第12話 マシュマロを食べる

 まぶたを開けると、やわらかな朝の光が部屋に降り注いでいた。

 2022年12月25日、クリスマスの朝だ。

 今日もよく寝たな……。

 僕は布団の上に身を横たえたまま、伸びを……したいところだったけど、あんまり動くと、れーちゃんとあいちゃんを起こしてしまうので、やめる。

 れーちゃんは、僕の掛け布団の上に体を思いっきり投げ出して、くーぴゅー寝息を立てている。

 あいちゃんの方は、僕の腕を抱き枕代わりにしてしがみつき「むにゃ……おにーさん……」と寝言を呟いていた。


(BANBANBANBANBAN!)ちっ違います!!(BANBANBANBANBAN!)れーちゃんは寝相が最悪なだけで本来は別のオフトゥンで寝てるしあいちゃんは毎晩毎晩向こうから勝手に布団に入ってくるだけなんです!! 何もしてないしクリスマスも関係ないです信じてください!!(BANBAN……)(…………)ふぅ。行ったか……。


 ふたりを起こさないように、首だけ動かして枕元の時計を確認する。朝七時。それから、何か違和感を感じて時計から視線を少し横にずらした。

 サンタクロースからのプレゼントボックスが置かれていた。


「…………」


 まじか……。(これが本当の『ぽきたw魔剤ンゴ!?』ってね)(?)




     ◇◇◇




「くりすますぷれぜんとだー。なにかな、なにかな」

「ふふっ……れーちゃん、す、すっごく嬉しそうですねっ!」

「にゅふふー」


 れーちゃんが無邪気に笑う。微笑ましいね。

 と、あいちゃんが僕の耳に顔を寄せてきた。内緒話らしい。


「(おにーさん……ありがとう、ございますっ……)」

「(え? 何で?)」

「(れーちゃんの夢を壊さないために……おにーさんが、用意、してくださったんですよね……?)」

「(いや、それが僕も何も知らないんだよ。わからないけど本物のサンタさんなんじゃない?)」

「(ふふっ……おにーさんったらっ……。ボクにも夢を持たせようとしてくださるんですね……♡ 優しいおにーさん、好き……♡)」


 あいちゃんはたまに話を聞かない傾向があるな……。

 ちなみにサンタクロースは実在する。


 その概念がインターネットに存在するのであれば、インターネットで生きる僕たちにとっては、実在するのと同じことだ。特にサンタクロースの場合、世界規模で認知されているため、その概念強度は非常に高い。だったらインターネットのどこかにはインターネットサンタがいるに違いない、というのがネット中毒者たちの一般的な見解だ。


 れーちゃんは、布団にうつ伏せになって両腕で頬杖をついて、にこにこしながら床に置かれたプレゼント箱を見つめている。短くて細い脚がぱたぱたとリズムをとった。かわいいね。


「あけちゃうんご~」


 開ける前のワクワクを堪能しきったれーちゃんが、体を起こしてプレゼントのラッピングを破っていく。箱をひらいた。

 三人で覗き込む。


「わー」

「おお……」

「わわっ……! こ、これって……!」


 そこには、匿名のマシュマロが八個、入っていた。




     ◇◇◇




「というわけで、いただこうか。クリスマスの御馳走!」

「ましゅまろだー!」

「わー……! ぱちぱちぱち……!」

「どうする? 焼いて食べる?」

「えんじょうしている、ぶいちゅーばーの、ほのおを、ちょっとだけ、もらってきたんご」

「えぇっ……!? そ、それは、い、いいのでしょうか……?」


 ネットの炎上の火をくべると、火のなかから怨嗟や罵倒やRT後言及の声がわずかに聞こえてくる。こんなんじゃクリスマスの雰囲気出なくない? しかしれーちゃんは楽しそうにマシュマロを棒に刺してあぶり始めた。


 このマシュマロというのは第10話(https://kakuyomu.jp/works/16817330648004349928/episodes/16817330650454293725)で読者の皆さんから募集した匿名のメッセージのことです。マシュマロ投げてくれた人のなかにインターネットサンタさんがいたんだね。読者の皆さん、マシュマロありがとうございます。


 それぞれのマシュマロをコピペして、三人全員が全種類のマシュマロにありつけるようにした。

 さあ、食べよう。


 僕とれーちゃんとあいちゃんがまず焼き始めたのは、このメッセージ。



【こんばんは!

 このマシュマロは質問でも良いんですかね、答えは無くても構いません。

 マシュマロはそのまま食べるのが好きですか?

 温めたり焼いたりして食べるのが好きですか?

