告白したらめっちゃ警戒してくるかわいい喪女

 僕には好きな人がいる。同じクラスの図書委員の女の子。

 似合っていない丸眼鏡を掛けて、ぼさぼさの髪を乱雑にゴムで留めている。細い目つきにはあまり愛嬌はないし、誰かと視線を合わせていることもほとんどないけれど。

 自身の無さからくるそうしたいじらしさが可愛らしいと思う。素直に好きだ。


 と、昨日本人に直接伝えたところ。


「な、ななんでアンタ平然と図書館のカウンター当番来れるわけ…?」

 彼女は僕を見るなり顔を真っ赤にして慌てふためくようになってしまった。僕と目があったらすごい勢いで目を逸らしたり、廊下ですれ違う時も逃げるように行ってしまう。席が近いおかげで僅かにあった話す機会も、露骨に避けられている現状ではなかなか確保できるものではない。

 でも図書委員の当番は別だ。同じクラスの男女1人ずつの図書委員が並んでカウンター当番をすることになっている。真面目な性格の彼女がそうした仕事を投げ出すことはまずありえないので……こうして顔を合わせて話すことができるというわけだ。

「いやだって当番だし。来ないと怒られるでしょ。それに君にも会えるし」

「……っ、またそういうこと……どういうつもりか分かんないけど、私なんか揶揄っても可愛くないし楽しくもないでしょ」

「?可愛いよ。そういう卑屈なところとか、特に好きだ」

「っ、っもう……」

 顔を真っ赤にした彼女は頬を掻きながら所在なさげに視線をうろつかせている。

「騙されないから、ね……私が可愛くなんてないことは私自身が一番よく分かってるし。いつもブスだって虐められてきたし。よく罰ゲームで告白されるとかもあったから、アンタもどうせそういう……」

 ちらり。

 彼女は僕の顔を見た。

「そういう……質の悪い冗談にしては、やけに真っすぐなのが怖いんだけど……え、なんで、私?」

「なんで……って言われてもな。好きなものは好きだから」

「だって私、垢抜けてないでしょ。もさっとしてるし身だしなみとか全然適当だし……家でマンガ読んで気持ち悪い笑い方してるような女だよ」

「正直そういうのめっちゃ好きなんだよな……そりゃ垢ぬけてキラキラしてて青春してる女の子もめちゃくちゃ可愛いくて素敵なんだけど……なんか距離遠いっていうか。付き合いたいとかそういう発想に至らないんだ」

「へ……意外。アンタもそういうこと考えるんだ。私みたい」

「君も?」

「そりゃ私みたいなのは特にそうでしょ。ほら、サッカー部でみんな仲間!とかクラスマッチ頑張ろうぜ!みたいな男子ってすっごく苦手だし……いや、格好いいかって言われたら『まぁ……そうなんじゃない?』とはなるんだけど、えっと……そもそも住んでる世界が全然違うなって気持ちになる」

 心なしか打ち解けている気がする。少なくとも先ほどまでの警戒した様子は薄れて、自然体に……あ、笑った顔可愛いな。

「な、なに?なんかついてた?」

「いや、笑顔が可愛いなって」

「なっ……!もう、や、やめて……少女漫画じゃないんだから……そういうこと、誰にでも言ってるんでしょ。勘違いされるからやめた方がいいよ」

「君以外の誰にも言ったことないよ、こんなこと。恥ずかしいし」

「それ言われる側はアンタの信条に関係なく恥ずかしいんですけど!」

 見れば彼女は本当に恥ずかしそうに両頬に手を当てて顔を覆い隠している。指の隙間から細い瞳をちらりと向けて、また恥ずかしそうに逸らす。小動物みたいで可愛らしい。

「……そんなこと言われたの、初めて。自分には魅力がないってもう諦めてたから」

「それは単純に周りの見る目が無さ過ぎると思うけど……でも、僕だけがその魅力に気が付けているってことだし、まぁそれはそれでラッキーか」

「もう……アンタ本当に私のこと好きじゃん。私、ちょろいから……アンタのこと、好きになりそうなんだけど。てかもう好きかも。今まで恋愛とかやったことないから全然わかんないけど……え、どうしよ」

「…?付き合えばいいんじゃないかな。僕の彼女になってくれたら嬉しいよ」

「か……」

 一瞬フリーズして、壊れたロボットみたいな動きで僕と向かい合う形になる。どうせ図書館はほとんど人も来ない。司書の先生もほとんどは奥の書架を整理している。

 二人きりと言っていいこの空間で、彼女の心音が僕にも聞こえるような気がした。

「彼女、とか……いいの。私で。可愛くないし、家事とか全然できないし、女の子っぽい素敵な趣味とかもないけど、本当に?こうやって好きだって言ってくれてるアンタすら全然信じられなくてひねくれてるアタシなのに……なんか申し訳ない感じが」

 指をちょんちょん、と突き合わせながらもごもごと言い訳をする彼女。動揺したり照れたりして体温が上がったのか、眼鏡のレンズには汗が滴っている。

 確かに、垢抜けていない彼女だけど。

「君のそういうところが好きなんだよな、マジで……君が欠点だと思ってるところ、全部好きだよ」


「ひゃ、ひゃい……そこまで言うんだったら……その、よろしくお願いします……今日から、彼女名乗ります……えへ、えへへ」

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