家では服着ない先輩

「お家デートと言うのも乙なものだね。服を着ないで済むのが一番いい」

「先輩ってマジで馬鹿ですよね。あ、こら。脱いだ服を投げるな。あと下着は片づけてください。僕が男だってわかってるんですか」

「分かってるよ~こんだけ誘っても手を出してこないチキン野郎ということを分かってるからこんなに開放的なんだ」

 土曜日朝。暇だから遊んでくれと先輩に呼び出された。ちなみに先週の日曜もこうだったし、その前の日曜もこうだった。

 僕のことを気に入ってくれているのは嬉しいけれど、いかんせん防御力というか、他人の目を気にしていないところがある。

「僕がまともな人間だから先輩がいきなり服を脱ぎだしても落ち着いていられるだけで、他の人だったら本当に危ないですからね」

「露骨に前かがみになって言われてもねぇ……というか私が特に拒まないって明言しているのだから君はそんなに我慢せず襲えばいいのでは?年頃の男子は睡眠を削って食と性に著しい努力をするものなのだろう。据え膳を食わないとはどういう了見なのかな」

「普通の了見でしょ。先輩のことはぶっちゃけ好きですが、怖くないですか?明らかに罠ですよね」

「私をミミックみたいに呼ぶものじゃない」

「挿入したら絶対噛み千切られる」

「でも正直なところ、君はそういう異形とか好きだろう」

「よくご存知で」

「君が好きそうなものも用意しているんだ。ほら、これなんてどうだい。人間の振りをしているけど戦うときは腕がカマキリみたいになる奴」

 先輩は漫画を本棚から抜き取って渡す。本を開くと先輩の匂いがする。

 ふと先輩を見るとブラを外しているところだった。柔らかそうな乳房が惜しげもなく晒されている。大きいというほどではないにしろ、無視できない膨らみとなって存在を主張している。

「……あの、先輩。マジで俺この場所に居ていいんですか。着替えるなら席外しますけど」

「いや、着替えるってより服を脱いでいるんだよ。私裸じゃないと落ち着かなくて」

「文明に抗わないでくださいよ。現代人ですよね?」

「文明が不要なんだよ」

 とんでもない理論を言いながら、先輩はそのままショーツまで脱いでいく。大人びたそれではないのに、黒のレースが細やかにあしらわれていた。

「えい」

 先輩はそれをそのまま、生々しく体温が残るそれを僕に向かって投げつけてくる。

「それ、あげるよ。手土産として持ち帰るといい。匂いが薄れたらまた新しいのと交換するから持ってきたまえ」

 とんでもないサービス精神だった。うっすらと染みが残るクロッチを見つめながら、僕はお礼を言った。

「……あざっす」

「あ、素直に貰うんだ。そこは。別に構わないけどね。君が私で興奮しているところを想像するのは、割と気分がいいから……って本人の目の前で吸うのやめてくれる?」

「え……」

「いや……そんな心外ですみたいな顔されても。さすがに私も女の子だからね。恥じらいの一つや二つくらいは持ち合わせているものさ。なんだいその疑わしげな眼差しは」

「目の前で脱いでおいて何を言ってるんだろうな……と思いまして。僕のこと信頼しすぎじゃないですか。今すぐここで押し倒して行為に及んだっていいんですよ」

「私は構わないけれどね。ゴム?とやらもなんかいい感じの買ったし。正直言って私は君に襲われる準備だけは誰よりもしてきたつもりだよ」

「誰よりもって競合がいる前提なの頭おかしいですけどね」

「まぁまぁ、事態は常に最悪であると想定しないとね。それより、ほら、きたまえ」

 そういって先輩はあられもない恰好のままベッドに横たわる。綺麗なボディラインが惜しげもなく晒されている。若干処理が甘い腋が妙に情欲をそそった。

「じゃあ失礼します……先輩、ゴムは?」

「ん、そこに転がっているだろう。枕の方に……」

 ごそ、ごそごそ。枕の裏側を探るように手を伸ばす。胸が揺れる。染みひとつない綺麗な肌のふくらみ、桜色の先端。

「すまない後輩君」

「なんですか」

「ゴム、使う前に未開封で捨てたみたいだ。昨日」

 てへ、と舌を可愛らしく出す先輩。

「だったら今日のところは――」

 僕が先輩から離れ、床に座り直そうとすると。

「別に、なくてもいいんじゃなかろうか、とも思うわけだけどね。どうせ将来私と君は一緒になるわけだろう」

「結婚を前提に……まぁ、そうですね、先輩がいいなら僕も不満はないですけど。先輩、可愛いですし」

「……ん、悪い気はしないね」

 先輩は顔を隠して僕とは反対側を向いてしまう。顔だけ隠しているのがなんだが犯罪的で倒錯的だ。耳は真っ赤に染まっている。真っすぐに褒められると照れるのだろうか。

「先輩はいつも可愛いですね。大胆に誘っているようで、結局自分から最後の一戦は越えられないところが可愛いと思います」

「……うるさい、うっさい」

「先輩としての威厳を保ちたいのか、余裕がある人間として振る舞いたいのか。どちらにせよ強がっているのがバレている状態で強がるのは凄く可愛らしいと思いま――」

「うっさい、ばか……」

 瞬間、先輩の腕が伸びて僕の首を強引に絡めとる。半ば叩きつけられるようしてベッドへと引き込まれた僕に、先輩は噛みつくみたいに囁いた。


「なんか、そういうのやめて。かわいいとか、照れるから。普通に愛されるのとか、慣れてないの……私。聞いてる?」

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