Chapter18 安息

「余裕ぶってたらあかんな、早く逃げへんと」

 パンを包んでいた紙をゴミ箱に捨て、大阪梅田以来のフリーチケットを財布から取り出し、阪急宝塚駅へ入場した。

 さっきの電話で、充と孝之を煽ることが出来てとても楽しかった。

 しかし、それと同時に、今自分がいる場所を晒したことになる。

 ここで止まっていても、呆気なく捕まってしまうだけだ。

「充くんは、今、十三にいる。一方、孝之くんは直通快速に乗ってた。でも、俺がいないのはすぐ気付いたはずやから、たぶん尼崎辺りにいるはず」

 電光掲示板を見ながら、1人、ぶつぶつ呟く。「そうすると、今津線でこっちに来る可能性が高いな。ここは、宝塚線に乗って、戻るか」

 次に発車するのは17時20分発の急行、大阪梅田行きである。

 既に宝塚本線の最優等種別はホームに停車していた。階段から一番近かった先頭より5両目に乗り込む。

 定刻になり、急行電車は宝塚駅を発車した。

 宝塚大劇場を右に見ながら、清荒神きよしこうじん駅を過ぎ、大阪府を目指す。

 スマホに表示された時刻を見て俊樹は細く笑った。「よしよし!」

 ゲーム終了時刻の午後6時半まで残り1時間を切った。西陽が彼の顔を眩しく照らす。

 関西でもトップクラスの難読駅名、雲雀丘花屋敷ひばりがおかはなやしき駅を出発してから10分後、急行大阪梅田行きは蛍池駅に停車していた。

 ここで俊樹は急行を乗り捨て、大阪モノレールに乗り換える。2人が追って来ている様子は、ない。

(残念でした~)

 改札を出て、俊樹はさらに口角が上がってしまった。周りの人に配慮して、発さない声で友人氏らを煽っておく。

 徒歩3分で乗り換え完了。門真市かどまし行きの列車がやって来た。

「うわ~怒ってる、怒ってる」

 乗車報告をした際に、モノレールのホームで撮った、これまた煽りの動画を送ったところ、とてもとても、良い反応だった。

 モノレールは阪急や高速道路よりも高い所を走っている。下を見ると、時間帯だろう、渋滞が出来ていた。

 安息を手に入れた俊樹に、もう怖い物などない。

 優越な気分に浸りながら、俊樹はもう優勝を確実視していた。


☆次回 Chapter19 笑う者

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