第6話 設計図は会長の頭の中

「間に合うかな、コレ」


「間に合わせるしかないんでしょ?」


 ある日の放課後。希は裕美と一緒に折り紙を一定の大きさに切っていた。


「にしても色彩の数、多すぎない?」


「細かければ細かいほど、出来上がりがキレイに見えるからね」


「そうかもしれんけど……間に合わんかったら、元も子もないでしょ」


「あはは……ちょっと張り切りすぎたかもね」


 何をしているかと言えば、月間の目標を掲示する掲示板用にちょっとした作品を作ろうとしていた。

 本来ちょっとした飾り程度の物でいいのだが、何を思ったのかこの会長、折り紙で大きな虹を作ろうと言い出した。それも、モザイクアートの様なグラデーションの細かい虹を。

 もちろん全員で制作するが、設計図は会長の頭の中。そう言う事もあり、必要物の準備と下準備が完了するまでは、他の人は待ちとなっていた。希を除いて。

 希は庶務と言う立場で、生徒会室の備品は大体把握している。なので準備段階から駆り出されていた。


「折り紙切りの素材作りは俺がやるから、古賀さんは台紙に貼っていくって言う分担で進めよう」


「オッケー! あとは希に任せた!」


 そう言うと裕美は折り紙の束を希の方へ渡す。黙々と作業をしていたが、希はあることに気付いた。

 

「なぁ古賀さん」


「うん? なあに?」


「これ、色が混ざってないか?」


 二つの赤い折り紙を裕美に見せる。


「えっ? そうかな?」


「コレとこれも一緒に並べて見れば分かるかな」


 最初の二種に加えて赤寄りの紫と紫色の折り紙を一緒に並べる。


「ん~? あ、なるほど。よく気付いたね!言われて、並べられてみないと分かんなかったよ」


「俺の目から見ると、ちゃんと違って見えるんだが……。さてどうする?」


 どうすると訊ねてみたが、やることは分かりきっていた。


「会長特権として、希に命じます。正しく色を仕分けて、束をつくって! 方法は任せるわ」


「りょーかい。つっても、見て仕分けるしかないけど」


 裕美の指示を聞き作業を始める。

 色ごとに並べて一つずつ分けていく。さいわいにも、始めたばかりでたいした量ではなかったので、三十分程度で分け終わる。


「よっし、終わったで。クリップで止めとるけぇ、気を付けて使いんさい」


「お疲れ~。さすがに疲れた?」


「どして?」


「いや、ね。希の口調がね」


「あっ、少し出てたか」


「うん。にしても、久しぶりに聞いたなあ。希の方言っぽい口調」


「ならないように、気を付けていたんだがなぁ」


 気を抜いた時や驚いたことがあった時に、どうやら地元の方言っぽい口調が出たようだ。元々口調がコロコロ変わりやすい希だが、それはキャラを、人格を作って演じているから。要するに仮面を被っているという事であった。

 

「高校通い始めてから、その方言っぽい口調しなくなったよね。どちらかと言えば、そっちの方が素だでしょ」


「まぁ、今は別の自分を演じてる状態だわな」


「高校デビューってやつ?」


「そう言う訳ではないけど……まぁいいや。今日はこれくらいで切り上げて、帰ろうや」


「ん~先に帰っていいよ。私はもう少し、進めて帰るよ」


「んじゃ、お言葉に甘えて、先に帰るわ」

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