休日は絶対12時間以上寝ると決めてる彼女

「ん~~~~~~」

 朝というかもう完全に昼に突入しようとしている時間帯だけど、僕は暗い部屋でベッドの上に居た。決して僕が寝坊しているというわけではない。僕がこんな時間になっても此処から動けないでいるのはそれなりに理由があった。

「おはよ…」

「ん……いまなんじ?」

 寝ぼけた声だ。とろんとしていてこちらまで眠気を誘われるようなダウナーなトーン。僕よりも少し高い体温が、抱き枕のように僕を抱きしめる。動けない。

「もう十一時。そろそろ起きる気になったりは…」

「もーちょっと。一緒寝よ?」

 言うが早いか、毛布をひっつかんで僕ごと丸め込むように被ってしまう。隣で惰眠を貪るのは僕の彼女だ。蜂蜜みたいないい匂いがする。僕より三つ年上の、少しだけお姉さん。服を全部脱いで眠っているせいで、彼女に触れているところ全部が柔らかい。だらしない姿を見ると年齢による威厳はなくなってしまうものだけれど、逆にちょっと興奮する。

「またそんなこと言って……先週は15時まで寝てたでしょ。早起きしないといけませんよ」

「いいえ~、私立文系大学生のお姉さんは高校生の君とはバイオリズムが違うのでたくさんの睡眠が必要で~す」

「あ……授業とかテストとかレポートとか、あるんですよね。それはすみません、大変ですよね……起こしちゃってごめんなさ――」

「ん~ん、別に凄い有名な大学ってわけじゃないし、楽単ばっかりとってるからめちゃくちゃゆっくりしてる~この前また1限絶起した~」

「じゃあさっさと起きてくださいよ休日くらい!」

 ぎゅっと僕を抱きしめながら頬ずりをしてくる彼女。可愛いしあったかくて嬉しいけど、触れるリアルな肢体の感覚に理性が溶けていく。わざとやってんのかこの人。

「まぁまぁ、君もこうやってお姉さんにぎゅってされるの好きでしょ?私は大好きな君を抱きしめたままいい夢が見られる。君は大好きな私に抱きしめてもらえる。これってお互いに得しかない状況じゃない?」

「そう言われると…弱いですけど」

「ふふ~そうだろうそうだろう。腐ってもお姉さんは法学部なのだ~舐めるなよ~」

「自分で腐ってるとか言いますか普通」

「腐女子だからね」

「そういうことですか」

「うん~。君がモブレされてる同人誌も描こうか迷ってる」

「もうちょっと彼氏に対して愛情とかないんですか?」

 とんでもない発言だった。初耳だよそれ。

「同人誌って最高の愛情の形だと思うよ。私が今まで頑張ってきたお絵描きとアイデアの集大成を自分の趣味として作り出すんだからね~」

「じゃあもっと純愛とかさ、あるんじゃないですか」

「え~好きな人がぐちゃぐちゃに犯されてほしいっていう性癖は割と一般的だと思うな~。泣きながら帰ってきた君の身体を丁寧に私が洗いながら上書きいちゃらぶセックスまで描くしノー問題!」

「名誉棄損とかで訴えられないのかこれ」

 絶対何らかの法律に触れてると思う。

「まぁ出来なくもないけど、得られるものと失うもの天秤にかけたら絶対得はしないし、君はお姉さんに甘いから結局お小言言いながら許してくれるでしょ。そういう厳しくなれないところ好きだよ~」

 頭をわしゃわしゃと撫でながら耳たぶを啄んでくる彼女。これは何度やられても慣れないから、毎回身体がびっくりして跳ねる。

「ふふふ、いつやっても新鮮な反応だね~。可愛いなぁ、好きだよ」

「…あんま揶揄わないでください」

「本当に可愛いのに。君と出逢えてお姉さんは幸せだよ~。毎日一緒に居たいくらい。平日も私の家に遊びに来てくればいいのに。迎えに行ってあげよっか?一緒におてて繋いで帰ろ」

「いやいやいや、いいですから、お気持ちだけ!恥ずかしいので…」

「あっははは!冗談だよ~。まぁしてほしいって言われたらできるけどね。てか学校とか行かなくてもいいと思うんだよね~。お姉さんが養ってあげればもう完璧じゃん。君はお家でごろごろしてお姉さんに毎日大好きだって教えてくれればそれでいいんだよ?お休みの日はこうやってごろごろしてさ~。いい暮らしだと思わない?」

「い、いや…すごく魅力的ではありますけど、流石に人間としておしまいな気がします。女の子にそうやって養ってもらうわけには……」

「古い考え方だね~」

「そんなことはないでしょ」

「主婦も主夫も世の中にはいっぱいいるよ~。お姉さんは有名企業の内定をすでにいくつかもらっているのだ~。暮らしに不自由はさせないよ、ね」

 お姉さんは僕の首筋に唇を当ててキスマークを付ける。滅茶苦茶目立つからそこにつけるのやめてっていっつも言ってるのに。

「だから君、私が一緒に居ないとダメになってほしいな~。お姉さんも君が一緒じゃないと毎晩泣いちゃうしお薬もいっぱい飲んじゃうしリスカもしちゃうけど、一緒にいてくれたらとっても幸せだからさ~。美味しいもの食べさせてあげるし愛情もいっぱい注いであげるよ。いっぱいデートもできる。ね、こんな優良物件、永住するしかないでしょ?」

 じっとりとした声音で彼女は微笑みながら、今度は僕の首筋に噛み痕を付ける。びっ、と千切れるような痛みが首を襲った。まるで僕に存在を刻み込むみたいだった。


「お姉さんがいっぱいダメにしてあげるからさ、お姉さんの為だけに生きてほしいな~。君はいっぱいお姉さんとこうやっていちゃいちゃして、ぐっすりねむる。それだけで幸せな人生が決定するんだよ。えへへ、楽しみだね~。これからの人生、いつまでも一緒にいるんだったらさ、いっぱい眠ってもまだまだ時間はあるんだよ。だから一緒に寝よ~。愛してるぞ~」

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