第七話 路地裏の剣戟


 「チッ、どっから湧いて出た!」


 追手の一人が忌々しげに吐き捨てると彼らは足を止めた。

 そのタイミングで背中への驚異はないと判断して彼らの方へと向き直る。

 

 「魔弾がダメならこれで相手して差し上げますわ!」


 魔導拳銃を放り捨てるとイリスは、どこからか短剣二本抜いていた。

 対する追手もまた、弾倉は既に空なのか各々の得物を抜く。

 

 「最低限一人は生け捕りにしろ。手土産になるかもしれない」


 雇用主然りスチュアート然りだ。

 こちらの素性が露呈していると仮定するのなら、見せしめに何人かを殺して一人を手土産にして、警告するのがちょうど良さそうだ。


 「青二才が舐めた口をききやがって!!」


 一人が迷わず俺へと構えた短剣を繰り出して来た。

 俺の正体を知るはずのスチュワートの命令で送られてきているはずなのに青二才扱いか……。


 「魔法を使うまでもないな!!」


 繰り出された相手の剣を避け、その手を逆に掴んで引き込む。

 そしてよろけたところに膝を突き上げた。


 「ごぶっ!?」


 涎と血反吐とを振り撒いて男は顔を押さえ込んで倒れた。

 これで手土産は確保したことになったわけだが―――――。


 「何も気にせず戦えるみたいですわね」


 口調から漂う品位とは裏腹に、イリスの目は殺意に染まりきっていた。


 「おい、一人生かして捕まえたからって免罪符じゃないぞ?」


 俺が制止した時にはもう遅かった。


 「それは残念」


 瞬く間の剣戟の後、そこには修道服をすっかり返り血を浴びて赤黒く汚したイリスがそこにいた。


 「……この借りは必ず返す……」


 唯一息のある一人が怨嗟を滲ませた声で息も絶え絶えそう言うと


 「まだ喋れたのですか?」

 

 イリスがその男の剣を拾い上げ、躊躇いもなく突き立てた。

 

 「ゴブッ!?」


 それで一件落着、あとは処理班の到着を待つだけだが―――――


 「この通りだ!!」


 裏路地への入口が俄に騒がしくなっていた。


 「憲兵連中のお出ましだ。離脱しよう」


 仕方なく死体は置き去りにしたまま俺たちはその場を去った。


 ◆❖◇◇❖◆


 「って、どうして俺の部屋にいるんだ?」


 二人とは一旦別れて、飯を外で済ませてシャワーを浴びて寝室へ入ると、大胆な下着を身につけたイリスがベッドに横たわっていた。


 「待ちくたびれで寝てしまうところでしたの」


 イリスが姿勢を起こすと、それに合わせて豊満な胸元が揺れ動いた。

 足に目をやれば黒いガターベルトが肉付きのいい白い柔肌にくい込んで酷く艶かしい。


 「中途半端に殺したので、昂ってしまっていますの」

 

 俺の首後ろへと腕を回しながらイリスが耳元で囁いた。

 人を殺すことで快感を覚える彼女の昂りを紛らわせるために何度となくしてきた行為、それを今晩も強請ねだられている。


 「それに貴方も溜まってそうですし?」


 遠慮なく股間へと伸びてきたイリスの指に俺は負けた。


 「わかったよ……」


 今夜もイリスは底なしだった――――。

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