文芸部の活動

放課後、部室に集まったのは残念ながら三名だった。

やっぱりフラグは建てるもんじゃない。

「それで?静は補習だから置いておくとして。茜は部長なんでしょ。ほら、進行しないと」

四人席の机に並んで座っていた僕は無理矢理ホワイトボードの前に立たされる。

このホワイトボードは部活存続の規定人数に達したらしいので祝い的な感じで幽霊顧問が倉庫から持ってきてくれたものだ。なので若干古いが使う分には全然現役だ。

「と言われても。僕だって部活で何かを出すなんて初めてだから」

「でも、去年から所属してるんじゃなかったっけ?」

まぁそれはそうなんだけど。去年は、無くなると思われていた部活に急に僕みたいなやつが入ったせいで秋まで顧問がいなかった。だから文化祭での出し物も免除されていたわけなんだが。

「今年はしっかり部費も出ちゃったからなぁ」

去年は1円たりとも舞い込んで来なかった部費だが、今年はちゃんとあった。それを知ったのは5月頃の生徒総会での予算案の時なんだけど。

「じゃあ別にこと部活が文化祭で何してたのかは分からないってこと?」

「いや、それなら分かる。そこの古い本棚あるでしょ。あの1番上の棚は代々文芸部が出してきた文集だよ」

そういうと百奈は立ち上がって何冊か文集を引き抜く。同時に埃が舞って僕は慌てて窓を開ける。

「ちゃんと取る時は言ってよ。僕、アレルギー持ってるんだから」

「そうなの?ごめん」

「いやいいよ。それより、それが最新号?」

「そうみたい。2012年10月号」

それ以降の年にも部員はいたはずなのに、何故か文集だけはその年で止まっていた。

「もしかして、まだ抜けがあるんじゃないの?」

「私は机に置いていきます」

「ありがとう天城さん」

それで3人で分担して数えたが、結局なんの抜けもなく創刊号から最終号(仮)まで揃っていた。

「逆にここまで来ると歴史を感じるね」

積み重ねられた文集はゆうに50は超えていて、この学校の歴史の深さと脈々と受け継がれた部活であると再認識する。

「じゃあ、問題の2012年のを開ける?それとも、創刊号から見ていく?雨音ちゃんはどっちがいい?」

「えっ?.....そうですね、創刊号からの方がいいんじゃないですか。今年はこの文集を私達も作るのなら、どんな風にこの文集が生まれたのかっていうのは知っておくべきな気がします」

「うわぁ、真面目!でも確かに。私達が文集について知らなかったら、それを私達が作って売るなんて夢のまた夢だもんね」

「そういうことだ。だけど、さすがに量が多すぎる。何十冊かで分担しないか」

「なら私が1番古いヤツにする。分かりやすそうだし。雨音ちゃんは?」

少し戸惑いながら、時折こちらを伺うようなめくばせをしたがやがて彼女の後に続く号を担当することにする。

つまりは

「なんで2012年で止まっているのかは僕がちゃんと読み解けってことですね.....」

「そういうこと〜」

「ごめんなさい」

別に謝らなくていいよ。と天城さんは宥めるが、百奈には普通に彼女を誘導して僕にこれを選ばせようとしていたのではないかと疑り深くなってしまう。

ただ、僕の担当は2012年がある以外には他のより少ない。つまりは例の号をちゃんと読めってことの裏返しでもあるわけで。

「じゃあ読もうか」

ある程度埃が落ち着いて窓を閉めて、すぐに扇風機を強でかける。じゃないと暑くて溶けてしまいそうだ。

さて、一体どんなないようなんだろうか。

こういうものを読むのはなんだか漫画の続きを読むような楽しみを覚える。

2000年、第63号。僕はゆっくりとページを開いてみる。まだ携帯が普及しているかしていないかの時代だろうか。手書きの文章がコピーされている。これも時代だろうか。

隣を見ると、2人とも文集に集中していた。僕もこの文集を読み出したい気持ちが高まっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る