第14話 魔法が使えるようになった!

 朝、起きて一番にカーテンと窓を開けて換気する。寝室の窓とリビングの窓を2つ開けて部屋の空気を回す。そして冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを出して、腰に手を当てて一口。体に水分が行き渡る気がする。俺が学校に行く準備をしていると、起きてきていた友人があれでもない、これでもないと騒ぎ始めた。


「あれー、どこいったんだろ」

「どしたの」

「スマホが見当たらないんだよ」

「ブレザーのポッケだろ」

「あ、見てなかったや」


 クローゼットのハンガーに掛かっているブレザーのポケットを弄って、スマホを探す友人。気になって俺も寝室を覗く。


「なんだこれ! ねえ! 来て!」

「なんだ、ってお前どうしたんだ!」


 友人がとんでもないことになっていて俺は目が飛び出すかと思った。


 なんと、友人の腕がクローゼットに掛かっているブレザーのポケットに吸い込まれている。明らかにブレザーのポケットの深さより長く腕が入っているのに、ポケットは膨らんでいないし、穴も空いていない。その腕はどうなっているんだ?


 とりあえず、急いで友人の腕をブレザーのポケットから引き抜く。友人の腕は無事だった。


「ポケットが、ポケットがね」


 大興奮の友人。俺も高速で頷く。


「ポケットが無限大になってたんだよ」


 恐る恐る、俺は友人のブレザーのポケットの中を覗く。普通のポケットだ。


「ただのポケットだけど」

「え、ちょっと待って。もう一回やるから」


 友人がもう一度ポケットに手を入れる間、俺はポケットをじっと見る。隙間から、ブラックホールのような真っ黒の空間が広がっていた。友人が、何かを掴んでポケットから手を引き上げた。スマホを手に持っている。


「あった」


 俺が触ってもなんともない。友人が触ると、ポケットが無限大になる。俺は、ちょうど近くにあった枕を友人に手渡す。


「ポケットに入れてみて」


 友人が俺から枕を受け取ると、ポケットに押し込んだ。マジシャンがやるマジックのようにポケットに枕が入っていく。外側から見ても、ポケットが膨らんでいる感じはしない。もう一度、枕を取り出した友人から、返された。


「ジャージのポケットに手、突っ込んでみ」


 ふと思い当たることがあって、友人にそう言ってみる。友人はいまパジャマ代わりに着ている学校指定のジャージにあるポケットに手を突っ込んだ。どこまでも手が入っていく。


「制服のポケットが変になったんじゃない、お前が触るとポケットが無限に入るようになる、魔法が使えるようになったんだよ! 大発見だ」

「なんで俺が魔法使えるようになるのさ」

「つまり、ある時点で学校にいた生徒が魔法を使えるようになったんじゃない。この学校に入学した生徒は、魔法が使えるようになるんだ」


 俺は、自分の手をかざして、魔法が出ないかと試す。俺には魔法が使えないようだ。いや、待てよ。俺には一つ、覚えがある。


「ちょっと抱っこさせて」

「なに、なになになに」


 俺は、友人の腰に手を回して、片手で持ち上げた。俺より背の高い友人を、軽々と。


「ほら、俺、力持ちになってる」


 俺の片腕に、友人を座らせているポーズのまま、友人に話しかける。ふらつきもしない。


「びっくりしたよ。それ魔法なの」

「バフ系の魔法だと思う」


 バフとは、元からある力をパワーアップしてくれる魔法だ。反対に力を半減させる魔法は、デバフという。主にファンタジーゲームで使われる言葉だ。


「俺が生徒会長をぶん投げたとき、俺はちょっと腕を捻っただけだった。あの時から、俺の魔法が現れてたんだと思う」

「あれ、言い訳かと思ってたよ。怒りがコントロールできなくなって咄嗟に投げ飛ばしちゃったのかと」

「そんな野蛮人じゃないぞ」


 俺と友人は魔法が使えるようになったようだ。しかし、ふたりとも攻撃魔法ではなく、補助的な効果の魔法だった。まあ、どうせ校内で魔法使うのは校則で禁止されているけど。逆にバフ魔法なら使っても気づかれないんじゃないか。


「これは大発見だな。今日は魔法について周りに色々聞いてみる」

「じゃあ俺も、生徒会の人たちに魔法について聞いてみるよ」


 というわけで、授業の合間にクラスメイトへ、どんな魔法が使えるか聞いてみた。


「俺は強いカーブが投げれるぞ」

「そういや初日に聞いたな」

「たまにキャッチボール中にカーブ混ぜてる」


 爽やかくんは強いカーブが投げられる。ありえない角度でボールが曲がるらしい。部活中にちょっと使うくらいで、部員不足で試合形式の練習はできないから、対して使い所はないという。


「試合ができたとして、フェアじゃないから使わないけどな」

「さすがスポーツマン」

「あと見られたら風紀に怒られるから、そういう意味でも使えないよな」


 そりゃたしかに。


「お前は、何使えるの」


 不良に聞くと、頭を指さした。


「学校の地図が見える。俺にだけ」

「それ一階の入り口のところにあるじゃん」

「うっせ」


 不良の使える魔法は、本当に使い道がないやつだ。


 今の今まで生徒たちが魔法が使えるようになってしまったということをすっかり忘れて勉強に励んでいたのも、みんな普段遣いできる便利な魔法なんて持っていないから、魔法の存在ごと忘れていた。


 まあ、その中で生徒会長は攻撃魔法を使っていた。そういう生徒が幅を利かせているのが問題ということだろう。


 中間テストまでもう数日。俺は勉強を頭に詰め込むとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る