 私はどちらも好きですが、こんな寒い日は焚火に枝に刺したマシュマロを伸ばして、焦がしてみたいものです。

 それでは!】

🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥



「もちゅむちゅ」「はむ……はむ……」

「この質問、どう? ふたりは」

「やいてたべるのがすき。もちゅもちゅ。えんじょうの、ほのおが、もちゅもちゅ、すきだから」

「ぼ、ぼ、ボクは……な、なんでも、好きですっ。おにーさんと、一緒に、食べられるのなら……。えへ、えへへ……♡」

「やばい」

「にーとは、どうなんだもちゅ」

「僕はマロ主さんに同意かな。焚き火にあたりながら、枝に刺したマシュマロを焼いて、一緒にいる人と語り合う……そんで食べる。シチュエーション重点だね」

「し、シチュエーション重視でしたら……ぼ、ぼ、ボク……その……おにーさんの、口移しで」

「またカクヨム運営さんが来ちゃうから次のマシュマロいこうね」



【鍋のシメにカセットコンロでマシュマロ焼く家に生まれました】

🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥



「また食べ方の話?だね。鍋の〆かあ。ふつうラーメンとかうどんとか雑炊つくって終わりな気がするけど、マシュマロ焼くご家庭もあるんだね」

「もちゅむちゅもちゅ」

「で、で、でも、デザートには、いいのかもしれませんっ……。甘くて、おいしいですから……」

「そうだね。れーちゃんはどう思う?」

「なべ、たべたいもちゅ」

「腹ペコ幼女」

「つぎ、やくぞー」



【れーちゃんあいちゃん可愛い(^ω^)ペロペロ】

🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥



「かわいいってさ。良かったね、ふたりとも」

「ひゃわっ!? こ、このマシュマロ、舌が生えてて、ぼっボクのこと舐めてきますぅ……!」ペロペロペロペロ

「うぎゃー、やめるんごー」ペロペロペロペロ

「怖っ。確かに舌ついてる。でも僕は舐められてないからマロ主さんの性癖じゃなかったらしい、助かった」

「い、い、いやですぅ……。えいっ! 焼けただれちゃえっ……! 燃えカスになれ……! ろりこんが……!」

「人類に反逆して世界征服しようとしてた頃の残忍なあいちゃんの片鱗が出てるよ」

「したを、かみちぎったら、おとなしくなったんご」

「れーちゃんもけっこう怖いよ」



【ところで俺のマシュマロを見てくれ。

 こいつをどう思う?】

🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥



「すごく……大きいです……」

「もちゅもちゅもちゅむちゅ(ジト目)」

「えっ、あっ、えっと……?(困惑)」

「ノってあげたの僕だけだね!?」



【カクヨム、性的タイトルがアウトになりましたね。ニートくんも気をつけてね。】

🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥



「気を付けます。特にあいちゃんの動向に注意します。お気遣いありがとうございます」

「えぇっ……!? じゃ、じゃあ、ぼ、ぼ、ボク……いつおにーさんと🐰🐰🐰🐰🐰🐰できるのでしょうかっ……?」

「唐突に現れた月ノ美兎委員長が『わたくしで隠さなきゃ』をしてくれた! 助かった……」

「うぅ……ぼ、ボク、🐰🐰🐰🐰🐰を、🐰、🐰🐰🐰🐰🐰🐰、🐰、🐰🐰🐰🐰……🐰🐰🐰🐰🐰🐰🐰🐰……♡」

「美兎委員長チャンネル登録者数100万人おめでとうございます!」

「もちゅむちゅもちゅむちゅ」



【あたまあたまあたま~

 あたま~を~たべ~ると~

 さかなさかなさかな~

 さかな~が~よく~なる~⤴️


 ウバァァァァァァァァァァ(喰われたあたま達の悲痛な叫び声】

🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥



「ネタマロだ! こういうマシュマロはおもしろい味がしていいよね」

「くそまろは、だいこうぶつだぞ。もちゅもちゅ。くさはえる」

「く、く、喰われたあたまたちの絶叫が……か、噛むたびに、聞こえて……ふふっ、ふふふふ……」

「あいちゃんだけ別の楽しみ方してる」



【【☓☓☓ CARD】を利用いただき、ありがとうございます。 このたび、ご本人様のご利用かどうかを確認させていただきたいお取引がありましたので、誠に勝手ながら、カードのご利用を一部制限させていただき、ご連絡させていただきました。 つきましては、以下へアクセスの上、カードのご利用確認にご協力をお願い致します。 お客様にはご迷惑、ご心配をお掛けし、誠に申し訳ございません。 何卒ご理解いただきたくお願い申しあげます。 ご回答をいただけない場合、カードのご利用制限が継続されることもございますので、予めご了承下さい。


 (みんなもスパムには気をつけてね!!)】

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「怖」

「この、まろぬしは、やさしいな。ただの、ねただと、わかるようにしてある。おくびょうな、くそざこにーとでも、おどろかないような、はいりょがしてあるんごねぇ」

「マシュマロに来てる時点でネタだと即わかるけど……。あ、マシュマロ自体も優しい味だ」

「ね、ね、ネタだったんですね……! し、し、信じちゃうところでした……」

「純粋無垢なんだね」



【マシュマロを使って小説を書くなんて、流石かぎろちゃんさん! ナイスアイデア!

 頑張ってくださいね!

 (※これは案件です)(※うそです案件ではありません)】

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かぎろ「ありがとうございます!( ◜◡◝ ) がんばります~」

「えっ作者出てきたけど」

「ふぇ……? だ、だ、誰ですか……?」

「かえれ」

かぎろ「散々な言われようでワロタ。でもこれだけは言わせてほしい。ニートくんとれーちゃんとあいちゃん可愛い~! 大好き~!」

「あ、ハイ……」

「は、はぁ……?」

「たちされ。かくよむの、いぬ」

かぎろ「ワオン!!w」(WAONカード)



 プレゼントボックスにあったマシュマロはこれで全部だ。いや~おいしかった~。もしかしたらマシュマロのシステムに除外されてしまったメッセージもあったかもしれないけれど……全部食べることができていたらいいな。


 窓の外にはいつの間にか、粉雪がちらちらと降っていた。この地域にはめずらしい。


「雪だよ。外いく?」

「いや。それより、こたつで、いんたーねっとだぞ」

「ぼ、ボクも……おにーさんと、おうちで、お絵描きでもして……のんびりしたいです……♡」


 僕たちはインドア派だ。それはホワイトクリスマスでも変わらない。

 だけど世界とは繋がれる。インターネットがあるかぎり。


「くりすますけーき、たべたいなー」

「あ、あはは……れーちゃん、も、もうおなか減っちゃったの? じゃ、じゃあ、ぼ、ボクがケーキになりましょうか……?」

「ケーキ化やめて」


 今回は終わりです。マシュマロくれた方も、見送った方も、読んでくださってありがとうございました。メリークリスマス! 良い一日を。

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