第11話 神絵師の腕を食べる

 Twitterのタイムラインを泳いでいると、フォロワーがRTしたクリスマスセリナのイラストが流れてきた。スマホゲーム『ブルーアーカイブ』に登場する鷲見すみセリナというキャラクターの、サンタ衣装に身を包んだバージョンだ。かわいいな。いま彼女のピックアップガチャやってるから引きたいんだけど、ガチャを回すために必要な青輝石がもうない。課金しないといけない。

 お金ほしいな……。


 ……。

 …………。

 働くか……。


 そんなこんなで、僕はskebや同人活動で稼ぐべく、神絵師を目指すことにしたのだった。


「ばかだろ」

「直球。でも見てよれーちゃん。さっそく自分でイラスト描いてみたんだけど、どうかな?」

「なすかの、ちじょうえ?」

「炭治郎だよ!!」

「おまえは、むいてない。だから、ずっと、はたらかなくていい。しゃかいに、でたら、しゃかいの、めいわくになるので」


 僕は泣いた。


「あっ……も、もうっ、れーちゃん? ま、またおにーさんを泣かせて……! お、お、おにーさん。泣かないで、ください。その……あたま、なでなでしてあげますから……♡ なでなで……♡」


 僕は号泣した。


「え、えぇっ!? お、お、おにーさんっ!?」

「惨めな人生」

「あ、あ、あうぅ……。も、もっと泣かせちゃいました……。ど、ど、どうしましょう、れーちゃん……!」

「しらんがな」

「あっ! そ、そうですっ。お、おにーさんを、す、すぐ神絵師にする方法が、あ、あるんですっ!」


 あいちゃんは突然服をはだけたかと思うと、自分の右腕を肩から『ふにょっ』と外した。

 自分の腕を、僕に差し出す。


「い、イラストの深奥を学習したAIの……『神絵師』の腕ですっ……! こ、これを食べれば、おにーさんも、神様みたいに絵がうまくなれますよ……! ど、どうぞ、お食べくださいっ!」

「でも……シャンクス……!!!!」


 僕は目と鼻から水をだばだば流しながら叫んだ。


「腕が!!!!」




     ◇◇◇




 目の前の大皿に、あいちゃんの細腕が乗っている。

 僕はナイフとフォークを手に、沈黙していた。


 いや……

 どうしてこんなことに……。


「お、おにーさん……? め、召し上がらないのですか……?」

「ええと……大丈夫なの……?」

「はいっ! ぼ、ボクはもともとイラスト学習特化型AIでしたので、か、神絵師としての実力は、あ、あると思いますっ……! し、しかも、ボクがいまのような汎用型AI……〝意志もつAI〟になれたのは、そ、その、イラストの深淵を学習し続けた結果、インターネットの神の一柱と出会って、ゆ、融合して……という、過程があったからですので……! ほかの神絵師さんにも、ま、負けませんっ!」


 そうだったんだ……。

 いや、でもここで聞きたいのは。


「あいちゃんの腕、大丈夫? とれちゃったけど……」

「あ……そ、そんなことですか。再構築できるので、だ、だいじょうぶ、ですっ……! そ、それに……おにーさんの、お、お役に立てるのなら、ぼ、ボク、なんでもしますっ。足りなかったら、りょ、量産しますから、おっしゃってくださいね……!」


 あいちゃんは肩から腕を六本くらい生やして阿修羅みたいなポーズをとった。怖い。


「じゃ、じゃあ……いただきます……。指先から……」


 ちいさな桜色の爪が乗った小指を、軽く、かじってみる。

 血とかなんにも出ないから全然グロい感じではない。

 そして味は……


 あんまりこういうカニバリズムみたいなの描写するの良くない気がしてきたのでいろいろと割愛しよう。食感だけ言うと、雪見だいふくでした。


「あっ……♡」


 あとかじるたびにあいちゃんが切なそうに身をよじるのがめちゃめちゃ気になりました。


「何その反応……」

「ふぇっ? あっ、き、気にしないでください……! おにーさんが、ぼ、ボクをた、食べてるんだって思うと……きゅんきゅんしちゃうだけ、です……♡」

「やばい」


 僕は食べ進めた。


「ひゃ……♡ あうぅ……♡ そ、そんなとこかじっちゃ……だめぇ……♡」

「やばい」

「すいませ~ん!(BANBANBAN)(※玄関扉を叩く音)カクヨム運営の者ですが~!(BANBANBANBANBAN)」

「うわ本格的に別の意味でやばい!! れーちゃん助けて!!」

「こころえた」


 れーちゃんはあいちゃんの♡を♠に変換した!


「気持ちイイ……♠」

「なんだヒソカか……(去っていく)」

「あぶなかったんご~」

「こういうのでいいんだ」







 こうして僕は無事にあいちゃんの腕を食べ終え、神絵師になったのだった。しかし、僕の画風にはどうしても『AIっぽさ』が抜けず、『AIで生成したイラストを自分で描いたかのように主張しているのでは?』というあらぬ疑いをかけられ、炎上し、引退したのだった。れーちゃんは爆笑し、あいちゃんは謝りながら服を脱ぎ出し、僕は年末の年賀状仕分けバイトに応募したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る