二人の距離感

第4話 生活力チェック

「んじゃまぁ、出来ること教えてもらいましょうか? 」


 裕美から栞のお世話係なる指示を受けて初めての休日。希はとりあえず現状の把握からおこなうために朝食後、栞の部屋に来ていた。


「大抵の事は自分でできるわよ」


 ちょこんと椅子に座る栞は胸を張って言うが、希は部屋を見渡し申し訳なさそうに告げる。


「信用できんのじゃけど…… 」


「なんで? 」


「いや、部屋散らかったままだし」


 栞の部屋は前に来た時と同様に散らかった部屋のままであった。


「それは……たまたまよ」


「ほんとかなぁ~? 」


「希、いじわるね」


「そういうつもりは一切ないんですが」


「むぅ……。なら部屋の片付けからね」


「ん、お手並み拝見しましょうか」


 そう言って栞は部屋の片付けを始める。本など棚にしまっていき、次に衣類などをと順調に片付けが進んでいく。

 心配する必要は無かったかと安心した希は、昼も近いので昼食を作りにキッチンへと向かう。残った物を確認し無難に塩むすびを作り、栞の部屋へ持っていく。


「暁さん、いったん休憩に……」


 希が扉を開け部屋に入ると栞は何かを描いているところだった。片付けはある程度されているが、今度はイラストの山が出来ていた。

 この紙山はいったい何処からかと希は疑問を浮かべていると、栞が希に気づく。


「もうそんな時間?」


 希が持ってきていたおにぎりを見て訊ねる栞。希も疑問は一度置いておき、ちょっと早いが昼食にしようと言って、昼食をとり始める。

 おにぎりを食べながら希は気になったことを訊ねた。


「何描いてたん? 」


「え、あぁ。あれはメモ描きよ。アイデアが浮かんだからちょっとね」


「へぇ……なるほど」


「さ、お昼を食べ終わったら、掃除機をかけて仕上げね」


 言葉の通り昼食後はあっという間に掃除まで終わり、残るは新たにできたイラストの山のみとなった。


「この下書きっぽいイラストの紙山はどうします? 」


「そうね……これだけは残して、あとは捨てましょうか」


 栞はいるものを取り分ける。


「ま、懸命な判断でしょうね」


「このイラストたちは、希が処理して」


「ん? まぁいいけど…… 」


 希は捨てると言った山をヒモで縛って資源回収の日に出せるようにする。

 取り敢えず部屋の掃除は終わりとして、時刻は夕暮れ時。夕飯の準備を考え始めて良い時間帯になってきた。


「さてと、夕飯はどうしようか」


 希がどうするか思案していると、栞がそっと手を上げた。


「私が作ろうか?」


「えーっと、じゃあお願いします」


 栞が作ると言うのでお願いするがよくよく考えると栞が料理をするのをまだ見たことがなかった。


「あの、ちなみに何を作るつもりですか」


 希は若干心配になり何を作るつもりなのかを訊ねると、食材を見てから決めるわと言って、キッチンへと向かった。遅れて希も追いかけると栞は冷蔵庫の中身を吟味していた。


「これなら……野菜炒めかしら? 」


「どれどれ? 」


 希も横から冷蔵庫の中身を確かめる。材料はそれなりに揃っているので、野菜炒めは問題なく作ることができるだろう。


「できれば五人分作ってもらいたいけど……できます?」


 住人全員の夕飯を作れるとありがたいため希は栞に作れるか訊ねる。


「どうかしら? 」


「あ~っとなら、一人分作ってください」


「分かったわ」


 返事が怪しいので希は即座に一人分を作るように言う。残りの分は後で自身が作ろうと決め、今は栞の料理スキルを確かめる事にする。

 栞はキャベツ、ニンジン、もやし、豚バラ肉を冷蔵庫から取り出しキョロキョロと見回していた。どうやら調理道具を探しているようだ。

 希は慣れた手つきで包丁とまな板、フライパン、菜箸を取り出しキッチンへ置く。


「塩と胡椒はここ。油はここに。他に何か必要なものは? 」


「大丈夫よ」


 そう言うと栞は手を洗い調理を開始した。まず始めに野菜をすべて洗い、ニンジンをまな板に置いた。そしてニンジンを握るように押さえ包丁で切ろうとする。


「ちょっ!? 待った、待った! 」


「なに?」


「いったん包丁を置こうか」


 なぜ止められたのか分からないと言う表情で希を見つつも言われた通り包丁から手を離す栞。とりあえずの安全を確保して希は栞に訊ねた。


「基本的なこと聞きますけど……添える手は? 」


「添える手? なにそれ?」


「うん。中止です、中止」


 希は即座に判断し栞をキッチンから追い出しリビングの栞の席へ座らせる。


「正直言ってください。まともに料理したことないでしょ? 」


「……ちょっとはあるわ」


「それ、小さい頃にお手伝いしたとか言うオチじゃ……」


「そうとも言うわね」


 希は頭を抱えるが、考えを改める。栞はプロのイラストレーターとして活動している。手は大事な商売道具なので怪我は困るはず。


「うん。今後は決して、一人で料理しようとしないでください」


「分かったわ。じゃあ続きを」


「……お嬢さまのご飯は俺が作ります。お世話係ですし」


 栞にリビングで待っているように言って、希は夕飯を作りにキッチンへ戻る。栞にやる気があることはいいが怪我をされては困る。それは今後も生活でも言えることだ。

 裕美の言ったお世話係をする事を認めるしかないと希は思いながら料理をするのだった。

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