5 ダーパ

 研究室のドアを押し開けた早坂進一は、テーブルの中央で密談している三名を眼下に捉えた。担当教授の峯岸一貫、准教授の染井孝太郎、そして講師の田上志津子だった。早坂は強い口調で問い質した。

「どういうことでしょうか、これは?」

 峯岸に差し向けた、早坂の手にあるものとは、事務部から送りつけられてきた外部研究助成金の継続中止を告げる書類だった。研究の進め方に重大な疑義があり、今後の継続は認められないという内容だった。峯岸は早坂の登場を予め予想していたかのように泰然として向き直った。峯岸よりも先に口をひらいたのは講師の田上志津子だった。

「あなた、失礼よ。何なのよ、藪から棒に」

 峯岸は、田上を制するようにして、

「……どういうことって、君。そこに書いてある通りだよ。研究の進め方に、重大な問題があった」

「重大な問題? 何を根拠に」

 怒りをにじませた問いに、ふくよかで柔和そうな峯岸は、外見とは不釣り合いな鋭い眼光をひからせた。

「そこに記してある通りだよ。実験に利用したスーパーレイヤとやらの取得に、倫理的問題があった。……あれ、そもそも何処から仕入れたの?」

 早坂は顔をこわばらせた。しかしすぐにみずからの気をとりなすようにして応えた。

「知人の眼科医から、研究用の検体として寄付してもらったものです」

「それって、研究倫理委員会で審議すべき案件でしょ。……でもしてなかった。だめよ、そんなの」

 田上の声色だった。

 彼女の言い分にはそれなりの根拠はあった。工学系の研究倫理委員会の申し合わせの中に、人体から摘出した検体を研究試料として利用する場合等、実験内容については前もって倫理委員会にて審議すべきだと明記されてあった。とは言え、それは、研究者個人の倫理感に判断の多くを任されるものであって、普遍的、厳格な規定だとは一般には解釈されていなかった。そのことは、所属の研究倫理委員会に提出された審査申請が、この数年のあいだ、数件程度であったことからも明らかだった。そもそも倫理問題とは縁の薄い工学系だった――それなのに、この期におよんで、その規定を振りかざし、これまでおこなってきた研究に疑義があると一方的に結論づけられるのは、早坂にしてみれば納得できるはずもなかった。

「確かに、それを怠っていたのは私の過失だったかもしれません。しかしこれまでの慣習においては……」

「ちょっとあなた、何をポスドクの身で言ってるのよ。そんな立場じゃないでしょ」

 早坂の弁明を一方的に制した田上が、吐き捨てるように言い返した。押し黙った早坂に向けて、峯岸は、「それと」と意味ありげに言って後をつづけた。

「前から言い続けているんだけど、君が拘泥している光チップのアプローチ。あれね、世界から観たらもうガラパコスなんだよね。そのこと知ってるでしょ? ロードマップから大きく外れていること」

 量子コンピュータの開発においての議論は、大別するならば、それ自体の否定派と、肯定派の中における電子派と光子派の三派に分かれていた。当初は、量子の二重性を利用した画期的並列型演算処理能力、省電力性、そして超高速性等を謳う、明るすぎる未来地図に幻惑されて、肯定派の中の光子派が注目されていたのだが、次第に開発の困難さが身に染みるに至り、議論の本流は、否定派、そして――光子派よりは実現性の高いと目されている――肯定派の中の電子派の二つの流れに集約されようとしていた。

 そんな趨勢が背景となって、「肯定派の光子派」にこだわる立場の者たちを、峯岸はガラパコスと言ったのだった。

「それは自分でも自覚しています。だからこそ、その困難を切り拓きたい。光の可能性はそうとうに高い」

 清々しく言った早坂のことばを、しかし峯岸は忌々しく聞いていた。輝ける理Ⅲから、進振りによって理学系に「降下してきた」この秀才は、そればかりでなく、プロボクサーを目指すほどの身体能力を誇る稀有と言って良い異能の持ち主、天才だった。

