最終話 幸せがすぐそこにある
「キャンバル様。素晴らしいでございます」
「あ、ありがとう。爺」
ここ最近で一番の笑顔を見せる爺が見つめる先、鏡に映っている僕の姿だ。
真っ白い礼服に身を包んでいる自分は、どこかの王子様のようで自分が自分じゃないみたい。
でも触れた頬は確かに僕自身だ。
扉が開いて、爺と同じく嬉しそうな笑みを浮かべたお父様が入ってきた。
「うむ。とても似合ってるぞ。キャンバル」
「ありがとうございます。お父様」
「ふむ? どうしたのだ? 嬉しくないのか?」
「えっと~そういう訳ではないんですけど…………まだ実感がないというか…………」
「がーはははっ! まぁキャンバル
「で、ですね……頑張ります!」
覚悟は決めている。
今日は僕とセレナちゃんの――――結婚式だ。
◆
領都に美しい鐘の音が鳴り響く。
多くの人を祝福するかのような優しい音色に包まれながら、僕は神父さんの前に佇む。
周りは僕達を祝うために紙吹雪を散らして空が色とりどりに染まっていく。
鐘の音が止まると同時に、周囲を賑わせていた声が止まる。
広場の奥にある建物の大きな扉が開く。
弟のカイルに手を引かれて、純白の美しいドレスを身にまとったセレナちゃんが現れた。
セレナちゃんが真っ白な絨毯に足を踏み出すと同時に止まっていた世界が一気に爆発して黄色い声援が鳴り響く。
目を奪われる美しさに多くの人から声援と拍手が鳴り響く。
一歩ずつこちらに来る彼女に、僕の心臓も破裂しそうなくらい大きな鼓動を響かせていた。
そもそもだ。
僕はまだ8歳――――じゃなくて9歳だった。
キャンバルさんは21歳になるらしいけど、僕はまだ9歳にしかならないのに、こうして結婚なんてしていいのだろうか?
結婚って大人にならないといけないって教わったけど、僕が大人になった感覚は全くない。
でも僕を好いてくれるセレナちゃんをいつまでも待たせるのは違うと思うし、弟達の結婚の件もあるから、頑張って結婚するんだ……!
気が付けば、隣にやってきたセレナちゃんが恥ずかしそうにちらっと僕を見つめる。
「せ、セレナちゃん。す、凄く可愛いよ!」
爺から絶対言うように言われていたけど、自然と言葉が漏れるくらいに、目の前のセレナちゃんは今までのセレナちゃんとは違う綺麗さを醸し出していた。
満面の笑みを浮かべた彼女が「キャンバル様もとてもかっこいいです」と言ってくれる。
そこから全く記憶はなくて、気づいたら周りで宴会が開かれていて、多くの人におめでとうと言われ、気づいたら外が夜になっていて、部屋にセレナちゃんと二人きりになっていた。
「キャンバル様……? や、やっぱり今日は体調がよくないのでは…………」
「へ!? そ、そんなことはないよ。あれ? もう夜?」
「ふふっ。ずっと上の空でしたよ?」
「やっぱり……」
思わず肩を落としてしまった。
そんな僕を見て、セレナちゃんがクスクスと笑う。
僕もセレナちゃんも派手な服を着て、化粧なんかもしていても、中身が変わる訳ではないんだなと思う。
「キャンバル様。今日はゆっくり休みましょう」
「そうだね。セレナちゃんも大変だったと思うから…………えっと、今日から同じ部屋で寝るん……だよね?」
「そうですね。夫婦……ですから…………」
「そっか…………うん。寝ようか…………」
「はいっ…………」
こうして僕とセレナちゃんは初めて同じベッドで眠った。
◆
僕がセレナちゃんと結婚して数か月後。
お父様からの宣言通り、僕が辺境伯を継ぐ事となり、領民達からも大きく祝福されながら辺境伯となった。
まだ辺境伯として足りない部分も多いので、お父様には色々手伝ってもらっているけど、辺境伯ってこんなにも忙しいと思わなかった。
僕の仕事量を少しでも減らすためにセレナちゃんも一生懸命に頑張ってくれて、次第に仕事量も減っていった。
というのも、領内の流通関係が安定したおかげで、領民からの不満が激減したのが最も大きいかも知れない。
それから数か月を掛けて、ジアリス町から水路を伸ばして、領都だけでなく全ての町に繋がるように作った。
ただ、道中は人が落ちてしまうと大変なので蓋をして、アクア様だけが行き来できるような作りにした。
アクア様は増えた水路をものすごく喜んで、領内の色んな問題を解決してくださった。
水が足りない町には水を、農作物が盛んな町には恵みの雨を、さらに水路を大きくして荷物を運びやすくしてくれたりした。
おかげでインハイム辺境伯領は史上最高の利益を産むことになるけど、その一役を買ったのは間違いなく弟達でもある。
隣国との平和条約によって、両国間の貿易が盛んにおこなわれ、向こうにもアクア様の力を借りる形で今まで以上に大きな成果を生む事となった。
こうして、世界は段々と平和になるのだけれど…………。
「キャンバル様? そ、その…………そろそろ…………」
「ん……もう少し…………」
「そ、その……そういうのは夜に…………」
「うぅ……僕の癒しが……」
「今でいいです! 大丈夫です!」
そう話すセレナちゃんに甘えて――――――
僕は今日もセレナちゃんの胸に癒されている。
――――【完結】――――
当作品を最後まで読んで頂きありがとうございます。
最近カクヨムでは悪役転生が流行っていて、自分なりの悪役転生ならこういう作品になるかなと思って思いついたままに書き進めた作品になりますが、思っていた通りにはいかず、不思議なストーリーになったのが面白かったです。
大人の身体に子供の精神が宿る事で辻褄を合わせるのが意外と難しいなと思いながら、某有名アニメは身体は子供、頭脳は大人でよく作れたなと感心するばかりです。
そんなこんなで、最終話までしっかり書けたので、また次の作品を書いていきますので、最後まで楽しめたよと思った方は、御峰。の連載作品や完結作品をまた覗いてくださると嬉しいです。
面白かったよと思った方はぜひ★3つとおすすめレビューコメントを残してくださると嬉しいです!
ではまたどこかでお会いしましょう! ありがとうございました!
荒れ地の領主となった悪徳令息に転生した子供はわがままにやりたい事をやる 御峰。 @brainadvice
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