第29話「襲撃」

”最近多いんだよ。不当解雇された腹いせに事件を起こす奴。

そりゃあそいつらが悪いと思うが、正直憂さを晴らしてくれているなんて気持ちもあるね。

撃たれた金持ちは治癒魔法で治してもらえるけど、気まぐれで解雇された方は首をくくるしかねぇんだから”


とある期間工(匿名)のインタビューより




ランカスター南地区、賢神公園


 スーファは躊躇なく公園広場に飛び込み、立ち木で遮蔽で取っている暴漢に【睡眠スリープ】の魔法を撃ち込んだ。暴漢は糸が切れた人形のように両膝を突き、倒れた。

 あと7人!


 懐に飛び込んでまとめて片付けてやろうと思っていたが、公園の立ち木が邪魔になって全員を巻き込めない。魔法薬弾丸はあと4発。

 こちらに集中した銃火を【障壁シールド】で跳ね飛ばし、さらに2人を撃ち倒す。これであと1発。

 スーファの愛銃〔パピードッグ〕は低威力と引き換えに連射機能ダブルアクションを持っている。ハンマーを射撃の度に起こさなくても、引鉄さえ引けば次弾が発射される。

 敵はまだ5人!


 視界の端に合った噴水の陰から、9人目が姿を現す。

 でかい拳銃を構えた女の子だ。どうやら暴漢たちと撃ち合っていたのは彼女らしい。

 ハンマーを起こして1発射撃する。基礎はなっているが実戦は初めてと見える。動揺のせいか上体が安定していない。


「伏せて!」


 スーファは暴漢たちと女の子の間に滑り込み、再び【障壁】を展開。今度は攻撃を行わないでリロードを行う。スーファの〔パピードッグ〕リボルバーは素早い装填が出来ない。一発一発スライドを押し上げて空薬莢を排出した後、改めて弾を込める。

 それでも、熟練のスーファは【障壁】が切れる前に全5発の装填を完了していた。


(しかし、面倒ね……)


 残り6人を叩きのめすことなど造作も無いが、彼女をこれ以上戦闘のストレスにさらしたくない。連れて逃げる事も考えるが、暴漢たちを放っておけない。

 かと言って、雑兵相手に大技を使ったらってしまいかねない。


「やあ、助けは居るかな?」


 地味に困難に直面した時、スーファの【障壁】に滑り込んできたのはそう、意地悪な怪盗スパイトフルだ。

 彼はスチームガンを正面に向けると発砲、新たな【障壁】が展開された。


「傷つけないで制圧する方法、ある?」


 こともなげに尋ねると、ユウキ――スパイトフルは大げさに肩をすくめて見せた。


「君さぁ、銃を持った大人数と戦ってオーバーキルになるとか、今までどんなヤバイ相手と戦ったきたんだ?」


 それは人の事は言えないだろうに。

 どうやら、こちらの意図を読まれたらしい。悔しいが今回ばかりは歓迎しよう。


「別に、大した相手じゃないわよ。マフィアとかメンテナントテロリストとか死の商人とか、そう言うの」

「そんなのを『そう言うの』でくくるかねぇ……。まあいい、オレは雑魚向けの集団魔法を使えるから、奴らの注意を引きつけてくれ」


 返事の代わりに、横に跳躍した。

 敵は亀のように頭を下げて攻撃に出てこない。命中しないと発動しない【睡眠】では無理だ。スーファは新たな魔法を選定する。


閃光フラッシュ】!


 残り全弾に魔法を込めて、容赦なく撃ち込んだ。

 激しい光が暴漢を包み、その視界を奪った。


「サンキュー! あとは任せなよ」


 スパイトフルがポーチから取り出したのは、ショットガンの弾ほどある巨大な薬莢3つ。それを3発全て義手に装填する。つまり、通常より強い魔法が、3倍の威力で襲ってくることになる。


(本当に殺さずに済むんでしょうね!?)


 内心で悪態をついても、任せた以上信じるしかない。

 まあ大丈夫だろうと楽観している自分もあるわけだが。


放射レディエーション

電撃エレキ

必殺フィニッシュ


 スパイトフルが魔法を魔法薬パウダーを撃発させる度、そのイメージが脳内に伝わって来る。

 大威力魔法の弊害だ。使用する魔力が強すぎて、スチーム・アーツ魔導蒸気機関の詠唱を他のアーツが受診してしまう事がある。集中力を割く事である程度抑える事も出来るが、使用する魔法薬が多すぎてコントロールしきれなかったのか。いや、凄い魔法を自慢したかったように思えた。

 いずれにしても、あの規模の魔法をそうそう模倣は出来まいが。


『リミットブレイク【電磁ウェーブ】!』


 スチーム・アーツが魔法の発動を告げる。その瞬間、義手から白い蒸気が噴出し、スパイトフルが高く高く跳躍した。

 黒衣の魔術師は、敵陣の中央に着地、拳を大地に叩きつけた。


 衝撃波のように稲光が走った。


 暴漢たちは激しく痙攣した後、魔力切れを起こしたロボットのように棒立ちになり、やがて次々に崩れ落ちた。


「どうよ? どうよ?」


 義手をぶんぶん回しながら、自慢げに聞いてくる悪戯者。子供か。

 付き合っていられないので背を向け、暴漢の状況を確認してゆく。


「どうやら、死者は居ないようね」

「最低出力で撃ったからな。君が相手なら出力を上げるか他の魔法を使うぜ?」


 あーはいそうですか。

 暴漢たちを武装解除する。スチームガンのフレームを折り曲げて弾倉を覗き込むと、中身は実弾だった。


「どうやら、殺す気満々だったようだね」


 実弾は魔法薬のような多彩な攻撃は出来ないが、魔法の修練を必要としない。最大の利点は疲労に関係なく撃ち続けられる事。魔法は発動に疲労が伴うからだ。

 そして、魔法のように手加減は出来ない。


「身なりからするに、工場労働者ってとこかな。解雇されたとか低賃金に耐えられなくなったとかで犯罪に走る奴はいる。憂さ晴らしにテロでも起こそうとしたのか、あるいは良家の子女を誘拐して一発逆転を狙ったのか」

「……酷い話ね」


 仮にそうだとして、こんな行いを看過するわけにはいかない。実際人が撃たれているし、あの警官だって家族や友人がいるだろう。


「そうだ、あなた回復系の魔法は?」


 スパイトフルは再び肩をすくめる。苦笑気味に。

 あーはい、そうですか。この火力バカめ。


「私は向こうで撃たれた警官に応急処置をしてくるから、あの女の子をお願い」


 不安げにこちらを見つめる少女に視線をやる。彼女も不安だろうし、フォローがいる。くれぐれも変な気を起こすなよと釘も刺して走り出した。

 不安だが、人命優先のスタンスは崩すべきではない。


 案の定と言うか、この後起きる事に臍を噛む事になるのだが。

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