第4話

「ナナっ!」

「あっ、マユミ!」

「ねっ、今日の肝試しね、ナナの大好きなキタニ君も来るんだって」

「えっ、肝試し・・・・?」

「ほらほら、早く行くよっ、例の心霊スポット。楽しみだねぇ」


 ユメミが見つめる舞台の上では、どうやら眠りについた『ナナ』の夢が始まったようだった。

 マユミは、ユメミとも仲の良いナナの友達。

 シキがマユミに変身しているようだ。どこから見ても本物のマユミにしか見えない事に感心しながら、ユメミは『ナナ』の夢の舞台を静かに見守る。


(そうだね、ナナはキタニ君の事大好きだもんね・・・・でも、ナナ、怖いの好きじゃないはずなのに、大丈夫かな・・・・)


 やがて舞台上の照明は薄暗くなり、不気味な音が響き始める。

 効果音担当のメアが、ユリの構成に合わせて音を当てているのだろう。


「キャッ!」


 悲鳴が上がった舞台上には、複数の蝙蝠が飛び交っている。

 生き物担当のツンが、分身して蝙蝠に変身しているのだ。


「ナナちゃん、大丈夫っ?!」


 すかさず、キタニ君がしゃがみこんでしまった『ナナ』を抱きかかえるようにして立ち上がらせる。

『ナナ』はうっすらと頬を染めて、キタニ君を見つめていた。

 この、いつの間にか現れた『キタニ君』は、イケメン担当のノイが変身しているのだろう。どこからどうみてもキタニ君にしか見えないのはすごいと、ユメミは感心しながら舞台上を見つめていた。


(今日のナナの夢はキタニ君とのラブラブバージョンなのかな?ふふふ…こんな夢を見るなんて、ナナったら可愛い)


 そう思ったものの、二人がいるその場所は、何やらおどろおどろしい雰囲気が漂っている、古びた墓所。

 流れているBGMも、決してロマンチックなものではなく、恐怖をあるような音楽。


(なんかこれ、少し前にナナが『怖くてもう観たくない』って言ってた映画と、似ているような・・・・?大丈夫かな、ナナ)


 そう、ユメミが思った瞬間。


「ナナちゃん、おいで・・・・俺タチのトコろニ・・・・」


 にっこりと笑って手を差し出したキタニ君の顔が、次第にドロドロと溶け始め、肉片の間から骨が見え始めた。


(やっぱりこれ、あのゾンビ映画のっ?!)


「やっ・・・・やめてっ、来ないで、キタニ君・・・・きゃあぁぁぁっ!」


 後ずさりしながら、必死にゾンビになったキタニ君から逃れようとする『ナナ』の足元。

 石畳が勢いよく吹き飛ぶと、中から現れた骨だけの手が、『ナナ』の両足をガッシリと捕まえる。


「いやぁぁぁぁぁっ!」


 部屋中に『ナナ』の叫び声が響き割った直後。

 突然、部屋の中に明るさが戻った。

 眩しさにユメミは思わず目を閉じてしまったが、再び目を開けた時には、舞台の上に『ナナ』の姿は無かった。



「時間が余っています」


 タイムキーパーのリマの持つ大きな砂時計は、四分の一ほどが下に落ちた状態で止まってしまっていた。


「ちょっとユリ、なにあの構成は」


 呆れたようなドリィの言葉に、ユリは苛立った顔を向ける。


「仕方ないでしょ、文句ならイラに言ってよね。あんな記憶素材でまともな夢なんか作れる訳が無いんだからっ」

「・・・・記憶が散らばり過ぎてて、欲しい記憶が選べない」

「なによ、あたしが悪いっていうのっ?!仕方ないでしょっ、こんだけ記憶が散らばっちゃってるんだからっ!こっちだって一生懸命片付けてるのよ!ドリィもこの子も全然使えないしさぁ」


 ユリの言葉にイラが反論し、そのイラの言葉にタムが抗議の声を上げる。

 そして。


「・・・・ていうか、そう言えばなんでこの子がここに居るの?この子、ユメミでしょ?『ナナ』の友達の」


 タムの言葉に、シキを除いた残り7人のユメツクリたちの目が、一斉にユメミへと向けられた。

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