Chapter16 掌の上

「さてと」

 孝之の顔の口角が上がった。「じゃあ、先頭車に行きますか」

 先ほど確認した、乗車報告の時刻は、今彼が乗っている、阪神電車、直通特急山陽姫路行きと一致している。

 連結部分のスライドドアを開けて、前の車両へと移っていく。

 どんな風に確保しよう。

 後ろから近付いて両肩を抑える、しばらく後ろに立って突然声をかける──そして、目をまん丸にした俊樹の顔をイメージする。

 気が付けば、2号車の一番先頭まで来ていた。

 このドアを開ければ、俊樹がいる。

「どれやろ……」

 1号車に踏み込む前に、孝之は窓ガラス越しに車内の様子をうかがった。

 クロスシートが並んでいて、ロングシート車とは違い、座っている全員の顔が確認できない。

 一席一席、ちゃんと見ないとな。

 孝之はドアを力を込めてスライドさせた。


 ※


「時刻は4時半まわったけど、あいつ、捕まえられたかな?」

 その頃、充は十三駅のホームの端で列車観察をしていた。(鉄オタの性だな by 作者)

「あっ、電話」

 充は電話ボタンをタップした。「もしもし〜」

「もしもし〜」

「お疲れ。どうやった?」

 期待を含ませながら孝之に問うた。だが、

「あかんかった」

「えっ? 嘘やろ…?」

 まさかの確保失敗。「てか、失敗ってどういうことなん? 駅着いて降りられたん?」

 いや違う、孝之が否定する。そして、衝撃的な一言を発した。

「そもそも乗ってへんかったてん、直通特急に。とりあえず、尼崎で降りたわ」

 俊樹が乗っていない。

 即ち、自分たちは作戦を見誤ったのだ。

 だが、ここで疑問が一つ。

 俊樹は何に乗っているのか?

「直通特急乗ってへんのやったら、じゃあ何になる? 阪急はその時刻なかった。……じゃあ地下鉄?」

「あんなの迷路やで。無茶苦茶乗り換え駅多いし、捕まえるの難しいわ」

 頭を抱える2人。

 そこへ新たな連絡が。

「俊樹からラインや」

 充が言った。『グループラインで電話しよう〜』と絵文字付きのメッセージが送られていた。

「もしもし〜」

 グループラインでの電話が開始された。

「いや〜お疲れさまですぅ。だいぶ、疲れたんじゃないんですか?」

 聞こえてきたのは、俊樹の余裕たっぷりの声。

「うるさいな。てか、なんやねん」

 と、充が言うと、

「2人とも、俺は直通特急に乗っていると思ってると思いますが……残念! 僕はそれには乗っておりません〜!」

 俊樹の楽しそうな声。さらに「ウェイウェイウェイウェイ」と謎の言語も発してくる。

 ……ウザ。

「腹立つことしてくんな〜」

「てか、今どこやねん」

 孝之が聞く。また、俊樹が笑った。

「それはですね……」

 急にビデオ通話に切り替わった。「こちらです!!」

 俊樹が駅名看板を映した。そこに書いてあったのは──宝塚という文字だった。



 ☆次回 Chapter17 鬼チームの屈辱

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