第14話 ロシア人の殺し屋
府前市第四中学のとある教室。
ディミトリが教室に戻ってくると少し遅れて鮫洲が入ってきた。
すると、そのままディミトリが座る席にまでやってきた。
「お前ってやたら強いな」
鮫洲がニコニコしながらディミトリに話しかけてきた。
「ん?」
一瞬、何の事か分からないディミトリが首を傾げる。
「いや、兼田たちに体育館裏で絡まれてたろ」
「ああ…… 何で知ってるの?」
確かトイレには一人で行ったし、そのまま連れて行かれたので鮫洲が知る事は出来なかった筈だと考えた。
「小川が教えてくれたんだよ」
小川というのはトイレで座らされて居た奴らしい。きっと、鮫洲に知らせて『見捨てた』という罪悪感から逃げたかったのであろう。
(別に気にしてないのに……)
ディミトリにとっては些末な出来事であったので苦笑を浮かべるしかなかった。
「だから助けに入ろうと思って、体育館裏まで行ったんだけどさ」
鮫洲は体育館裏までやってきていたようだ。中々、親切な奴であった。
「で、いざ声を掛けようとしたら、お前はあの三人組を瞬殺していたんだよ」
そういってクックックッと笑っている。彼にとっては愉快な出来事だったようだ。
「次は俺が助けるまで待っていてくれよ」
どうやら、あまりの速さに助けに入る暇が無かったようだ。
きっと、ゲームセンターでの出来事や、その後の拉致未遂の事で借りを作ってしまったと気にしているようだとの印象を受けた。
「そうなのか…… わざわざ済まなかったな」
何だか良く分からなかったが、ディミトリはとりあえず謝っておいた。
どう見ても武闘派には見えない鮫洲だが、友人を見捨てない所を見ると良い人なのだと思った。
だから、彼の申し出を無下にするのは気が引けてしまっていたのだ。
「良いってことよ」
そういって彼は席に戻っていった。それと同時に三人組が教室に入ってくる。
席に座るディミトリに気が付くとビクリとしてから、目を合わせないようにそっぽを向いたまま大人しく席に座ったのであった。
場所は変わって神津組の事務所。
「で、ゲーセンで銃構えてたのはコイツなのは間違いないか?」
神津組組長である番陵介(ばんりょうすけ)は一枚の写真を見ながら手下に質問した。
写真には地下酒場の事務所ドア前で、ナイフもどきのバーベキュー串を構えるディミトリが写されていた。
ただ、写真は安い防犯カメラの映像を印刷した物で、解像度も低く横顔なので似てるらしいとしか分からなかった。
「はい、あの目付きは忘れません」
ディミトリは田口兄の件で地下酒場い連れて行かれた事があった。
この部下は、その時に酒場で身構えていた神津組のひとりだ。
「その後、玉川(ワン)も渡辺も行方不明になったんだよな……」
「はい……」
渡辺とはディミトリを大串の家の前から酒場に連れて行った男だ。
この場に居ないということは、倉庫でディミトリに始末されてしまった一人であろう。
「そういえば…… 灰色狼もコイツが殺ったと玉川さん(ワン)は言ってました……」
番は灰色狼が自分のシマ内で薬の商売するのを許していた。上納されるシノギが魅力的だからだ。
だが、灰色狼が『ロシア人の殺し屋』に刈り取られてから、そのシノギが無くなってしまい痛手を受けていた。
「……」
番は写真をしげしげと見つめている。
パット見は生意気そうな小僧だが、普通の中学生に良くあるイキった小僧のソレであった。
(どう見てもその辺の小僧だな……)
だが、銃を構えていた時の面構えを思い出した。
(あれは、訓練を受けた兵士の気迫みたいだったよな……)
仕事柄、大陸系の黒社会とも繋がりがある。中国に商談がてらに観光をしに行った時に、組織専属の殺し屋を紹介された事があった。
つまり、日本で面倒事が起きた時には力になるよ……或いは下手を打つと彼が探しに行くよとの脅しであると受け取っていた。
その殺し屋の持つ独特の雰囲気と商業施設で出会った小僧の印象が重なったのだ。
(件の殺し屋の知り合いという線もある……)
『ロシア人の殺し屋』と同一人物とは思えなかった番は、この小僧が弟子か何かなのではないかと考えたのだ。
「じゃあ、この小僧に事情を聞く必要があるな……」
殺意全開で周りにいる男たちに銃を突き付けていた小僧を思い出していた。
「浚いますか?」
「ああ……」
分からないことをアレコレ考えても仕方が無い。彼に直接聞くのが早いとの考えに至ったのだった。
それに、番が気にしているのはワンの行方でも灰色狼の事でもない。
(何故、小僧は鮫皮組のボンを守っていたんだ?)
番は商業施設で小僧に出会った際に、鮫皮組の組長の息子を庇っている印象を受けていた。
自分たちと対立する組織が『ロシア人の殺し屋』と繋がりがあるかも知れない奴と一緒に居る。
その事が問題なのだ。
(鮫洲ぅーー、俺たちにちょっかいを出そうとしてるんかあ?)
偶然など信じない番は鮫皮組に疑念を持ち始めていた。
時々、会合を設けるなどしているが、お互いに相手のシマを狙っている。
彼らはヤクザだ。自分の利益には敏感であるのだ。
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