第3話

「急いでください、時間がありません」


 大きな砂時計を抱えた男の子、タイムキーパーのリマが、ドリィとユメミを急かす。

 砂時計の砂は、半分以上が下に落ちている。


「その砂が全部下に落ちたらどうなるの?」

「『ナナ』が来ます」


 ユメミの問いに短く答え、リマは少し離れたところで散らばった記憶の片付けをしているタムと、チョイスした記憶をカートに集めているイラの元へと向かい、同じ言葉を2人へと伝えている。


「急いでください、時間がありません」

「あーもう無理っ!こんなのすぐになんて、片付かないしっ!」

「これでいっか」


 小さく呟いたイラが、カートに集めた記憶を構成担当のユリに引き渡す。

 受け取ったユリは、カート内のボールを、すぐ近くの淡い銀色に輝くマシンの中に全て放り込み、モニターに目を向けると、うめき声を漏らして頭を抱えた。


「・・・・冗談でしょっ?!こんなの、どうやって・・・・」


 その様子を横目に、ユメミは記憶の丸いボールを拾い上げて手渡しながら、ドリィに尋ねる。

 ボールの中の記憶が見られないユメミは、ボールを拾い上げてドリィに渡す事しかお手伝いができない。

 手渡されたボールの記憶を確認したドリィが、古い順に記憶を棚に並べていく。


「ねぇ、ドリィ。『ナナが来る』って、どういうこと?」

「ん?あぁ、もうすぐ『ナナ』が夢を見る時間が来る、ってこと。つまり、眠る、ってことだね」

「そっか、もう、そんな時間なんだ・・・・あれっ?じゃあ、わたしは・・・・?」


(そういえばわたし、今どうなってるんだろう?)


 同じ事に気づいたのか、ドリィは手に持っていた記憶の丸いボールを棚に収めると、軽く握った右手の拳を開いた左の手の平でポンッと受け止めた。


「そっか、そうだね。ねぇっ、シキっ!ちょっと頼まれて~」


 言いながらドリィは、ブラブラと近くを歩いていたシキの元へ小走りに駆け寄ってシキを捕まえると、何やら真剣な顔で話を始めた。

 捕まえられたシキは、最初こそ怪訝そうな顔をしてチラリとユメミの方へ目を向けたが、最後には新しい遊びを見つけた子供のように目を輝かせ、ニコニコと人懐こそうな笑顔を見せる。


「じゃ、そゆことで。頼むよ、シキ」

「うん、頼まれた」


 ユメミの視線の先で、シキのすぐ隣に、もう1人のシキが現れた。

 そして、ドリィの姿と共に、現れたばかりのもう1人のシキの姿はすぐに消えてしまった。


「あれっ?!」


 何度か瞬きをし、キョロキョロとしていると、ユメミのすぐ目の前にドリィだけが姿を現す。

 何が起こったのか分からずポカンとするユメミの姿に、ドリィは可笑しそう笑いながら言った。


「ユメミの事はもう心配ないよ。シキに任せて置けば大丈夫」

「それは、どういう」

「とりあえず、早くこの記憶を片付けないとね」


 ユメミの問いには答えず、軽くウィンクをすると、ドリィはすぐ足元の記憶のボールを拾い上げた。


『ゆめつくり』の部屋には、まだまだ記憶のボールが大量に、あちらこちらに散らばっている。

 けれども、そのボールを片付けているのは、タム1人。手伝っているのは、ドリィとユメミの2人だけ。


「なんで他の人は手伝ってくれないの?」


 素朴な疑問を口にしたユメミに、ドリィは驚いたように片付けの手を止めてユメミを見る。


「手伝うわけないでしょ。これは、タムにしかできない仕事だし、彼らには彼らの仕事がある。それに、彼らの仕事がどんなに大変だって、タムには彼らを手伝う事はできないからね」

「・・・・そうなんだ」

「あっ、僕は別だけど、ね?なんたって、僕は夢の妖」

「来ますっ!」


 ひときわ大きなリマの声が、『ゆめつくり』の部屋中に響き渡る。

 マシン近くの椅子に腰かけて船を漕いでいたクスがリマの声に飛び起きて、目の前のボタンに指で触れると。

 部屋が真っ暗になると同時に、部屋の奥の舞台がぼんやりとした光に照らされて浮かび上がった。

 そしてその舞台の上には。

『ナナ』の姿があった。

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