恋する乙女パワー⑤

「本当にハナ様だけで行くんですかぁ?」

「だって、お嫁さんにしてくれるだけでありがたすぎるのに、これ以上お時間を取らせるなんてことは出来ないでしょう? エドウィン様はお忙しいのに」


 しかも、私が嫁ぐことでギャレック家はウォルターズ家に多額の援助をしてくださいます。お父様の仕事をする上でも便宜を図ってくださるそうで。

 その上、私の生活に必要な物は全てあちらで揃えてくださるというのですよ? もう返せるものなんて労働力くらいしかないじゃないですか!


 ですから、エドウィン様の貴重なお時間を減らさない努力もするべきです。

 護衛のための冒険者さんも雇いましたし、持ち物もそんなにありませんから身軽に移動出来ます。それはもう、今すぐにでも向かえるくらいです。


「で、でも、ハナ様はあの恐ろしいギャレック家に嫁がれるんですよぉ? ウォルターズ家のためとはいえ、なんとお労しい……!」

「だーかーらー、何度も言っているでしょう? 私が! エドウィン様に! 一目惚れをしたのっ! 押しかけるのは私の方なのっ!」

「言わされてるのですね! わかります、わかりますよぉ、ハナ様ぁっ!」


 ワッと泣き出してしまったパメラを前に、もはや説得を諦めてしまいます。パメラだけでなく、家の者はみんなこの調子なんですよ。困りましたねぇ。


「身売りするようなものなのですから、ギリギリまで実家にいらっしゃれば良いではないですか! 急ぐ必要なんてありません! それに迷惑だとハナ様は言いますがね、ギャレック辺境伯は忙しかろうがハナ様のために快適な旅を約束すべきなんですよぉっ! うわぁん、ハナ様がかわいそう!」

「もー……何度言ってもわかってくれないのね? ま、いいわ。どうせ遅いもの。だって、すでにエドウィン様にはお手紙を出したから」

「ええっ!?」


 さすがに黙って前倒しで行くわけにはいきませんからね。ただ、あちらからの返事が来る前には出発の日になってしまいますが。

 だって、そんなことを知ったらお優しいエドウィン様のこと、絶対に遠慮せずに待っていろとおっしゃるでしょう? ええ、返事が間に合わないのは計算済みです。


 そもそも、相談するにも時間が足りないのは事実なのですよ。魔法を使った手紙は魔力のない私には出せませんし、受け取れません。人に頼むのもとてもお金がかかりますから無理です。仕方ないですよね?


「そもそも、ギャレック領周辺はとても危険ですよぅ? 王都周辺よりもずっと危険な魔物が出るというじゃないですか。国内なので他国からの襲撃には遭遇しないでしょうけど……」

「もちろん知ってます。ちゃんと勉強したんだから」


 その辺りでもご迷惑をかけないために、ギャレック領出身の冒険者を雇いましたから! たまたま見つかって運が良かったです。各地から人が集まる王都だからこそ見つかったともいえますね。


「安全なルートの確認、旅の準備、資金もギリギリだけど用意したもの。きっと大丈夫よ!」

「うぅ、何がハナ様をそこまで突き動かすのですかぁ……」


 何が私を、ですか? エドウィン様のお時間を取らないためでもありますが、一番はこれですね。私はグッと拳を握りしめました。


「愛に決まっているでしょう! エドウィン様のためならなんだって出来ちゃう!」


 何より、エドウィン様が恋しいのです。早く会いたいのです。これがいわゆる恋する乙女のパワーですよ!


「趣味が悪すぎますよぉ!!」

「失礼ねっ! エドウィン様は、世界で一番かわいくてカッコいい未来の旦那様なのっ!」


 いつか、パメラたちにもわかる日が来るんですから。泣いて謝っても許してあげ……あげます! かわいいの前には些細なことです!


 それから私は出発までの二週間の間に、冒険者の方々と念入りに打ち合わせをしたり、持ち物の確認を何度もしました。


 お世話になった人たちへの挨拶などもしてきましたよ。お父様の作った薬を売るお手伝いもしていましたからね、顔馴染みは結構いるのです。

 皆さんの反応はほぼ予想通りのものでしたね。ええ、かなり心配されましたし泣かれました。

 それでも私はめげずにエドウィン様の素晴らしさを説きましたけどね!


 結局、家族も含めて誰にも理解はしてもらえませんでしたが、私があまりにも楽しみに、そして幸せそうにしているからか、最終的には頑張るんだよと温かく見送ってくれました。ま、今はそれでいいです。


 準備は万端。あとは出発するだけ。ああ、楽しみです! 早くお会いしたいです、エドウィン様!

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