第33話

 オークションの出品品目を怪盗眼鏡を掛けて見ているのだが非常に興味深い品があった。それは魔導銃である。


 これは個人制作の品のようで現品限りのようだ。まだ実物は見ていないのだがとても気になる。俺は普通に魔法が使えるので余り必要は無いかもしれないが、これは浪漫の話である。だって格好良いじゃん?


「ボス、この魔導銃ってどんなもんなんすか?」


「ん?銃ってなんだ?…聞いたことねーな」


 ……銃の事を知らない?ということは存在しないのか?でも戦争の前線では使われているんだよな?俺には判断できない。


 オークションの順番としては魔導具関係が前半にあって、中盤がレアな鉱石やダンジョンからの出土品などとなっている。そして最後になんと奴隷の出品もある。


 俺の本来の目的は宝珠か魔法用の杖なのだが、前半の魔導銃が1番気になってしまった。オークションなので値段が幾らになるのか全く分からないので下手したら銃だけになってしまうかもしれない。


 ちなみに資金は1千万ガルドだ。普通なら何でも買えそうな所持金ではある。本来なら奴隷が持っていてはイケない金額だと思う。これもひとえにボスの保護者としての心の広さのお陰である。


 ちなみにそんなボスはオークションでは奴隷は買わないようだ。オークションでの奴隷販売は権利譲渡になるので非常に高く付くようだ。


 権利譲渡とは返済金の1/3を支払うという帝国奴隷法のアレである。ただオークションの場合は、出品者も返済の回収が不可という不良債権を少しでも回収しようと普通よりは安く売るようだ。


 本来は不正なのだが、このオークションに限り許されている。奴隷市では戦争で捕らえてきた奴隷の保護が目的なので値段は全然安いらしい。俺なんてジョブ無しの時だったから金貨10枚で保護されたようだしな。それが今や金貨だと20万枚という意味がわからない金額になっている。


 ただ奴隷市では奴隷商しか取引出来ないらしい。昔は誰でも買えたらしいのだが、格安で買った後使い捨てのように雑に扱う人が多かったらしく、人権も何もなかったようだ。その為奴隷商と言う特別な商人制度を作って管理していると聞いた。


 そんな事を考えながらオークション用の会場に入る。正面にステージがあり、その上に白い布が貼られた機材が置いてある。あれが通信用の魔導具なのだろう。プロジェクターのようにあの布に映し出すのかな。


 周りを見回すと200くらい有る座席が既に半分位は埋まっている。俺はボスと並んで座る。何処からでも魔導具は良く見えるように配置されている。


 それから多分1時間程たった頃、ステージにある布に進行役と言うギルド職員が映し出される。どうやらこことは別の場所でオークションを勧めていくシステムのようだ。


 客席も立ち見が出るほど人が入っている。ボス曰く、魔導具のオークションが終わる頃には半分くらいの人は帰ってしまうらしい。


 最初は魔法ギルドからの最新型生活用魔導具の出品物が続く。多分ここら辺を目的に来ている人が非常に多く感じる。値段も面白い位に上がっていく。これって暫く待てば普通に一般販売されるのではないのか?と思っていたのだがどうやら競っている商人はどこぞの貴族の御用聞きとかの様で、最先端好きの貴族のために頑張っているようだ。


 確かに日本でも、限定品とか先行販売などの転売ヤーが問題になっていたもんな。別に犯罪でもなんでも無いのだがモラルの問題だった。ここではそれがちゃんとした仕事として成り立って居るようだ。


 魔法ギルドの出品は大体終わり、次は個人魔導技師達の渾身のワンオフ作品の番だ。俺としてはここからが楽しみだったのだ。もちろん魔導銃も気になるのだが、他にも名前では使い方が分からないような物まで出てくる。


 分かるものでも、それ必要?って思う物も多数出品されている。魔導水分補給器はスイッチを押すとヤカンのような物が自動で傾きホースを伝って出てくる様だ。魔導靴履き器は靴をセットして爪先を靴に入れると靴ベラが出て来て履かせてくれるらしい。魔導という言葉は自動と受け取って良さそうだ。


 これって自称発明家達の面白発明品のお披露目会だな。まあ実践販売を見ているようで非常に楽しい。だが当然誰も買わない…。そしていよいよ魔導銃の番となる。


 開発者が3〜40cm程度の長さの銃を手に持って出て来て、実際に使用して見せてくれる。なんと両手に1丁づつの計2丁だ。2丁拳銃だ!


