第30話「瓢箪から駒」
”最近は多いようですよ。ブレイブなんたらの追っかけ。
うちの生徒でも、仲間になりたいとか結婚したいとか。何なんでしょうね? ああいうの”
とある高等部教師のインタビュー
「スパイトフル!」
両手を広げて歓迎する少女はユウキ、ではなくスパイトフルの
それはまあ都合がよいと言えるのだが、問題は彼女が知り合いだという事だ。
「や、やあ。無事だったかい? 美しいお嬢さん」
演じる軽口も、どこか上擦っている。
青髪の少女は天敵なのだ。ユウキ・ナツメにとって。
「あの、ありがとうございます。私はオリガ・バラン。その、握手を」
荒事を経験していない人種でも、ショッキングな体験を受け止めたり受け流したり出来るものがいる。張り詰めた精神状態を自らに課す事で成されるが、それ故だったのかもしれない。
「ああ、いいよ。もうすぐ
彼女はスパイトフルの義手を嬉しそうに握りしめる。
ユウキの時と比べたら偉い対応の違いだが、それ以上に装いが別人である。
袖が皮のジャンパーにホットパンツ。靴は下げ下ろし品であろう軍用ブーツで、ジャンパーの懐からは大型
何処へ行っても恥ずかしくない不良スタイルだった。
「あの、何故あなたが?」
確かに、自分が彼女の立場ならそう尋ねるが、「たまたま通りかかった」と言うのは恐ろしく胡散臭い。事実であるとは言え。
「やはり、父を探っていたのでしょうか?」
父?
一応調べた事によると、彼女の父親は公務員だった筈だが……。
「何故そう思うんだい?」
悪い癖で、相手が尻尾を出したら引っ張りたくなる。
曖昧な言葉で水を向けてみた。
「それは、父が逓信省の官僚だから……」
そこで思い出した。
オリガの父親――
「でも、諦めた方が良いと思います。父は私が誘拐されても法に則って見捨てるだけです。増してやロックンロールやアニメソングなんか、眼中にないんです」
いまのやり取りだけで、大体事情は分かった。
父親の変節で、彼女は肉親を憎まねばならなくなった。
彼女の尖ったスタイルも、その反発だろう。恐らくは。
だがここは、乗っておいた方が良さそうだ。
判断してしまえば後は早い。
「詳しい話を聞かせてもらえねぇか? それで助けた貸しはチャラってわけ。どうかな?」
「また会ってくれるのですか!?」
予想以上の食いつきである。
とは言え流石にこの格好でお茶するには問題があるだろう。
「オレが会いに行っちゃ足が付くからな。仲間に接触させる」
「……そうですか」
彼女は露骨に落ち込んで見せた。
無責任に思う。頑固者の後輩像がどんどん崩れて行くなあと。
「まあそう落ち込みなさんな。そいつを通して連絡がつくようにしておくさ」
「本当ですか!」
前のめりになるオリガ。すっかり忠犬だ。その信頼が怖い。
「こちらから接触する。『アホイ』と話しかけられたら、『アホイ』と返してくれ」
「アホイ」とは船乗りの挨拶だ。よく悪ガキが海賊ごっこで使うが、普通学生は用いない。
選んだ言葉に他意はない。ただ、お気に入りの児童文学で、主人公たちが声を掛け合うのだ。
オリガは、神妙に頷く。
さて、そろそろ時間切れのようだ。
「動くな!」
警官隊を引き連れた怖い怖い探偵さんが、こちらにスチームガンを向けてくる。
それはそうである。市民の危機だから手を結んだが、それが終われば絶好のチャンスだろう。もちろん自分を逮捕する。
「やあ、お勤めご苦労さん。女の子は無事でしたよ。褒美の口づけも賜った事だし、オレはお暇しようと思います」
いつもの軽口のつもりだったのだが、オリガが真っ赤になって顔を隠したのは予想外だった。
「あなた! 女の子に何てことを!」
「……すみません冗談ですごめんなさい」
即行で頭を下げた。我ながら弱いが、探偵さんが怖いのだ。
その間にも警官たちはぞろぞろとやって来る。ここでもう一戦交えても良いが、長期戦は正直不利である。無理しなくても、再戦の機会はすぐやって来る。
「分かった! 投降する。武器をそっちに渡すぜ?」
スパイトフルはしゃがんでラビットガンを石畳に置き、警官隊に向けて滑らせた。若い警官がひとり、拾い上げようとする。
「駄目! 目を塞いで!」
スーファが騒ぐがもう遅い。
発動させていた遅効性の【
警官の半数以上は目を抑えて悶えている。
目をやられなかった者も、閃光をやり過ごす為にスパイトフルから視線を外した。
『【
強化魔法に任せて警官隊に突進。かっさらうようにラビットガンを拾い上げ、疾走する。スーファも【加速】を発動させるが、助走が付いている分だけこちらが早い。構わず走り続ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます