第33話 領都と白銀商会

 バルバギア王国軍を追いやってから数日後。


 荷馬車には罪人として白銀商会のグレインや護衛達と共に、積み荷が積まれている。


 馬に引かれて進む荷馬車には、御者役に爺、隣にベリル。


 荷馬車部分には僕とセレナちゃん、ミアさんの3人だ。


 ベリルさんは毎日魔法の腕を磨いて、今ではジェラルドよりも強いとまで言われている。


 爺も氷晶属性魔法を自然に使えるようになったし、セレナちゃんとミアさんも中々に上達している。


 以前のような夜の襲撃みたいな状態じゃなければ、セレナちゃんも早々遅れを取ったりはしないと思う。


 でもまだ戦いの数が少なくて戦いは苦手らしくて、先日の拉致の事件から猛特訓を始めていた。


 そんな僕達5人が荷馬車を引いて向かう場所は――――インハイム辺境伯領の領都であるソウレイン都である。




 数日間、荷馬車に揺られて休憩を繰り返しながらようやくソウレイン都にたどり着いた。


「こんにちは。商人でしょうか?」


 領都の入口を守る衛兵が僕達の正体を聞く。


 フードを深く被った僕達。外から見たら怪しそうに見えるかも知れないが、後ろの荷物を指差すと衛兵も納得したようだった。


 爺が事前に持っていたとある紋章を見せる。


 これは白銀商会がジアリス町に向かう時に使う紋章で、インハイム家と契約している商会の者という意味を持つ。


「白銀商会の皆さまでしたか。さあ、どうぞ」


 荷馬車自体も白銀商会の物だから何も嘘ではないからね。


 道を知っている爺が荷馬車を進ませ、都内に入っていった。


 巨大すぎる城門を超えると、目の前には無数の家が広がっていて、視線の向こうには山よりも大きく見える巨大な城が見えた。


「向こうに見えるのが領都の城でございます。キャンバル様のお父様が住まわれております。お城の手前には貴族街が広がっており、そこから川を渡って一般地区が広がっております。大きさで言えば、一般地区の方が十倍は広いですね。私達はこのまま貴族区にある白銀商会に向かいます」


 爺が僕達にだけ聞けるくらいの声の大きさで詳しく話してくれる。


 それにしても活気溢れる街で、領都がどれだけ安全で住みやすい街なのかが見て取れる。


 うちのジアリス町は土地こそ少ないけど、ここに負けず劣らず活気あるけどね!


 荷馬車はどんどん進み、数十分走るともう一度関門が出てきた。


 どうやら貴族区は一般区から切り離せるようになっているみたい。


 入口もここ一か所しかないから、ここの川を渡るための橋が壊れると渡れないらしい。


 力がある人なら飛んでいけるかも知れないけどね。


 貴族区は一般区から打って変わり、人の出歩きが一気に少なくなって、街並みや雰囲気がとても綺麗に変わる。


 一般区も一般区の美しさはあった。でも、貴族区はそれが勝負にならない程に美しい街並みだ。


 それに見えている家々も綺麗な庭だったり、全ての家にも美しさを感じられる。


 そんな街並みに僕とセレナちゃんはただただ感動して呆気に取られていた。


「キャンバル様。到着しました」


 荷馬車が止まったのは、大通りに店を構えている大きな店だった。


 大通りとだけあって、他の道と比べて人の往来はそこそこあるけど、全員がどこか気品あふれる人達ばかりだ。


 貴族区なんだから当たり前と言えば、当たり前か。


「おかえりなさい。遅かったですね。グレインさん」


 一人の少年が声をかけてくる。


「すまない。グレインは向こうだ」


 爺が指差した場所に顔が絶望に染まっているグレインがいて、一瞬驚くが爺が指を口に当てて大声を出さないように注意している。


「商店長を呼んで来てくれ。セバスと言えば分かる」


 少年は一目散に商店の中に走り去る。


 それから数十秒もしないうちに中から慌ただしい足音が聞こえて一人の好青年が出てきた。


「久しぶりです。ハーミットさん」


「こ、これは!」


「静かに。私達は忍びで来ております」


「かしこまりました。ではこちらに」


 好青年は事情も何も聞かず、荷馬車を商店の奥に案内してくれた。


「ベリル殿。もしもの時は、キャンバル様を頼みます」


「任せておけ。命をかけてお守りする」


「ええ」


 荷馬車が止まってすぐに僕達は荷馬車を降りて、グレインと護衛達を引きずり下ろした。


 全員が身体のどこかの部位がなくなって、鉄の首輪を付けられている事にハーミットと言われた人以外は全員が真っ青な表情に変わってた。


「言わずとも、現状は分かりますね?」


「はっ。心得ております」


 すぐに隣の人に何か伝えるとグレインと護衛達を連れてどこかに向かった。


 僕達はハーミットさんに案内され、商店の中に迎えられる。


 案内された部屋は貴賓室のようで、高価そうな調度品が沢山並んでいて、テーブルには美味しそうなお菓子も常備されていた。


 すぐにメイドさんが数人現れて、さらにお菓子やら紅茶を用意してくれた。


 毒味と言いながら爺が先に試飲していたけど、真剣な雰囲気だったので、それは止められなかった。


 それから少しの時間が流れた。


 ノックの音と共にハーミットさんともう一人の執事服の人がやってきた。

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