Chapter15 俊樹の計画

 グループラインに報告をし終えると、俊樹は、スマホをポケットの中に入れ、背もたれに深くもたれた。

「天神筋橋六丁目から東梅田まで、結構かかるねんな」

 俊樹は、阪急千里線で天神筋橋六丁目駅まで行き、そこから大阪メトロ谷町線に乗り東梅田駅へ逃走する計画をたてていた。

 しかし、この駅間はこちらの想定以上に料金が高く、これを利用してしまえば、この先の逃走に影響が出てくることが発覚した。

 そこで、一度来た道を引き返し、再び淡路駅へ戻る。そこから、京都本線で梅田へ向かうことになった。

 電車は十三駅を出発し、淀川を渡る。

 大阪湾へ続く水の流れは夏の日差しを浴びて、キラキラと輝いていた。

(これからの俺の行動は、予測出来ひんのちゃうかな)

 俊樹は微笑んだ。

 壮大な計画を密かに練っていた。

 捕まらない──絶対的な自信が、彼の中にはあった。


 ※


「やっと来た」

 後続の普通電車が入線して来たのを見て、ため息混じりで言った。「ひとまず、これで梅田行こう」

「俊樹からは、まだライン来てないねんな?」

 孝之の質問に充は頷いた。時刻表通りに進んだとするならば、今頃、とっくに梅田駅に着いているはずだ。

「これは乗り換え、やってるな」

 と、孝之。「阪急の改札は出てる。これはたぶん、間違いないな」

「梅田の同時発車の時刻も過ぎてるしな」

 梅田駅の同時発車は、阪急の名物で、毎時10分に1度、京都本線、宝塚本線、神戸本線の電車が一斉に大阪梅田駅を出発する。

 この光景はかなり珍しく、関西以外の地域に住んでいる鉄道ファンがこれを見るためだけに大阪にやって来るというのは、よく聞く話だ。

「と、なると、阪神かな?」

 孝之が言った。

「阪神やろうな」

 と、充も続く。「まだ通知来てないし、地下で迷ってるんちゃう?」

「これは迷ってそうやな」

 さすがに、2人、俊樹のことを軽く見過ぎである。(怒られるぞ! by 作者)

 そして、2人はそれぞれの配置を決めた。

 孝之はこれから阪神電車の大阪梅田駅へ向かう。そして、充は阪急で十三駅へ急行することになった。

 充は再び来た道を戻る。

 神戸線の特急でたった3分で、十三に到着した。

(どっかでもこい……!)


 跨線橋を通って、他のホームへ向かっていると、ポケットの中のスマホが震え出した。

 通知だ。


 俊樹『16時28分 梅田駅 1号車』


 やはり、2人の読み通り、俊樹はまだ大阪梅田駅で止まっていたのだ。

 通知が届いたと思ったら、今度は孝之からラインだ。


 孝之『朗報。俺の今乗っている山陽姫路行きの直通特急に乗ってる』


「マジで!」 

 驚きのあまり、発した声が大きくなってしまった。


 孝之『直通特急も28分発やったから、これで間違いない。他にも、JRやメトロにもあったけど、絶対これやで』


 夢の車内確保。

 朝から行われてきたこの戦いの中で、いまだに車内確保はない。

 相手が油断している隙をつく──これほどまでに気持ちのいい確保はない。

(頼むぞ、孝之)

 充は相棒からの着信を待ち侘びた。

 


☆次回 Chapter16 掌の上

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る