 峯岸らが、ポスドクとして、みずからの研究室に早坂を迎え入れたのは、その物珍しさがあってのことだった。しかし彼の天才ぶりは、想定をはるかに超えていた。不可能だとされていた光チップの開発を、まだ基礎研究の段階ではありながらも、完成の見通しを切り拓いてしまったのだ。しかも二年に満たない短期間で――。

 当初はほんの「お飾り」として招き入れた存在が、いつのまにか傍流が嫡流にすり替わってしまったかのように、気が付けばみずからの地位を危うくさせるような存在に成りあがっていた。今の峯岸や田上にとっての早坂の存在は、妬みの対象を超えた、脅威だった。

「困難を切り拓きたい? ふ。……その甘い考えが、過失や不始末を生む温床になるんだよ」峯岸の根拠のうすい諫言だった。こんどは田上が口をひらいた。

「あなたの勝手な行動は、私たちスタッフも迷惑しているわ」

 田上志津子の本音だった。ポスドクである早坂の研究が学会で発表されたならば、ゼミどころか、大学院工学系の主流が、早坂に移動しかねないほどの成果となることは目に見えていた。褒められないような策を弄してようやくに手に入れた今のポジションだった。田上は、みずからの今後を考えたならば、脅威の才能の芽は潰しておきたかった。

「あなた、学部での進振りの直前に、重大な傷害事件を起こしていたこと知っているわ」

 田上は冷ややかに言った。

 それが、早坂が当時に通っていたボクシングジムで、担当トレーナーの顎の骨を打ち砕き、視覚障害を引き起こさせた事故を指していたことは明らかだった。プロボクサー試験を明日にひかえた日におこなったスパーリングで、早坂は生まれてはじめて「本気のパンチ」を繰り出したのだ。その威力は圧倒的で悲劇的だった。そのときが、プロボクサーの道を諦めた瞬間だった。トレーナーはその後、二か月もの入院を強いられた。練習中の事故として処理され、罪を問われることはなかった早坂だったのだが、受けた心痛はいまだに消えてはいなかった。その古傷に指を突き入れてきた田上だった。ボクシング――それは早坂進一が、真に熱中することのできた唯一の生きがいだった。それが皮肉なことに、あり余る才能によって奪われてしまった。

(事件ではなく事故だった)こころでつぶやいて押し黙った。

「我々は聞いていなかったよね」

 裏返った声で同意をもとめたのは峯岸の方だった。すでに時効であるような古びた過失を持ち出してきて、それを何故なのか釣果のように取り扱っている峯岸と田上だった。それが、この研究室所属からの退去勧告を遠回しに告げていることはあきらかだった。

 助成が断ち切られたならば、研究室のポスドクでいられるはずもない。断ち切られた助成金は、みずからが勝ち取った競争的外部研究資金であって、それを不条理であるような理由によって引き上げられようとしている。涙目になって服従するべきなのか。……冗談じゃない。罰を受けるほどの話でないものを、それが恰も罪であるかのように誘導する、その姑息な物言いを受けた早坂は、諦観というよりも、決意した顔つきに変わった。退去勧告が命令に成り代わる前に先手を打つことを決意した。

 大きく肩を上下させた早坂は、

「お世話様でした」と告げて踵を返した。

 そして心の中で(アッデュー)と発して研究室のドアを引き開けた。

 ――――

 研究棟を出た早坂は、情報科学工学部キャンパスの正門まえにそそり立つ二本のヒマラヤスギの間を足早に過ぎていった。

 空っぽになった自分が、巨木のあいだを通りすぎてゆく。何故なのか、そのコントラストが滑稽に思えた。いつもそうなのだ。有り余る才能が、最後の最後になって邪魔しにくるのだ。早坂は立ち止まり、ヒマラヤスギの頂に目をふり上げた。目標に向けて熱中するその天性は、選んだ道の頂点に上り詰めたい欲求から湧き上がってくる。しかし何故なのか、頂上が視界に入る頃、不思議と標的に逃げられてしまう。ボクシングしかり、理Ⅲからの進振り、そして今回の一件もそうだった。果たしてこれから先、自分は目指すべき道の、頂点に立つことができるのだろうか、そんな想いがふと立ち上ったとき、背後を呼び止める声があがった。

