元気そうだけど実は内側にめっちゃ病み抱えてる女の子
元気で明るい優等生。誇らしいものだとは思った。常に周りのことを見て、雰囲気をよくして周囲を盛り上げる。どんな集団であっても一人いるだけで価値のある属性だというのは理解している。
だけど、それは私にはいつでも重荷としてのしかかっていた。
元来私は明るい性格じゃない。生きているだけで苦しくて、自分では認められない存在価値を私ではない誰かに認めてほしくって、一生懸命存在しない私の殻を創り上げているだけだ。明るくなんてない、ずっと卑屈だ。自分が生きている意味なんて見いだせない。私が今日ひっそりと首を吊ったとして、一体どれだけの人間が悲しんでくれるのかな。一体どれだけの時間を悲しんで過ごしてくれるのかな。考えれば考えるほど、けろっとしている友達や先生が脳裏に浮かんでは消えていく。人間はそんなものだ。私の代わりなんて世界中にいくらでもいるんだから、別に私である必要はない。私じゃなくても同じことができる。私じゃなかったらもっとできたかもしれない。
真っ暗な部屋の中、眠れない夜に私は意味のない押し問答を自分自身で繰り広げる。癖になってしまっているから今更治そうという気にもなれない。
「あぁ…明日は確か、委員会の会議が…」
憂鬱だ。みんなを励まして先導しておきながらアレだが、明日皆を仕切って会議をやらなくちゃいけないなんて。今すぐ死んで仕舞った方が幾分か幸せなのかもしれない。私は本気でそう思っている。
「嫌だなぁ、消えたいなぁ」
死にたいというよりは、このまま塵にでもなって消えてしまいたいという表現が適切だった。死ぬというのは消えるという結果を生み出す唯一の手段だから望んでいるだけだ。他の方法ではどんなに頑張っても『無能で価値のない私』がいつまでだってついてくる。丁度足元に転がっている影みたいに。
いつかその影は私を覆う闇に変わっていくのだろうか。
だとしたら、それはいつなんだろうか。待ち遠しくて仕方がない。こんな取るに足らない私の自我なんて今すぐ消し去ってくれればいいのに。
私が初めて元気な子だと思われてしまったのは小学生5年生頃だった。たまたま調子が良くて、調子に乗って役員やリーダーなんかを引き受け続けていた時期がこの辺。
あとになって激しく後悔したのを、幼いながらに覚えている。もしあのとき「やっぱり辛いです。やめたいです」なんて言えていれば、私はもうちょっと上手に生きられたかもしれない。でも人の期待を裏切るのが怖かった。期待外れの人間だと、見切りをつけられてしまうのが何よりも怖くて、私は必死だった。
誰も手を挙げなければ私が手を挙げた。誰も声を出さなければ率先して声を出した。
教師にとってこれほど都合のいい生徒はいなかっただろう。中学校も高校もずっとそうした都合のいい扱いをされてきた。
凄いね、いい子だね、気が利くね、そういう言葉をかけてもらうたびに、少しだけ私の存在が認められた気がする。そのひと匙の快感のために、涙を流しながらみんなの前に立って私ではない私の振りをして生きている。
「ほんと、ばかみたいだなぁ」
馬鹿だった。愚かだった。
できないことをやろうとして、限界が来るのも分かっていて、それでも今更引くに引けなくなってしまった。取り返しがつく場所はもうはるか遠く。景色の端切れだって拝めない。
「……少しだけなら、いいよね」
メイク道具のボックスに混じった剃刀。ドラッグストアで数枚入りで売られているそれを一つパッケージから取り出す。暗い部屋の中でも、どこからか滑り込んだ光を捕まえたのか、鈍い光が私の目を眩ませた。
左腕の袖をまくり上げると、痛々しい傷跡が無数に顔を覗かせた。そのうちのいくつかは塞がり切っていないのか、てらてらと瑞々しい肉の色を反射している。
「…っ、はぁ…っ…」
剃刀が肌を割いて滑り込む感覚。鋭く奔るような痛みが、裂けた手首に纏わりつく。こんなことをしたって何にもならないのは分かってる。でも、どこかぐちゃぐちゃになった気持ちを吐き出せるような、そんな気持ちになるんだ。体に溜まったいらない物質を強引に掻き出すみたいな感じ。
1回じゃまだ足りない。もっと吐き出さないと落ち着かない。
死んだりはしないから安心してほしい。そんな勇気はない。毎日死にたいと願っていながら、いざロープを前にしたら泣き出しそうなほど苦しくなってしまう。死への恐怖と、死にたくないと甘えている自分に対する軽蔑とで、心が打ちのめされてしまう。
だから、これくらいは許してほしい。褒められた行為じゃないけど、それでも私が皆に望まれる私として生きていくためには必要な儀式なんだ。
手首を剃刀で切り裂くだけで私の元気な笑顔とクラスの明るい雰囲気を保つことができるんだ。何も難しいことなんてない。
いつか頑張って死んでみよう。今日は出来なくても、明日は頑張ればできるかもしれない。だから明日頑張って死ぬために、今日は眠ろう。
私は血液の滴る左手首に包帯を巻く。何年も続けているうちに、自分への応急手当が得意になっていた。明日は手当も間に合わないくらい激しく切り裂いて、こんな世界からは消えてしまえるといいな。
そしてあわよくば、誰かが悲しんでくれれば、それ以上幸せなことはない。
私は今日も、明日が来ないように祈りながら、意識を闇に放り投げる。
これが私なりの願いなのだ。どうか見逃してほしい。
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