第31話 舞い降りる絶望

 ◆バルバギア王国軍◆


「そろそろ例の町が見えるか?」


「はい! 遠目からでも城壁が見えていましたので!」


 無数の馬に乗った黒色で統一された軍服を着た軍人達が水平線を眺める中、一人顔に傷がある男が報告を受けていた。


「こんな田舎を通った意味はあったのかどうか……はてさて、女神様はどちらに微笑む?」


 遠目で地平線を眺めて呟く男は、歴戦の風貌を周囲に見せつけていた。


「将軍! そろそろ時間です」


「そうか。みなの体力は?」


「問題なさそうです」


「ふむ。女神石を持ってここまで来たのだ。手ぶらでは帰れないからな。全員気合を入れるように」


「はっ!」


 数秒後、将軍の言葉が周りに渡されると歓声が上がった。


 それ程に将軍が慕われている証拠である。


 百名にも及ぶバルバギア王国軍がまだ見ぬ町に進もうとしたその時。




「空になんか飛んでるぞ!」




 一人の兵士が声を上げる。


 その場にいた全員が空を見上げた。


 眩しい光が降り注ぐ中、堂々とバルバギア王国軍を見下ろしているのは、美しい青年。


 光を受けて黄金をも凌駕する美しく輝く金髪から覗く瞳は知性に溢れ、絶対的な強者である気配を周囲に放っていた。


 その場にいた兵士達が思わず息をのむ中、歴戦の戦士である将軍だけは辛うじて正気に戻った。


「全員! 戦闘態勢!」


 将軍の言葉が響き、全員がその場で剣を抜いて戦いの緊張が走る。


 空に飛んでいた圧倒的な強者がゆっくりと地上に降りて来る。


 その足が地に着いた瞬間、周囲に魔力の波動が響く。


 それはただの風のように優しい風圧で周囲に広がる。だが、その中身はその者は強者であると誰しもが感じられる魔力の波動であった。


 そして、強者は凄まじい形相で睨みながら口を開く。


「おい、てめぇら。ここがどこだと思うんだ? ああん? おれぇさまのナワバリに入ろうってんのか? ああん?」


 言葉にも魔力が乗せられ一気にバルバギア王国軍に渡る。


 ただの言葉にも凄まじい重圧が込められ、その場に立っていられない兵士も出てきて、その場に座り込む兵が続出する。


 その中、一人だけがやっと一歩前に出てこれた。


「お、俺はバルバギア王国軍の将軍ジャックという! そなたはインハイム家の魔法使いか!」


「…………おれぇさまはキャンバル・インハイム。インハイム家の長男だ」


「っ!? ま、まさか……インハイム家にこのような英傑がいたとは…………信じられん……」


「この先はおれぇさまのナワバリだ。――――――やんのかぁこらぁ?」


 圧倒的。


 まさしくその言葉が似合う程にキャンバルから放たれた空気・・がバルバギア王国軍を襲う。


 一人、また一人、その場に武器を落とし、口から泡を吹く者、失禁する者、泣き崩れる者が続出した。


 その現状に将軍が動く。


 キャンバルと将軍の間に一瞬の時が流れ、キャンバルの背中に汗が流れる。




「も、申し訳ございません……どうか兵達の命だけは助けてください…………」




 土下座をする将軍は、精一杯の誠意を見せ、地に頭を擦り付けて自身が持つ最高品である女神石を両手に持ち、キャンバルに捧げた。


「…………わかりゃいい。その石を置いて、とっとと帰んな!」


「は、はいっ!」


 将軍は輝く石を地面に置いて、逃げるかのように兵達を率いてバルバギア王国に帰っていった。


 帰っていくバルバギア王国軍を睨み続けるキャンバル。


 そして、地平線からバルバギア王国軍が見えなくなった時、キャンバルは小さく呟いた。
















「あ~怖かった。ヤンキーの真似ってこんな感じでよかったのかな?」


 ――――と。

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