「ちょっと、早坂くん」

 振り返った早坂の視界の中に染井准教授がいた。先ほどの議論の中では、傍観者を決め込んでいた人物だった。

「これから先、行く宛て、あるのかい?」

 突然に自ら進路を断ち切ったのだ。ある訳がなかった。首を横にふった早坂を見下ろすようにして、長身の染井がつづけた。

「君に相応しい研究機関がある。良かったら紹介してあげるよ」

 染井は一枚の名刺を差し向けてきた。手にとって目を落とした。《生命科学研究所》の文字が目に付いた。

「そこで今、人体の生体データ計測に関わる研究がすすめられていて、そのことで研究員を募集している」

「生体データ?」早坂の瞳が小さくひかった。

「君のその素質が生かせるはずだよ」

 意味ありげな染井のことばに、早坂は、

「どういうことですか?」と問いただした。染井は、

「身体能力だよ。君のその卓越した……」と応えて、早坂の両肩に両手を置き上腕にすべらせた。早坂の鍛えられた体躯を称える仕草だった。

 細身でありながらも長身の染井だった。早坂は見上げるようにして染井の顔に目を注ぎ込んだ。黒く澄んだ輝きを持った瞳だった。学部生の頃から、染井は自分のことを気にかけてくれていた。演習授業の最中においては、付きっ切りで指導をしてくれていた。他人の眼を気にしない、自分に対する贔屓ぶりは、早坂自身が不自由を感じるほどだった。

「いつもお気遣いいただきありがとうございます。お言葉に甘えさせていただき、伺ってみます」

「了解。先方に連絡をとっておくから、君の方からもコンタクトとってみてくれ」

 染井は名刺にある名に指先を立てた。

《生命機能科学研究ユニット研究員 志摩みつる》とあった。

「君のパートナーになるかもしれない人物だ」

「……?」

「会えばわかるさ」

 意味ありげな笑みを浮かべた染井は、「ところで君の研究、どうする?」と訊いてきた。

 光バイオチップのことだった。峯岸が事務部を介して助成継続中止を通告してきた目的は、自分の排除だった。目的が達成されたならば手のひらを返し、修正書類等を付け足して再開申請することは可能だった。研究代表者は峯岸の名になっていた。疑義を申し立て、別の機関で再開するには、新規の申請が必要なのだ。新たなる研究の場で、その猶予はおそらくないはず。一方で研究を途絶えさせるのはやはり忍びなかった。ひらめいた顔の早坂が口をひらいた。

「染井先生が、研究分担者として預かっていただけませんか?」

 そもそも量子コンピュータの門外漢だった早坂に対して、光チップの有効性を説いてきたのは染井だった。表立ってそのことを主張せず、手を染めてこなかったのは、電子派の重鎮、ゼミ所属長である峯岸の立場を考慮してのことと、研究そのものが困難だと見通していたからだった。しかし思わぬことに、早坂の手によって切り開かれようとしている。――提案をうけた染井は腕を組んで上空を振り仰ぎみた。そそり立つ二本のヒマラヤスギは、二つの頂きを突き合わせているように見えた。

 研究室の中においては煙たがれている存在だが、しかし早坂が遂げた成果は一頭地抜け出ている。そのことは真摯になって認めなければならない。「一肌脱ぐか」つぶやいた染井だった。


 送られてきたメールを、勇んで開いた早坂だった。直後に、眉間に皺をよせ、愁眉の顔付きに変わった。理由があった。生命科学研究所が送り付けてきたメールは、早坂が直接に所属することになる、「生命機能科学研究ユニット」が、フィットネスクラブ、『ダビデプログラム』に設置されてあることを通知していたのだ。

