第14話 温泉スパ

 ノームが開いたダンジョンに入る。


 そこは思ったよりも大きな空間だった。


「ほお、想像の三倍はでかいな」


「この造りですと、ヤンカースの真下はすべてダンジョンとみていいですね」


「ああ、しかし、それにしても硫黄臭いダンジョンだな」


「ゆで卵のような匂いですね」


「臭くてたまらんが、温泉が湧き出ている証拠でもある」


 そのように纏めるとダンジョンを探索する。


 ヤンカースの地下迷宮はとてもしっかりした造りをしている。天然のダンジョンを流用したものではなく、わざわざ人間が作ったものだ。硫黄まみれ、有機物まみれだというのに、あまり汚れていないところを見ると特殊な素材を使っているようにも見える。


「興味深いな」


「ですね」


 十数メートル歩くごとに壁などを調べてしまうのは、俺が研究肌だからだろう。


 魔法剣士に分類される俺だが、実家が貴族でなければ賢者学院に入っていたはずだ。


 そしてそこで延々と研究をしていたかもしれない。


 本来の俺は好戦性とは無縁の純朴な青年なのだ。


 激動の時代がそれを許さなかっただけなのである。


「聖地巡礼の旅ではゆっくり足を止めて、動植物、鉱物の研究もしましょう」


 俺の気持ちを忖度してくれた妻はそのような提案をしてくれる。とても嬉しかった。



 さて、そのような視点で歩いていると、どうやら〝ここ〟は古代の大衆浴場(テルマエ)であると気がつく。


「てるまえ?」


 ほへ? っと首をひねるフィーナ。


「平たくいえば古代の銭湯、温泉スパだな」


「まあ」


「古代魔法文明の頃、民は暇で暇でしかなかったから、週末ごとに闘技場で決闘を見たり、劇場で劇を見たり、大衆浴場でお風呂に入ってたんだ」


「すごい文明力ですね。今でもその三つはありますが、同時に楽しめるのは首都デュラムリアくらいです」


「古代魔法文明時代はちょっと大きな街にはどこにでもあったそうな」


「ごいすーです」


「そのお陰で民が怠けものになって蛮族の流入で滅んだんだけどな」


「盛者必衰の理ですね」


「おごれる魔法文明は久しからず」


「戒めなければ」


 そんな含蓄をたれながらダンジョンを進むと、奥からなにかが這いずる音が聞こえる。


 ズリズリ――、


 巨大な物体が大地をうねる音だ。


 大蛇がうごめく音のようにも聞こえるが、正体は大蛇ではなかった。


 十数メートル先にいるのは、目も鼻もない軟体動物だった。


「でかっ! あれはオオミミズだな」


 オオミミズとは読んで字の如く、大きなミミズである。


 そこら辺を掘れば必ずいるミミズが巨大化したまものであるが、多くの場合、肉食であり、凶暴だ。

 見境なく襲ってくるため、戦闘は避けられそうにないが、困ったことがひとつある。

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