Chapter17 鬼チームの屈辱

 宝塚──そこは、孝之の地元である。

「……はっ?」

 やっと言葉を絞り出したようだ。おそらく、本人はかなり目を丸くしている。

「いや〜、孝之くん。そりゃあ驚くもんね。なんせ、ここは君の住んでる街なんだから」

 まるでドラマの悪役のような口調で俊樹は言った。「お邪魔させていただいております〜。すんまへんっ」

「宝塚なら阪急やろ?」

 充が言った。「俺、十三でずっと待機してたで。しかも、乗車報告の時刻の便は阪急の3路線にはなかった。──お前、まさか、チートしたんか⁉︎」

「いや、それはさすがに天にも誓ってやってない」

 孝之が口を挟んだ。

「充、宝塚へのアクセスは確かに阪急のイメージが強い。でも、もう一つ、手段がある」

「もう一つの手段……?」

「──JRの宝塚線や」

 福知山線、通称JR宝塚線は、兵庫県尼崎市の尼崎駅から京都府福知山市の福知山駅までを結ぶ路線で、路線距離は106.5km。大阪と北近畿、さらに山陰地方とを結ぶルートの一つである。

 JRと阪急の宝塚線。この2つは、最初はそれぞれ違う場所(阪急は梅田、十三駅を出ると、大阪府豊中市を通る。JRは尼崎駅を出ると大きく右に曲がり北上する)を走っているが、やがて兵庫県川西市で線路が接近。そして、お互い並走して宝塚まで向かうのだ。ちなみに、JRの宝塚駅と阪急の宝塚駅は隣接している。

 先ほど、時刻の報告があった際、孝之は俊樹が乗車していた区間快速、篠山口ささやまぐち行きの存在を確認していた。

 しかし、

「乗ってる可能性は低いな」

 と、結論付けた。

 それが失敗だった。

「くそぉぉぉぉぉ」 

 アイファンの向こうから孝之のとても苦々しい声が聞こえてくる。それに対して……、

「いや〜、ありがとうございますぅ。まんまとね、僕が仕掛けた罠にハマっていただきまして。はい〜」

 俊樹の煽り方がウザすぎる。「いや〜それにしても、ええ街ですなぁ。空気が、あ〜、2人が引っかかったことを知った後に吸う空気がマジで美味い!」

「そんなん、どこで吸っても同じやろ」

 充のツッコミが飛び出す。それに孝之が同調。「ほんまや、空気なんて同じやわ」

 さらに……。

「うわ〜。こいつ、腹立つことしてくんなぁ!」

 相変わらずビデオ通話状態にし、俊樹は2人に宝塚駅前にあるパン屋で購入したパンを食べる様子を見せつけてきた。孝之はこれに苦笑いである。

「う〜ん! とても、生地がもちもちして柔らかくておいしいです!」

「食リポすんなアホ」

 煽りスキルレベル9999だ。

「いや〜、あの皆さんもね、もし食べたかったら、今から宝塚へ来たらどうですぅ? まっ、でも、その時には僕はすでに逃げてますけどねっ」

「俊樹」孝之が言った。「俺のおじさん、兵庫県警やから、お前のこと指名手配してもらうわ!」

「大阪府警と兵庫県警が今全力で君のことを追ってます」

 と、充も悪ノリ。

「今の俺の気分は、あの天下の大怪盗、・ルパンやからな。捕まりませんのでー」

「お前ちゃんと言えとらんやんけ!」

「ゑ」

 正しくは『アルセーヌ・ルパン』。

「ま、まぁ、捕まらんから! ほいじゃっ!」

「あっ逃げたぞ!」

 俊樹の電話が切れてしまった。「どうする、充?」

「ただただ、煽られて終わったからな。仕方ない、これはもう仕方ない。作戦を練り直そう」

 2人は、必ず大泥棒を逮捕するという決意の元、作戦会議を行なった。



 ☆次回 Chapter18 安息

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る