 ――早坂を笑顔で出迎えたの志摩みつるは、倶楽部のロゴが入った黄色いウインドブレーカーを身に着けていた。茶色いショートのボブヘアが、スポーツインストラクターを思わせた。受付横にあるカウンセラーコーナーのカウンターに早坂を案内した志摩は、周囲を気にかける、思わしげな様子を察し、ことばを向けた。

「フィットネスクラブの看板を立てているのは、それが研究ユニットであることを、対外的にカモフラージュするためだわ」

 真相を打ち明けられた早坂は、そのことから、ユニットが扱っている研究主題が、機密性のそうとうに高いものであることを察知した。

「先ずは組織の概要を知ってもらうわね」

 志摩がカウンターテーブルの上を滑らせたのは、報告書を思わせる分厚い組織概要だった。手に取り表紙をめくった。沿革を流し見た。瞠目させられる事実があった。

 生命科学研究所は、かつてアジア最初の基礎科学研究所として戦前の日本に創立された、総合理化学研究所をルーツとしていたのだ。その後同研究所は、研究成果の積極的製品化を行い、総合理研コンツェルンとも呼ばれる一大企業群を築き上げるのだが、戦後GHQに解体された。その解体された中の一つに、中井光学があった。生命科学研究所は、その中井光学が運営する研究機関だった。

 しかし、知った概要の中で最も驚かされたのは、生命科学研究所が管理する「生命機能科学研究ユニット」に対して、最も多くの資金を投資し助成している組織が、米国国防高等研究計画局DARPAであることだった。

 米国国防高等研究計画局は、国家安全保障に係る様々な研究開発を、助成支援している機関だった。

当該機関のこれまでの支援は、質量ともに他を圧倒する実績をもっていた。それにも関わらず、組織として一般に知られていない理由は、機関が、国家安全保障、すなわち「軍事開発」に関わる機密を扱っているため、情報統制の厳しい環境下にあるからだった。

 ――サターンロケット、地上レーダー、地上全方位システムGPS、ステルス戦闘機、プレデダーミサイル、ドローン、そしてインターネット――。

とくに、当初は「DARPAネット」と呼ばれ、軍事施設の分散化を目的に発明された、デジタルの符号化大容量通信技術を基にして敷設された、wwwインターネットは、その後に大学を主とした研究機関、そして民間にも解放されるようになり、全世界を網羅する、巨大コミュニケーションツールのインフラになったことは、あまりに有名な実績だった。

早坂が、ユニット最大のスポンサーである「DARPA」を口から漏らしたことから、志摩が点頭を打って解説をはじめた。

「設立は一九五八年。対立国家であるソビエト連邦が、人類初の人工衛星、スプートニク衛星の打ち上げを成功させた衝撃を受け、鋭意設立された組織よ。これがこれまでの事業内容――」

 差し出された冊子の表題には、『DARPA声明書』があった。早坂が手に取り目を落とした。

二○○三年、DARPA長官、トニー・テザーが、議会委員会に向けて作成した声明書だった。

冒頭のコラムに目をむけた。

――兵士遠隔操作の目標は、個々の兵士の戦闘力、機敏性、持続力、さらに治癒力をより高めるために生命科学を利用すること。

「生命科学?」

 早坂がつぶやいたのは、それが所属しようする研究所の団体名だからだった。そのとき、研究所を運営するのが、日本の中井光学であるのは、それもカモフラージュなのではないかと早坂は憶測した。彼は、中井光学の存在の裏に、DARPAがあることを察知した。

 ……声明書の中で、その後に目についたのが「遂行能力継続支援」、そして《CAPプログラムの概説》という見出しだった。

早坂が、CAPプログラムの導入文に目をすべらせた。

 ――興奮剤等の内服薬を用いずに、兵士の疲労を防止し、七日間を連続して覚醒状態にし、かつ機敏な応戦体勢を保てるようにするため、心身双方の有害な副作用なしの方法を研究する。

