何か不穏な事を言いかけた式神の言葉を遮り、ミコは否定する。
(って言うか、何でそんな言葉知ってるんだよ!)
と、心の中でツッコミを入れるミコに、
「しかし、呼び出されたのは主様なので、最後まで責任をとって下さいね」
そういいながらウインクを一つ投げかけてくる。
(こ、コイツは!いい性格をしているのかも知れない。でもーー)
「ウインク何かしてもぜんっぜん可愛くない!!」
と、半泣きで、叫ぶミコだったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます