第8話 証言

 「そんなで怯えた目で見られると、ますますいたぶりたくなりますわね」


 翌日、デュワーズの邸宅に俺たちは来ていた。

 その用というのは、昨日捕縛した暗殺者を尋問するためだった。

 邸宅の地下に用意された拘置施設の一室には、その男が目に布を巻かれた状態で椅子に縛り付けられていた。

 俺たちの足音を聞いただけで、男は震え上がったのだった。

 

 「今から俺はお前を尋問していく。素直に答えなかった場合、もしくはお前の言った言葉が後々嘘だとわかった場合は躊躇なく殺す」


 拷問道具を手にしたイリスは上機嫌そうに微笑んでいた。


 「では訊くぞ?誰の指示で俺を付け狙った?」


 一つ目から核心を突く質問だ。


 「……」


 男は唇を震えさせていたが答えることはしなかった。

 そんなに怖いのなら素直に吐けばいいのにな。

 

 「当たり前のことだが黙秘権は無いぞ?」


 イリスがナイフをそっと指に押し当てた。

 その刃物の冷たさで自分の置かれた状況に気づいたのか、男は口を開いた。


 「お、俺は……ブレイヴァルの指示でお前を暗殺しろって言われたんだ!!」


 ブレイヴァル……なるほど、スチュアートとグルというわけか。

 赴任するにあたってもちろん、同じ職場に籍を置く職員の素性は調べあげた。

 一人だけ情報が少なく違和感を感じさせた人物、それがブレイヴァルだった。


 「ブレイヴァルの上司は誰だ?」

 

 確証を得るためにそう尋ねると男は口を噤んだ。


 「イリス、好きにしていいぞ?」

 「はぁい〜」


 エリスは刃物にゆっくり力を入れだした。

 すると少しづつ血が滲み出したところで、男は叫んだ。


 「全部話す!!」

 「あー面白くないわね。シラケたわ」


 刃物を男の手のすぐ近くへと突き立てたイリスは、興味を失ったかのように部屋にあった椅子へと座り込んだ。


 「ブレイヴァルの上司はスチュアートっていう魔法学校の校長だ。三年前の事件による失態で暗剣殺のことは酷く憎んでいるらしい。そんなところに暗剣殺所属の可能性のある暗殺者が現れたってわけで俺たちに話が来たわけだ」


 もうこれでスチュアートを罪に問えそうだな。

 罪状は一介の教師に暗殺をしようとしたこということ。

 それで更迭出来れば、しばらく奴の顔を見ることも無さそうだ。

 

 「親父、スチュアートの代わりの校長候補にアテはあるか?」


 デュワーズは腕組みをして悩ましげな表情をうかべた。


 「凝り固まった貴族至上主義の連中ばっかでな……そうそう代わりは見つからんよよ」


 平民と貴族の差別化を進めようとする貴族至上主義なる政策方針はこの国の保守派連中(貴族議員)らが掲げているもので、やはり国家機関の長の人をすげ替えるのだから身分はある程度求められるのだ。


 「今のはどうなんだ?」

 「スチュアートはその点、貴族至上主義者じゃないからうってつけのはずだ」


 いかに学校長に望ましい人選だとしても、暗殺者を仕向けてくるようでは今後の仕事に差し支えがあることは間違いない。


 「最悪の場合は貴族至上主義者同様の手管で黙らせるさ」

 「そうか、血筋ではこのデュワーズも敵わないからな」


 デュワーズはそう言って笑った。


 「勿論、明かすことがないよう手は打つつもりだ」


 積極的に己の家柄をひけらかすような真似をするつもりは無い。

 

 「なら人選はこちらで行っておこう」


 デュワーズは俺の申し出を受け入れてくれた。

 

 「助かる。それと証拠としてそこの男と証言を持っていくつもりだ。どこかの公的機関の動員若しくは逮捕状を用意できないか?」


 あくまでも俺たちはこの国を影から支える一組織に過ぎない。

 ゆえに俺たちが捕縛したところで更迭できるかは怪しいのだ。


 「わかった、手筈を整え次第こちらから連絡しよう」


 デュワーズは四大公爵家当主の弟、影響力も大きければ顔も広かった。

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滅紫の暗殺教師〜その男、ただの暗殺者にあらず〜 ふぃるめる @aterie3

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