第16話 ドライブシュート

 俺が放つ魔法は《火球》だ。


 火球は立派な攻撃魔法であるが、下級魔法に分類される。魔術師を目指すものがまず最初に覚えるべき魔法だ。基本中の基本魔法であるが、だからといって弱いわけではない。


 古代の偉大な魔術師が、魔術は火球に始まり、火球に終わる、という言葉を残しているほど奥深いのだ。


 実際、俺の火球は、


「……今のは《極炎(インフェルノ)》ではない。《火球(ファイア・ボール)》だ」


 と魔王のものまねができるくらい強力だ。


 その威力はすさまじく、直径五メートルの火球を作り出すことも出来る。


 ただ、今、放つのは大きさ重視ではない。むしろ、普段よりも小ぶりだった。


 威力もそこまでない。


 その代わりこれから質を大幅に高める。


 作り出したばかりの火球を足で弄ぶ。


 ほっほっは! と足で蹴り上げる。つまりリフティングだ。


 フィーナがいなければ胸や頭を使ってもいいのだが、足だけで見事に操る。


 遙か東の島国では「蹴鞠」という遊びがあるらしいが、そこから発想を得た技である。


 火球を蹴りながら空気を送り込み、燃焼力をアップ、さらに最後に思いっきり蹴り上げることで威力もアップ。


 ちなみに最後の蹴りを異世界では、

「シュート」

 というらしい。


 それだけでは味気ないので俺は、頭に格好いい文字でも付け加えようか。


 そんなことを考えながら放った必殺技が、


「ドライブシュート!」


 かなり体力を消費したが、「っく、ガッツが足りない」とはならない。


 ちなみにドライブシュートとは縦方向の回転を加えることにより、「へ」の字の軌道を描かせる蹴り技である。空中でかくんと火球が落ちる技であるが、その威力はすさまじい。


 縦回転によって燃焼力と威力を増した火球はオオミミズに直撃する。


 何千度にもなった高熱の塊、さらに貫通力も得た火球はオオミミズの極太の身体を穿つ。


 オオミミズの身体に一瞬で大穴が空くと、数秒遅れて炎に包まれる。


 水分の塊であるミミズが燃えるということは、相当のことであるが、これが必殺技「ドライブシュート」の威力である。


 オオミミズが死に絶えると直感したフィーナは燃え上がるオオミミズを見つめながらこう言った。


「わたしの旦那様は天才ですね」


「それほどでもあるよ。ま、新婚旅行が終わったら蹴鞠の興業でもするかね」


 そのようなやり取りをすると、平静を取り戻しつつあった妻を地面に置く。


 お姫様抱っこを名残惜しむ彼女であるが、いつまでもお姫様抱っこをしていてはなかなか最深部にたどり着くことは出来なかった。


 その辺の空気を敏感に読んでくれるのは、とても有り難かった。


 やはりうちの奥さんは最高だと思う。

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