8 ダビデスーツ

 次戦の相手をこともなげに屠った早坂進一は、ゲームアウトの条件である三人目の対戦を迎えようと、リング上から客席に向けて物色の眼をめぐらせていた。

 ふと志摩みつるが目配せしていることに気づいた。視線の先には長身の男が立っていた。早坂と同じ覆面すがた――。男は、早坂の眼が触れたのに気づいたのだろう、左手を頭上に伸ばした。早坂が応えて指名のシグナルを送り込んだ。挑戦者はゆっくりとリングに歩み寄ってきた。囃し立てる下卑た歓声に似合わない、泰然としたうごきだった。それ故に手強さを感じさせた。ロープを一跨ぎにしてリング上に立った挑戦者に向けて、リングサイドからカエストスが投げ込まれた。男は手に取るとリングの外へと滑らせた。自信があるのだろうか、早坂同様、素手で勝負する意思表示だった。早坂が身構えた。

 3戦目は、早坂のロングフックではじまった。それを後方に上体を逸らせるスウェーでかわした挑戦者は、バックステップで態勢を立て直すと、早坂の追撃のフックを、右、左と、長身としては珍しく、腰を深く落したウィービングでかわしていった。

(もしや?)

 長身の割に接近戦が得意なのでは、と直感した直後だった。眼前から突如すがたを消した挑戦者は、次の瞬間、大きく腰を沈み込ませた態勢から、強烈なアッパーカットを見舞ってきた。拳が顎をとらえた。早坂はたまりかねて後方に腰を落とした。両手を後方に立てててぶるぶる首をふった早坂は、出鼻をくじかれたことに気まずい表情だった。しかしダメージは小さかった。挑戦者の追撃のパンチを、長い脚の股間をすり抜けてかわした早坂は、相手の後方へと回り込んでから素早く立ち上がった。追い詰めていたものに逃げられた挑戦者は、取り逃がしたものを再び追い詰めようと踵を返した。リングの中央で臨戦のポーズが対峙し合った。両者の全身が汗で白くひかっている。共にガードを上げた状態のにらみ合いがつづいた後、バックステップして距離をとった挑戦者は、早坂を中心にして、左右へのステッピングの動きに変わった。接近戦から一転してフットワークを生かした動きに変わったのだ。ひらりひらりと飛翔の軌跡を変化させ、外敵の眼を攪乱する、美しい胡蝶の舞いのようだった。

 早坂は構わずにその飛跡に迫った。接近してくる相手にむけて、挑戦者は長いリーチを生かしたジャブを放ってきた。衝撃はそれほどでもないのだが、攻守を合体させた巧みな戦術に戸惑う早坂だった。表情に焦燥の色が滲みはじめた。

「何しているのよ!」

 志摩が叱咤のことばを飛ばした。脳内戦士になろううという男が、こんなところで苦戦しているわけにはいかないのだ。決意した表情になった早坂は、両拳を胸のあたりで二度、三度突き合わせた後、リング中央でシャドーボクシングの動きをはじめた。身体に残されているグリコーゲン貯蔵エネルギーを推計し、それを全て使い果たす作戦に出ようとしていたのだ。乱打の戦術だった。そのことを察した挑戦者は、蝶の飛翔を止めてバックステップすると、リングロープを背にしたブロッキングの構えに変じた。構わずに突進する早坂は、左右から高速のフックを相手の顔面、腹部へと繰り出しはじめた。その乱打戦術を、両腕のブロッキングと上体を丸く蹲らせた状態でかわす挑戦者――。それでもなお構わず、ブロッキングをこじ開けるためのストレートを交えながら、早坂は乱打のフックを浴びせつづけた。一方、背にしたロープの弾性を利用したウィービングを織り交ぜながら相手の攻撃をかわし続ける長身の挑戦者。一瞬の隙を狙った乱打の作戦とは、試行回数を増やすことによって一瞬の確率をあげようとする作戦に他ならない。体内に残るエネルギーに任せて、試行を繰り返すならば、いずれその一瞬を突くことができるはずなのだ。その一瞬を信じての早坂の攻撃だった。しかし一方、乱打の作戦は、防御を捨て去った作戦でもあった。

