第5話 帰還 ②

 「使徒ってのはルミナを持つ連中だろ? 俺が見た奴らとそれ以外の敵の詳細は分かるか?」


 「純正品のルミナを持つ敵はポエナのみ。他はルミナの劣化模造品であるルミナの蟲を体内に飼っています。しかし、ルミナの劣化品だとしてもコードをポエナが明け渡している為戦闘能力は常人を遥かに凌駕します」


 「コード?」


 「私達の遺伝子プログラムに保存された特殊機能の名称です。ポエナが持つコードは獣、停止、毒、操作。この四つです。何れも世界の開花に必要なコード故に、分散されたコードを回収する必要があります」


 「嫌な単語ばかりだな。獣といやぁカアスって呼ばれていた男がそれだな。停止は影みたいなさっきの男か。毒薬と操作は誰が持っているんだ?」


 「名前は分かりませんが毒薬は男、操作は女ですね。所在地は男の方が搭の中層区画。女の方は下層区画に居るようです」


 「居る場所が分かるのか?」


 「はい。コードの識別信号を辿れば簡単に割り出せます。……着きました」


 階段を数えるのも億劫になる程下り、行き止まりとなっている壁の前に立ったイブは指でスッと壁をなぞる。


 「行き止まりだぞ」


 「部外者以外が立ち入る事が出来ないよう隠匿された隠し通路です。見えていたら意味がないでしょう?」


 壁に薄い緑のラインが走ったと同時につなぎ目一つない壁が音も無く横にスライドした。電源が入っていない区画だというのに壁が開いたという事は予備電源が作動しているのだろう。暗闇に閉ざされた空間へ迷い無く足を進めたイブの後を追う。


 二人分の足音だけが木霊する通路は不気味なほど静かで、鳥肌が立つくらいに冷えていた。いくらルミナにより視覚が強化されていようとも、僅かな光も存在しない暗闇の中では夜目さえも効かず黒一色の世界が広がっていた。此処には何もない。生物が発する音も、誰かが銃を撃つ発砲音も、叫び声も、何も無かった。


 「……」


 喉が少しずつ、真綿で締め上げられてゆく感覚。居もしない誰かがジッと此方を見つめているような感覚。汚染指数は先ほどまで居た空間に比べ遥かに低い。だが、この通路は生きている人間を拒絶するような、奇妙な空気に満ちていた。


 「何か、嫌な感じがする」


 「嫌な感じとは?」


 「分からない。けど、此処に長く居ちゃいけないような気がする」


 耳鳴りがする。耳鳴りに混じって誰かの叫び声が聞こえる。


 「何か、聞こえる」


 「何か?」


 叫び声の中に聞き慣れた音が混じった。これは、銃声。フルオートとセミオートの銃声が聞こえる。血が噴き出る音。脳漿が飛び散る音。罵声。怒声。死を含む呪言が飛び交い脳の処理が追い付かなくなり意識が混濁しようとした瞬間、はっきりと聞こえた声があった。それは―――


 死にたくない。そんなたった一つの切なる願いだった。

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