第21話 その日から


あの日から数週間が経った。それでもあの緑の目を忘れることが私には出来なかった。


「はぁ……私らしくもない……」


そう呟いた言葉は一人でいるこの部屋に虚しく響いた。私は軽く頬を叩きゆっくりと息を吐き立ち上がれば部屋を出た。


「お嬢様。なにか御用でしょうか?」


「いいえ。大丈夫……少し庭に出るわ。」


「かしこまりました。御用の際はお呼びください」


「ありがとうリート。」


私はそう告げて庭へと出た。空は曇っていて今にも雨が降り出しそうな天気だった。その空はまるで私の心まで写しているようで私は小さくため息を吐いた。こんな気持ちなんて初めてで。それもまさか人間相手にこんな気持ちになるなんて……予想外で想定外。


「……一族に顔向け出来ないじゃない……人間相手にこんな……あーもう!全部あの神父のせいよ……!」


私はそう呟き頬を軽く叩いてあの神父の目を忘れる事にした。そうでもしないと私はどうにかなってしまいそうだったから。



屋敷に戻り、リートには「部屋に居るわ。後で紅茶をお願い」とだけ告げ私は部屋のドアを閉めた。写真に映るお父様やお母様、そして大好きだった妹……私はそっと写真を撫でたあとそのままベッドへ寝転び目を閉じた。




この気持ちにそっと蓋をするように……。

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