 リング上での稀にみる戦いに、客席からの歓声は絶頂に達していた。その騒然とする中、客席の一つを陣取っていた志摩が、挑戦者が放った不気味な光を察した。ブロッキングする両腕の隙間からみえる覆面の目穴から、銀色にひかる瞳がのぞけてみえたのだ。

 志摩は咄嗟に、「離れて!」と声をふり立てた。直後だった。挑戦者の左ジャブが、早坂が降らす乱打の雨を掻い潜るようにして伸びてゆき、その顎を打った。本来であれば、それほどの衝撃ではなかったのだろうが、防御を捨てた乱打の態勢にあった早坂だった。ダメージは小さくなかった。両手を大きくひろげるようにして、早坂が身体を泳がせた。その間隙を狙って挑戦者が強烈な右ストレートを放った。まともに受けた早坂は、身体をおおきく泳がせた。そこへ続けて左、右――と、ストレートが撃ち込まれた。たまりかねて、早坂の巨体が、もんどりうって倒れ込んだ。

 場内が歓声の嵐につつみこまれた。しかし早坂は、仰向けの状態で頭上から降り注ぐスポットライトを眼に入れると、それを光エネルギーに変換するかのように、鉛色だった瞳をきらきらとよみがえらせた。血に汚れた口元を拳の甲で拭い、立てた片手で、上体を起き上がらせた。「まだ終わらせないぜ」――低くつぶやいた早坂は、右膝を立て、巨体をゆっくりと立ち上がらせた。

 残酷な歓声が一際大きく沸き上がった。戦いがつづくことへの狂喜の喚き声だった。場内をブザー音がとどろいたのは、そのときだった。緊急事態をつたえる警報だった。リングを照らし出していたスポットライトが、次々に落とされてゆく。

 ――ガサ入れだ!

 緊迫した声色が場内スピーカーを流れ出た。ゲーム強制終了を告げる声だった。床に灯る非常灯を残して場内は暗闇に転じた。

「こっちよ!」

 早坂を呼び寄せる志摩の声が飛んできた。彼女があやつるミニマグライトが、逃げる方向へシグナルを送っている。早坂の薄暗い視界の中に長身のシルエットが立っていた。挑戦者だった。その黒い影に向けて、早坂は「シーユー」のことばを送った。それが気まずそうな声色なのは、自分が劣勢だったからに他ならない。

「急いで!」志摩の声にうながされて、リングを飛び降りた。

想定通りの退避行動だった。送られてくる光のシグナルは、場内奥の壁面にかざられたダーツを照らし出していた。屋外裏口へとつづく隠れドアのある位置だった。

 ――――

「目的が手段を正当化する……それがダビデの教義よね」

「勝利のためには、どんなに悪辣な手段を使っても構わない。そういう意味だったかな」

 初回のABトレーニングを終えた二人は、振り返りの議論を、ジムのパーソナルルームでおこなっていた。志摩が問題としていたのは、カエストスを拒否した早坂の手緩い判断についてだった。そのことが原因で苦戦したことに苦言を呈していた。

「勝利が全てじゃない。勝利は絶対である……ロンバルディアンの倫理だっけ? ――目は通してるよ」

 志摩の苦言にふてくされたことばを返した早坂だった。赤く腫れ上がった額が痛々しい。

 近代ボクシングが兼ね備えている芸術性に魅せられて、プロボクサーを目指した早坂だったのだ。勝利を絶対視するあまり、勝者を無条件に賞賛することを憂う気持ちが少なからずあった。あのリングを囃し立てていた、客席たちの熱狂はその典型だった。目的が手段を正当化する、つまり勝つために手段を選ばない競技、競技者、そして観客たち……早坂は、その中にひそむ薄暗いものに対して拒否反応があったのだ。想いを察し、それを抗うことばを志摩が発した。

