秘密の文言

「僕らは残された12年を大事にしなければならない。そして、僕らの意志を引き継ぐものがいることで初めてこの文芸部の本懐は果たされるだろう」

そんな文から始まる文集は、まるで僕らが読み返すことがわかっていたかのような、読者ではなくあくまで後輩に向けた前書きだった。

だが、そこからは僕らがイメージする通りの各々の部員が書き連ねた小説や短歌、詩や書評に至るまで。まさに文芸部の名にふさわしいものだった。だが、僕らが探しいているものは残念ながら素晴らしい文学作品を探すことじゃない。

その後も最初に読んだ冒頭のような含みのある言葉はいくつか見つかるが、どれも核心を避けているような遠回しなものばかりだ。

「残るは、これだけ」

あるのは2012年号。その文集だけはほかのと比べて10数ページだけ多い。明らかに分厚さが違った。ゆっくりとページをめくる

「これは、僕らが10年後に託した最後の文集だ。これを読んでどうか文集を復活させてくれ」

それは印刷物ではなかった。

今までの文集は、古いものも含めて全て印字のもの。つまり大量生産されていたものだ。

これが原本である可能性を疑ってみたもののそれを確かめる術は無い。

「今から我が校の伝統、いいや不可思議を伝えたいと思う。心して読んで欲しい」

僕は半分を読み終えた頃、何度も方を叩かれた後に揺さぶられることでやっと意識を文集から離した。

「えっ?なに?」

「.....なにって、集中しすぎじゃない?雨音ちゃんも心配してるよ」

「その、お茶でも飲んで落ち着いて下さい」

差し出された茶をありがたく頂戴する。熱い、舌を火傷した。

だが今はそんなところじゃない。早く続きを読まないと。と、本に目を落としたところで片手がそれを阻んだ。

「ストップ!今日は、おしまい!」

「なんでさ、まだ日は落ちてな、」

振り返って空を見ると、もう日は傾きを失いかけて空が暗くなっている。

「うそ、もうこんな時間」

「今日はこんなところで十分でしょ。別に本は逃げたりしないよ」

渋々文集を本棚になおしていく。結局静は来なかった。聞くところによると明日も補習だとかで帰ったのだと。

「それじゃあ、明日も来るよう書いておきますね」

「うん。じゃあまた明日」

「はいっ」

僕はそろそろ急がないとマズイかな。スマホの時刻を見て焦り出す。次の電車を逃すとしばらくは帰れない。

「じゃあ百奈もまた」

「うん。じゃあね」

僕は踵を返して駅に一目散に走る。

何とか電車に乗ることには成功した。この路線は夕方時でも人が少ないので余裕で座れるのが唯一こ長距離通学の気持ちを楽にさせてくれる。

「それにしても、あれはどういうことなんだろう」

この学園で起こる七人の不可思議。文芸部がどうしてそんなことを知っているかは今はどうでもいい。その原因を取り除く方法はあるとはっきりあの文集には書かれていた。

それは前兆なく彼らの生活を脅かす。

「つまりは、天城さんの記憶脱落の原因はこの不可思議かもしれないということ?」

なんだか現実離れしていて、ありえないような気がしてきたけど信じてみる価値はあるかもしれない。何より信じる他ない。

「明日は文集を読み切ろう」

それを目標に僕はリュックを抱え長い眠りにつく。長時間文字を読みすぎて活字過多になってしまった。揺られる電車で眠ればきっと頭痛も引くでしょう。

それくらい、電車の睡眠は心地がいい。


「さて、今日も集まったね!部活動をしよう!」

相変わらずいつも元気な百奈の掛け声で部活が始まった。まずは、昨日と同じように文集を棚から引き出して。

そして全部を出して僕は異変に気づいた。

「ない」

昨日仕舞うまでは全て揃っていたのを確認したはずなのに、1冊足りない。

「もしかして2012年のですか?」

「うん。僕最後にちゃんと揃ってるのを確認して施錠もしたから誰かが入れるわけないのに」

どうしよう。今あの本を失ったらこれからの方策もましてや彼女を救えるかもしれない方法がなくなってしまう。

「それなら、昼休み誰かが入るのを見たかもしれません」

「それって誰が?」

「いや、そこまでは.....ごめんなさい。後ろ姿しか見れなくて。でも女性でしたよ、スカートを身につけていたので」

そんな偶然があるのか。たまたまこの部屋に入ってたまたまあの本だけを取るなんてこと。

「手分けして探そう。あの本は天城さんを救えるかもしれないんだ」

「それってどういう意味ですか?」

「あの本にはこの学園の不可思議な現象について書かれている」

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