僕にだけ暴言を吐いて絡んでくる陰キャ同級生
「おはよう、今日も気持ち悪いね」
「僕何かした?」
「うん、呼吸とか?」
僕の一日は朝早くから罵倒されるところから始まる。隣に住んでいる子はどうやらクラスで隣の席に座っている子と同一人物。毎朝何故か僕が支度を終えるまで玄関の前で待ってくれている。透き通るような白い髪を三つ編みにして後ろで纏めたおしゃれでかわいい女の子。人形みたいに整った顔立ちで、長い睫毛に彩られた瞳は真ん丸で綺麗だ。宝石が埋まっているのかと錯覚するくらい。甘えたような鼻声も一瞬で恋に落ちてしまうほどに可愛らしい。
でも、めっちゃ口が悪い。
「なんでそんなに偉そうに歩いてるのかな、お前」
僕より少し背の低い彼女は、不思議そうな目を向けながら僕を「お前」呼ばわりした。
「僕の歩き方、そんなに変?」
「ふふっ、歩き方が変っていうより、お前が歩いている方がおかしい。もっと申し訳なさそうに地を這うのが似合ってると思う」
可愛い声でとんでもないことを言っている。なんで笑っているのかはよく分からない。
「え、ショック。凹む」
「いいよ。凹んで。はやく凹んで?私はお前が凹んでる時が一番好きだよ」
当たり前みたいな顔して暴言なのかフォローなのかよく分からない言葉をぶつけてくる。多分暴言。普通なら嫌になって縁を切りたくなるような態度だ。でもこの人がとっても可愛いし、口で言うほど僕を嫌っているわけでもなさそうなので僕も特に文句を言うことはしない。
「今日も学校か。どうにかして休みにしたい。お前がここで何かとんでもないことをすればいい気がする」
「全然よくないよ。僕の名誉とかいろいろあるでしょ」
「それこそ一番どうでもいい」
酷い言われようだった。
靴を履き替えて教室へ上がる。僕の隣をぴったりとついて歩くような動きを始めるのは大体この辺りからだ。
教室のドアを開けると、同級生の友達が声をかけてくる。朝練終わりの剣道部だ。
「なぁ聞いたか?1限今日小テストかもってさ。昨日から全クラスで抜き打ちやってるみたいだし、次はうちらの番っぽい」
「え、本当かそれ。英単?」
「いや、例文の暗記テストらしい。……ってのをお前と、お前の後ろで隠れてるその子にも教えてやろうかなって思ってな」
僕はすっと後ろを見やる。そこには先ほどまで僕を散々馬鹿にしていた生き物はおらず、産まれたての小鹿のように震えている女の子がいるだけだった。
その視線は無言で「私に言及したら殺す」と訴えている。そう、彼女はとんでもない人見知りというか、コミュ障というか、陰キャなのである。僕にだけ何言ってもいいと思ってるくらい態度雑だけど。
「その子、大丈夫?お前と以外話してるの見たことないけど」
「あぁ…うん、大丈夫だよ。僕がいろいろ面倒見て……痛っ」
「?どうかしたのか」
「ううん……今思いっきり足踏まれただけ……」
「……仲いいよな、よく分かんないけど頑張れよ」
不思議そうに僕たちを見つめる彼はそそくさと自分の席に戻って文法書を開く。どうやら仲間内で問題を出し合っている途中だったらしい。
僕たちも荷物を抱えたまま自分の席に着く。
一番後ろの窓際が背中に引っ付いてるこの子で、その隣が僕。
席に着くが早いか、苛立ちを隠そうともせずに彼女は口を開いた。
「なんで私の面倒をお前が見てるみたいに言ってるの。おかしいと思わない?」
「いや別に……あ、はい、ごめんなさい。僕が悪かったよ」
「ごめんで済んだら警察はいらないんだけど。今日のお昼の定食、チキン南蛮だから代わりに食券先に買ってきてくれたら許すよ」
「うん、それはいいよ別に。どうせコーヒー牛乳買おうと思ってたから」
「じゃあそれも半分」
「いいけど、それなら新しいの買ってこようか?飲みたいんだったら」
「……そんなに飲み切れないって話。察し悪すぎない?それくらい分かった方がいいと思うし、できないなら切腹したほうがいいんじゃないの。あとちゃんと食券は二枚買ってきて」
「…?誰か一緒に食べるの?よかった、僕以外にも友達が――」
そこまで行った辺りで思いっきり脛を蹴られた。白い肌を耳まで赤くして頬を膨らませている。相当怒っている。
「……お前以外に、誰もいない。で、一人で食べるのはちょっと、寂しいから、付き合えって言ってる」
違う、照れていただけだった。彼女の照れは暴力を伴うから分かりにくいんだ。
「前から思ってたけどなんで僕だけ話してくれるんだ?君は可愛いしなんだかんだで優しいから好かれると思うんだけど」
「……あっそ、お前は私が他のやつから好かれて嬉しいんだ。へぇ」
あ、今度こそ怒った。まぁどっちかっていうと拗ねてへそを曲げた感じだ。機嫌を取り戻すのには苦労するんだ、こういうとき。
「なんで怒るんだよ。僕は君のいいところをたくさん知っているから、勿体ないんじゃないかなって思っただけで……」
「はいはい、そうかよ。でもお前はいいところなんかないからな。私がいるから生きてるだけだからな。もし誰かがお前のここが気に入った、とか言ってきても信用するな、お前は無能でゴミクズなんだから」
「酷すぎる、僕今君のこと褒めなかった?」
何故かボコボコに悪口を言われている僕に向かって、そっぽを向いた彼女は、僕にだけ聴こえる声で、どこか照れたように悪態をつく。
言葉は刺々しいのに、どうにも可愛らしいその横顔と滲む感情から目が離せない。
「……っ、ああもう、いいよ。やっぱお前、気持ち悪い。私くらいだよ、お前の存在を見逃してやる人間は。だから…………他のやつのとことか、行かないで。ぜったい、ぜったいだからね。行ったら……いやだからね。お前には私しか、いないってこと、わすれないでね」
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