「正直に言わせてもらえれば、私たちトレーナーの役回りの研究員にとって、あなた方は機械と同じなのよ。私たちは、その機械が上手に組み上がってくれればいいだけなのよ」

「研究者として、その身も蓋もない言いようは、受け入れられないよ」

「私たちは教師とは違うわ。聖職じゃないのよ」言い返した志摩みつるは、なおも続けた。

「私たちがすすめているのは、カウンターカルチャでも、スポーツ競技でもないのよ。一人の人間の趣味嗜好によって想い悩むような次元の話じゃないわ――安全保障、軍事開発を見据えた、国家、国権レベルの話じゃない」

 そう言われたならば押し黙るしかない早坂だった。それを承知で受けた話だった。

「聞き入れてくれないのなら、二回目はないわよ」

「そういきり立つなよ……わかったよ。承知いたしました。以後、全力を尽くしましょう」

 不承不承、言い返した早坂は、そこでふと、志摩の背後のドアに目をのばした。中を覗き込む背広すがたの男が立っていたのだ。長身の男だった。早坂の視線に感づいた志摩が振り返った。

「あら、染井さん」

 独り言のような声色だった。

「えっ?」早坂が驚いた顔になった。

 ドアがひらいて、黒いゴムシートが敷き詰められたパーソナルルームに男が足を踏み入れてきた。染井孝太郎だった。早坂と志摩とを仲介してくれた人物だった。

「見ないうちにまた随分と大きくなったんだね」

 染井が気安いことばをかけてきた。

「……ご無沙汰していて申し訳ありません。預けっぱなしで」

 早坂は、染井に託してあったバイオチップのことを気にかけ、気遣いのことばを返した。致し方のないことだった。一年以上にもおよぶジムでのワークアウトは、手掛けていた研究のことを忘れさせるほどに過酷だったのだ。

 染井は、相槌を繰り返しながら、

「その件については、改めて詳しく話そう。今日は、別件なんだ」と、言って視線を志摩にむけた。説明をうながす目顔だった。

「じつは染井さん、生命科学研究所の技術指導顧問なのよ。その関係で、ダビデプログラム修了セッションについての打ち合わせに来てもらったのよ」

 修了セッションとは、取り組んでいるABトレーニング修了後、ダビデプログラムの「学位記」をかけた審査会のことだった。染井は、その審査方法についての打ち合わせに来たのだった。

「早速だが、君にも確認してもらおうか。ダビデスーツを……」

「ダビデスーツ?」オウム返しに言った早坂だった。

「今回のセッションは、件のパンデミックや公平性等考慮して、修了セッション全てを、オンラインで行うことに決定した。そのための特別な審査会議システムだよ」

 ――ジムエリアに運び込まれてきた装置の梱包が解かれ、その全容がすがたをあらわした。

 ダビデスーツとは、生体測定装置を基にして、それをよりパワーアップさせたものだった。全身を没入させる円筒形であった構造体は球形に変わり、構造体内部に張り巡らされてあったワイヤは、より繊細な材質を用いたより高精度なものへと進化していた。中でも最も顕著な変化は、頑強な鋼鉄製の作りに変化を遂げたHMDだった。早坂がスーツ上部に設置されてある内部をのぞきこんだ。直径数ミリ程度のいくつもの圧電パッドが周囲に貼付されてあり、眼の位置には、両眼を覆う透過型のディスプレイが装備されてあった。

