Chapter14 淡路駅、再び

 15分が経過した。

 充と孝之は大阪梅田方面へ向かう電車が発着するホームに上がっていた。

「彼、逃げていったわけやけどさ」

 と、孝之が言った。「とりあえず、梅田の方行こう」

 充もそれに頷いた。

「絶対、梅田の方行ったやろな、俊樹」

 2人は揃って俊樹の逃走先が梅田方面だと予想した。

 路線の数が少なく、比較的すぐに居場所が特定されやすい京都よりも、阪急、阪神、JR、さらに8路線もある大阪メトロを含めた、この公共交通機関が、まるで網目のように線路を伸ばしている、関西最大都市、大阪の方が逃げるのに都合が良いからだ。

 孝之が意気込んで言った。

「そうと決まれば、梅田行こか」

 電光掲示板を見ると、まもなく特急が到着する。

 特急がホームに入ってきて、充と孝之は2両目に乗り込んだ。快適な転換クロスシートに腰を下ろした。

「どしたん? 緊張してるん?」

 高槻市駅を出て、車内アナウンスが掛かっている中、充はなんだか落ち着かない様子だ。

「いや、してへんで」

 充は孝之の問いに少し笑った。

 だが、再び、難しい顔へ戻る。腕を組んで、外の景色を見ていた。

 ——本当は、このゲームが一筋縄ではいかないような気がして仕方がなかった。

 さっきは、何回も逃げ手と追い手が入れ代わった。また同じようなことが繰り返される可能性もある。

 しかし、

(俊樹のことだ)

 と、充は思った。何か自分たちには思いつかなかったとても大きな策を持っているに違いない。——午前中、充がおおさか東線のを使ったように。

 特急は茨木市駅に停車した。

「みつるっ!」

 孝之がふいに興奮を抑えきれていない声で呼んだ。

「ど、どうしたん?」

「これ見てよ」

 スマホを見せられた。グループラインのトーク画面だった。


俊樹『15時55分 天神筋橋六丁目駅 3号車』


「天神筋橋六丁目……ということは千里線かメトロの谷町線やな」

 充が言った。

「調べたら、堺筋線と谷町線にはこの時間に出る便は無かった」

「ということは……」

「阪急千里線、つまり、こっちへ来てます!」

 よっしゃ!、2人はガッツポーズをした。「これは、勝ちました。ありがとうございます」

 鬼チームは位置情報から簡単に逃走者、俊樹の乗っている電車を特定した。さらに、充と孝之が進む方向へ向かって来ている。圧倒的に2人、追跡者にとって有利な展開だ。

 孝之が言った。

「淡路駅で捕まえられるな。この電車が次の淡路に到着するのが、10分後か」

「つまり、16時3分。で、あいつが乗っている北千里行きの電車が16時2分。これは完璧ですね」

「史上最速じゃない? ゲーム開始から確保までの時間」

 まだ30分も経過していない。先程、充が高槻市駅で捕まった時は、逃走してから40分だった。それがもう早速、更新されようとしている。短時間確保が確実視され、2人の顔に余裕の熟語が浮かんだ。

 しかし、その直後……。

「ご迷惑をおかけしております。現在、赤信号のため、停車しております。発車までしばらくお待ちください——」

 まさかの急停車。

「おいおい、嘘やろ……」

 頭を抱える充。「サイアクや」

 京都本線は運転本数がかなり多いことで知られている。そのため、遅延が発生しやすい。

 この電車の急停車も前に電車が詰まっているからだと思われる。

 結局、淡路駅には2分遅れで到着した。

「今日何度目の淡路駅やろ」

 人が多い淡路駅のホームに降り立った。充は午前中に仕掛けたあの時のことを少し回想する。

「とりあえず、あいつを探そう」

 と、孝之は言った。

「そやな」

 充は頷く。しかし、あまりにも人が多くてひよって、「……やけど、これ見つかる?」

「こんなん、気合いや、気合い」

「それは無理があろうかとw」

 特急が出て行ったので、少し人の数が減ってきた。

 2人は階段の方へ歩き出した。


 ピコンッ


 ラインの通知オンが鳴った。

 立ち止まる2人。

 まさか……。

 トーク画面へ入って2人は驚愕した。

「16時3分、淡路駅──ちょっと、待って! 俊樹、俺らが乗って来た特急で淡路駅出てもうたやん!」

 まさかの目の前で、容疑者を逃すという痛恨のミス。

「マジか……うそぉ、マジで……」

 朝も似たような出来事が同じ場所で起こっているだけに、孝之は驚きを隠せない。

「とにかく、あいつの後を追わな!」 

 充は言った。そして、電光表示板の案内に視線を向けた。


 ☆次回 Chapter15 俊樹の計画

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