第4夜 白鹿の吟醸パック

 居酒屋のだし巻き卵なるもの、なぜにあれほどおいしいのであろう。綿菓子のようにふんわりと香る優しきアロマ、溢れる出汁、とろりととろけるマシュマロのごとき口溶け。

 これが家でえたなら……、食えたなら……。


 安心したまえ、それは諦めた。出汁の手間暇など、市販のめんつゆでどうとでもなるわい。



 ああそうだ、これをごらん。

 行きつけのスーパーに売っていた、黒松白鹿純米吟醸なるもの。パッケージに"六甲伏流水宮水仕込"との表記があるが、なんやろケ。

 すまん、疎い拙僧せっそうにはわからぬ。だがおいしそうだから買うてみた、900㎖パック。



 今宵は、たまたま卵が3つ余っておったゆえ、3つすべて使って玉子焼きを作った。

 片手割りをキメた卵に、積年の恨みを込めて木っ端微塵に切り刻んだ青ネギを和え、さらに四季折々万能めんつゆを混ぜる。キッチンの隅っこに吟醸パック、IH隣りに宝尽くし柄のおちょこを添えて。

 うむ、それでいい。余計な味付けはいらない。あとは焼くのみ、いびつな形状の玉子焼き一丁上がり。料理が終わったら、シンクのリセットも忘れずに。




———しかしてやっぱり、居酒屋で食い散らかすあのふわっふわな本物のだし巻き卵、出汁ジュルジュルのアレがいい。大将お手製の隠れ味入りレシピとか焼き方のコツこだわりとか、どうせありまっしょ?本屋さんでレシピ本あったら絶対買うわー、図書カードで。




 出来上がっただし巻き卵モドキを相手にして、今宵も「日の出よ来るな」と念じながら甘い夜を謳歌する。

 今度は、2ℓパックに挑戦してみたい。さて、何日持つかな。




いらっしゃい。

飲め、最高にハイな気分になる。だが、中毒にならぬように。

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