「今はまだ試用段階でね。ここに持ち込んだのは、そのテストを行いたいためだ。被験者として願ってもない人物がいるからね」

 にこやかに言ってから、染井は早坂の肩に手を置いた。

 ――――

 透過型ディスプレイ越しに見えていた室内の光景は、モザイクによって曖昧に消えてゆき、換わって環境映像が映し出された。上空から俯瞰した森林の映像だった。

「臨場感は現実を凌ぐ」と自慢げに語った染井の話が、誇大でないと実感させてくれる3DCGだった。高所から降下してくる場面での落下感覚は、全身を固くさせてしまうほどだった。しかも内部に張り巡らされた高精細度ワイヤのバイブレーションは、映像と音像とがえがく光景に、絶妙に関与してきた。その臨場感は、大きな羽音をひびかせて面前を横切った大鷲の、飛翔する風圧を感じさせ、早坂の全身を大きく仰け反らせるほどだった。

 実世界にはない、想定外の対応がもとめられる脳内戦士――。彼等の戦闘舞台をつくりだすスーツに求められるのは、現実に起こり得ること以上に非現実的な、超現実空間だった。修了セッションに臨む者たちには、それらの衝撃に耐え得る耐性が求められていた。

 ――早坂が体感していたシーンが、こつぜんと無残に破壊された砂漠の街の映像に変わった。

 機銃掃射があちこちで乱射される戦場の光景だった。血だらけになった幼い子供を抱え持つ兵士が、泣き叫びながら眼下を横切っていった。自分が今立っているのは、おびただしい数の弾痕に汚れたベランダの上だった。そのことに気づいた直後、白い軌跡が早坂の耳元を横切り背後の土壁にあたった。機銃掃射からはなたれた流れ弾の軌跡だった。

身構えた早坂は、上空から落下してくるものの気配を感じて頭上を仰ぎ見た。いくつもの航空爆弾がプロペラヒューズを回転させながらヒューヒューという落下音を立ててこちらに迫っていた。そのうちの一個が道を隔てた家の一階テラスに着弾した。猛烈な爆発音と爆風が早坂を襲った。さらに二発、三発と着弾の爆音がとどろきわたる。

「マジかよ」

 つぶやいた早坂の視界に、車輪を吹き飛ばされてくず鉄と化した軍用車両が見えた。落ちてくる爆弾の落下音から、猶予は五秒と判断した早坂は、迷うことなくベランダを飛び降り、朽ち果てたその車両の下にもぐりこんだ。直後に、大きな爆音と共に全身が吹き飛ばされる衝撃をうけた。

 早坂は思わず離脱ボタンを押し込んだ。

 ――濡れそぼった前髪が、早坂の額にひっついてる。

「ちょっと刺激が強すぎたかしら」

 HMDを着脱した早坂は、志摩から眼をそらして小さく言い返した。

「否、何ともない」

 強がりのことばに聞こえるのは、真っ赤に上気した顔だからだった。心拍数が上がっていることは明らかだった。

「でも、あの程度で動揺するようじゃ、修了セッションは覚束ないわよ」

 志摩のことばを聞き流す態度の早坂は、圧電パッドを引き剥がしながら、

「この本体、グラフィックエンジン部分に、私が考案したバイオチップが使われていますよね?」と、染井に向かって問いかけた。上気させた表情に似合わぬ冷静な声色だった。染井は隠していたものを見抜かれた顔になって、

「さすがだね、早坂君」と返した。つづけて、「そのことで、折り入って相談したいことがある」

 ――――

「……航空爆弾が着弾した直後の爆発現象の部分。クロックのずれを示すノイズが確認できる」

 早坂がモニタ画面を指し示しながら、染井に対して試用したダビデスーツの「着用感」についてのモニタリングをおこなっていた。ジム内にある会議室内だった。

 早坂は、爆発や燃焼現象、放電や流体現象に代表される自然現象をCGで再現する部分に、量子コンピュータが搭載された、グラフィックエンジンが利用されていたことを見抜いていた。

