めっちゃ暑い夏にアイス食べようって誘ってくる子

「君はどういう子が好きなの?」

「普通の子」

「それじゃ面白くないじゃん」

「別に好きな人のタイプは大喜利じゃないだろ」

「で、好きな人はいるの?」

「こんな馬鹿みたいに暑い日にお前とアイス公園で食ってる時点で全部お察しだろうが」

 車の声よりも、子供の声よりも、蝉の声が耳を劈く八月のある日。毎日のように記録的猛暑を記録し、体温よりも高い気温が支配する都市郊外の住宅街の一角で、僕たちは溶けていた。比喩ではなく、文字通り溶けそうになっていた。

「大体なんで今更僕がお前に好きなタイプとか教えなきゃいけないんだよ」

「いいじゃん、幼馴染なんだからけちけちしなくても」

「教えるのを渋ってるんじゃねえんだよ、何回目だよこの会話」

「そういう細かいところを気にするのがモテないんじゃないの」

 酷い言われようだった。何が悲しくてこんな酷暑の中罵倒までされなくてはいけないのか。

「大体お前が呼び出したくせにやることがこれってなんだよ、もうちょっとあるだろ。お前が声かけてこなきゃ僕は一日クーラーで冷えた部屋でゲームして気絶するだけの生活をするはずだったんだけどな」

「だって、そんなの人間の生活じゃないじゃん。夏なんだよ?」

「夏だからだろ」

「私と一緒にいるのが嫌なの?」

「外の暑さに辟易してるだけだって言ってるだろ。別にお前のことが嫌なわけじゃない」

「私と一緒にこの時期の外にいるのが嫌なの?」

「全然嫌かも」

「私も」

「じゃあ誘うなや」

 僕が怒ると、彼女は心底愉快そうに笑った。メンヘラじみた発言をしていたが、全然心は病んでいなかった。暑さに強いのか、僕を見てケラケラ楽しそうに笑っている。白のサンダルを履いた足を、これでもかとジタバタしている。あとこれは全然関係ないが、彼女がヒールのあるサンダルを履くと、身長差が埋まってしまうので気まずい。

「でも楽しいよ?私は」

「僕がそうじゃないみたいに言うなよ。不快さが勝つだけ」

「あ、ひどい」

「ひどくない。というか僕たちもう大学生だぞ。しかも2年生。小学生でも躊躇うくらいの夏休みを過ごしてるけど、もうちょっと適当に生きるにしろやることあっただろ」

 そう、もう大学生だ。しかも僕たちは二人とも成人している。20歳だ。お酒もたばこもギャンブルも許された年齢、だというのに。

 なんでパピコを半分こして直射日光を浴びているのか。皆目見当がつかなかった。

「私たちの夏といえばこうだったじゃん。忘れちゃうなんてひどいな。私はいつまでも君とこうして夏を過ごしていたんだけど?」

「そう……」

 僕がつまらなそうに相槌を打つと、隣の少女はパピコを咥えたまま胸ぐらをつかんできた。怖い。汗なのか水滴なのか分からない液体が僕の頬に落ちた。

「わはひはひまふほほーふひはんはへほ」

「咥えたまま怒るな、何言ってるかわからん」

 僕が呆れると、再びその手にパピコを戻してから彼女は言った。

「私は今!プロポーズしたんだけど!」

「お前が?僕に?」

「そう」

「なんで?」

「好きだから……」

「暑さでおかしくなったのか?」

「ひどくない?さっきから」

「だって僕たちまだ付き合ってないだろ。なんで即婚姻なんだよ。政略結婚ぐらい急じゃん。段階を踏めよ」

「じゃあ……付き合ってって言ったら付き合ってくれるの?」

「さっきも言ったけど、お前とアイス食うためだけにこんなクソ暑い中に出てきてる時点で察しろよ、断る理由ないだろうが」

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