 志摩が口をひらいた。

「不可能と思われていることを、敢えて目的にかかげ、それを実現させる方法を見つけ出す。それがDARPAの掲げる軍事革新というポリシーの基底。それを達成させるには、超高度な先見の明と知性、そして忍耐が必要。だからDARPAは、他の政府機関と異なり、十年単位の長期の開発計画を認めているのよ」

 早坂が、冊子の最終頁に目を寄せた。今後に目指すブループリントの概説があった。

 ――これまでの古典的、すなわち機械工学的、電気工学的、あるいはバイオ工学的革新を維持しつつ、DARPAの創意工夫は、今後、未来的、すなわち神経科学的、神経工学的、そして生物学的アプローチへとひろげられてゆくことになる。

細目リストに目をふった。


□ 以下に関する生物学的アプローチ――戦場における兵士の戦闘能力や治癒力の維持/貫通創、非貫通創及び神経外傷等、戦場での外傷による後遺症の最小化/資材や装置の成長

□ 生物体のメカニズムを参考にしたシステム

□ 生物分子によるモーターその他の装置

□ 非致死性兵器が、人間に及ぼす影響の研究

□ 非侵襲性的に健康状態を評価するための、バイタルサインや血液化学を利用したマイクロ或いはナノレベル技術開発

□ 生物体に対する、各種系統、器官、組織、細胞、分子レベルでの遠隔調査やコントロールを可能とする技術

□ 物理的な力や素材と、生物のからだとの相互作用の研究

□ 複雑な生命現象の性質を解明してシミュレーションするための、新しい数学的、及びコンピュータによるアプローチ

□ 野戦治療のための兵站にかかる負担を減らす新しい技術

□ ニューロンが出すサインを利用した戦闘にかかわる認知事象を解読することの可能な先進的シグナル処理技術

□ 中枢(大脳皮質及び皮質下)及び抹消神経系と相互作用可能なインタフェース及びセンサの設計

□ 個人や集団の行動を理解し、予測するための新しいアプローチ。特に、行動や意志決定の神経生物学的基盤の解明

□ 野戦治療時に薬物を制作する技術。また、幅広い範囲の体格や代謝、生理的ストレスに治療を適用する技術

□ 生体データ計測等を目的とした外皮電子システム


 目をあげた早坂の表情はきらきら輝いていた。染井孝太郎が口にしていたことばが、心の中を浮かびあがっていた。

(君のその素質が生かせるはず)

 意味を得心した早坂の顔色だった。

「……それで、私に任されるミッションは?」

「マインド・ウォーズを想定した、兵士の生体データ計測用試料の制作」

「脳内戦争?」

 聞きなれない英述語を和訳で応えた早坂だった。

「そういうことね。未知なる戦場で勝ちぬくことのできる兵士には、どのような能力が必要なのかを探り出すための試料の制作――」

 兵士の生体データ計測用試料とは、脳内戦争のための兵士のプロトタイプ。つまり脳内戦士の「試作機」のことだった。

 そこで志摩は、早坂に対して上目を注ぎ込んだ。早坂を検める目だった。反応を伺いみる視線だった。

「何か?」志摩の険しい目を察して早坂が問いかけた。

「制作される試料というのは、研究者自身だということなのよ」

 自身が実験台になる話だと、すぐに察した。自分にそそがれている視線は、それに値するものなのかを目利きしている視線だと察した。

望むところだった。脳内戦争という未知の戦場に立つ兵士とは、剛健なる体力のみならず、秀でた知力をも兼ね備えていなければならないはず――。自らの素質を活かす、これ以上のミッションはない。沸き上がるドーパミンが、全身に漲る感覚だった。

「是非、やらせてほしい」

 逸る気持ちが口元を突いて出た。

 志摩は薄く笑って、「染井さんから聞いていた通りね。気の早い性格」と言って、テーブルの上にひらかれてあった冊子をぱたりと閉じた。

「採用の決定は、適性検査後に判断させてもらうわ。先ずは身体測定からね。一緒に来てちょうだい」

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