 早坂はさらにつづけた。

「数値化が比較的容易な自然現象の再現には、演算処理に特化した量子コンピュータの利用は理にかなっている」

 量子コンピュータ開発における大きな課題の一つに、その万能性を満足させる、命令を送る側のソフト開発の困難さがあった。万能でかつ高速過ぎる量子コンピュータであるため、それを満足に動かすためのプログラミング開発が見通せていなかったのだ。そこで考えられたアプローチが、万能であることを捨てて、とある演算に特化した利用だった。そのことによって開発の負担を和らげ、有効利用しようというものだった。「非万能型」だった。染井らが開発したこのダビデスーツも、特定のグラフィックエンジンに特化した非万能型の量子コンピュータが利用されていた。早坂は、たった一回の試用によってそのことを見抜いた。

「お察しの通りだよ。この試作品は、まだまだ満足できるものではない」

 冷静な口調の染井は、手にあるリモコンの停止ボダンを押し込んだ後、換わって画面にあらわしたのは、爆発直後の静止画像だった。絵の具で描かれたような印象派絵画を思わせる趣だった。周囲に飛散する、爆弾爆裂特有の、大気を捩じってひろがる煙の流体現象は、ぼんやりと不明瞭だった。その原因が、画面を横切る白いノイズだった。

「この乱れが消えてくれない」

 不満そうにつぶやく染井だった。

 量子コンピュータの開発において――ソフト開発の困難さと共に――大きな課題とされていたのが、超高速性に対応した基本動作のタイミングの取得だった。古典コンピュータでいうところのパルス信号の入れ込みだった。それを如何にして正確な間隔で発信しつづけるか?――。問題の原因の一つは、素子に使用されている素材の純度だった。素子にとって重要なのは、回路となる量子ゲートのインプラネーション(注入)と、その初期化とを、交互に超高速に行うことだった。それを実現するために求められるのが、光学的なストレスを受けたとしても、経年劣化しない純度だった。

 だから量子コンピュータの素子となるべき新素材の開発は困難を極めていた。その課題をブレークスルーさせたのが、早坂が着目した、人体最後の部位とも呼ばれるスーパーレイヤだった。

 ヒトの網膜の一部として発見されたその部位は、「知り尽くされていた人体に唯一残されていた部位……」とも言われるほどに発見が困難なものだった。それもそのはずだった。スーパーレイヤは、人体組織と位置付けられてはいるものの、限りなく液体に近いゼリー状の存在だった。しかも条件によっては、気体としての振る舞いが確認されるという報告もあるほどの奇妙な素材だったのだ。このグラフィックエンジンに使用されている光バイオチップは、献体から抽出したスーパーレイヤを培養したものだった。

「これを見てくれ」

 染井がモニタ画面に映し出したのは、いくつもの折れ線チャートだった。

「レイヤの純度には、個体差がある」

 染井が画面を切り替えた。チャートに換わって映し出されたのは、数十もの測定項目とその測定値によって構成されたクロス表だった。純度を左右する測定項目の関与度数を示すシートだった。

「今、そのリサーチをしているところだ」

 純度の差に起因するものが、人体の何であるのかを探りだすための調査だった。

「……ただし、限界がある」染井はもの思わし気に言ってから、後の言葉を飲み込んだ。

「限界?」

 早坂が問いただした。

「提供が限られているんだよ。献体だからね。サンプルの母集団にするには小さすぎる」

 染井が憂慮するのも、尤もなことだった。献体の数を調査対象の母数とするのは、信頼性を得るためには無理があった。

そこで染井は、「問題解決策として、今テストしているのが……」とつぶやくように言ってから、持参してあったアタッシュケースをテーブルの上に置いた。トップカバーをひらいた。中を覗き込んだ早坂が目にしたのはアイマスクだった。染井は、

「これを使って、生体にある様々な組織と、スーパーレイヤとの相関を探るためのリサーチをはじめた」と言って早坂に目を振った。

 生体と言ったのは、もちろん生きた人間のことだった。

「このことで、調査対象となる母数が格段に増えるはずだ」

 染井がアイマスクを手にとって早坂に差し向けた。マスクから伸びるケーブルがアタッシュケースに接続されている。染井は言わずもがなといった表情で言った。

「君にも、そのサンプルの一人になってもらいたい」

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