第7話 主夫する希

 ツムギ荘の自身の部屋に帰ってくると、制服から私服へと着替える。そして本を取る……のではなく、カバンから課題を取り出し始める。

 約二時間ほどかけてようやく課題を終えると、外はほとんど日が暮れていた。


「夕食、どうしようか」


 最低限用意するのは二人分。手間としては大差無い。問題は食べるかどうかだが……余っても明日、自分が食べればいいか。


「ま、結局は、冷蔵庫の中と相談して決めるか」


 キッチンに向かうべく部屋の出口へ向かう。


「あっ」


 ドアを開けるとそこには、ノックしようとしていた栞が立っていた。


「あれ? どうかしましたか、お嬢さま」


「希、そろそろ晩ごはん作って、って言いに来た」


「俺もそのつもりですから、リビングで待ってて下さい」


「お願いね」


 そう言うと栞は戻っていく。希はキッチンに向かうと、冷蔵庫の中を確認する。中にあったのは、キャベツ、人参、もやし。冷凍庫に豚バラ肉があった。

 中身を確認し終えたタイミングで、栞がスケッチブックを持ってリビングへやって来た。そのまま座るとスケッチブックを開いて何かを書き始めた。


「豚バラ入りの野菜炒めにしますか」


 一方希は、作るものを決め調理に取り掛かる。

 キャベツは一口大に切り、人参も短冊状に切る。次に豚バラと切った人参をフライパンで軽く炒める。全体的に火が通った事を確認して、フライパン上のものを一度取り出してからキャベツともやしをフライパンに投入。その上に取り出したものたちを乗せる。で、仕上げに塩コショウを振り掛けて、ポン酢をお好みの量入れて蓋をして弱火で蒸す。


「ん、完成やね」


 簡単手抜きな野菜炒めの完成である。リビングの机に、二人分の野菜炒めとご飯を運び配膳する。


「お嬢さま、一旦切り上げて、晩ごはんとしましょう」


「うん。わかったわ」


 暁さんはスケッチブックを閉じて置くと、夕食を食べ始めた。それに続いて希も食べ始める。


「それにしても、一ヶ月近く言われ続けると、慣れてくるものね」


「何がですか?」


「あなたのその喋り方と、お嬢さま呼び」


「あぁ、それですか」


「慣れって怖いわね。最初は恥ずかしかったのに、今ではそれが普通に感じるのだもの」


「楽しんだもん勝ちですよ。俺はこの生活、楽しんでますし。それに主と認めている人相手ですから、ある程度場の空気を読んで接してますよ」


「説得力が微妙。けど、まあ良いわ。だとしても、希の事は信じてるから」


「……前から思ってたんですが、俺に対するその信頼って、どっから来てるんですか」


「えっ?」

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