 形は中世の小型マスケットだ。ベースは白い金属と木を使っているのか真っ白で、装飾も銀色で、かなり凝っていてかなり胸キュンです。


 開発者が10M程先にある的に向かって引き金を引くと的が爆ぜた。火薬を使っていないのでとても静かではあるが、俺的にはそこはマイナスポイントではある。音も火薬の匂いも大事だと思うのだ。嗅いだことないけど…。


 でも威力は多分凄いと思う。後はコスパかな。魔石をどの程度使うのかが問題になってくるのだが、そこら辺の説明もしっかりしてくれている。


 どうやらいつも俺等が狩っている魔石で大体5発は撃てるようだ。魔石の取替も簡単で、ボルトアクション式ライフルの様に銃身と引き金の間がパカッと割れてそこに魔石を入れられる様になっている。


 もう最初に見た時点で俺の心は決まっているのだが。値段は50万からのスタートとなった。当然俺は真っ先に手を挙げる。周りの反応は……誰も手を挙げない。マジで?威力見たでしょ?


 その後締め切りギリギリで、10万乗せて競ってきたので俺は間髪入れずに更に10万乗せる。その後も消極的に上乗せされたけど俺はガンガン乗せていく。それでハンマープライス。


 最終的に95万で落札できてしまった。全然人気無かったんだけど俺にはそんなのは関係ない。もう一度言うがこれは浪漫の問題なのだ。2丁マスケット銃なんてマジで格好良くない?早く使ってみたいぜ!


 その後の魔導具はもうどうでも良かった。俺の中ではマスケット銃の事で頭が一杯なのである。白いベースに銀の装飾…くぅ〜〜っ!シビレるぜ!


 など考えていたら普通に宝珠と鉱石をスルーしてしまった…。まあまだダンジョン産の武器が有る。ただ問題がある。スタートの時点で俺の所持金を超えて来やがる…。想定外だ…。次回を楽しみにしておこう。


 最後に奴隷が纏めて出て来た。男性3、女性7の様だ。種族は色々で人間は一人も居ない。身体の一部が鱗で覆われていたり、フィンの様に耳が付いた種族などである。そして大半が腕なり足なりを欠損しているようだ。


 なるほどな…それで返済金の回収不可という事になるのか。可哀想に。奴隷保護法があっても怪我は当然しょうがないのだろう。闘技場の奴隷などなのかな?戦争に行けば命すら落とすのだから。ただハイリスクでハイリターンなのは確かなのだ。


 その中に俺は気になる奴隷を見つけてしまった。それは視力を失ったエルフの女性だ。


 多分純血の様で、ラミやソラと違って耳が長くて尖っている。そして透明感が半端ない。髪は長い銀髪を編み込んでいる。そしてエルフなのにジョブはウォリアーだ。前線ジョブで失明していたら致命的なのは確かだ。こうなってしまうともう娼婦として稼ぐしか無いのだろうが現在の所有者は回収不可で手放したいようだ。


 俺は無くなった手や足や目は生やす事は出来ないが、目の代わりの魔法を教えることは出来る。「ソナー」の魔法だ。この魔法を防具に付与したらどうなるのだ?まだ試したことはない。


 そもそも魔法職が後から生えるとは誰も知らないのだから戦闘職で怪我したら手放してしまうのもしょうが無いのかもしれない。


 でも俺は知っているし、教えてあげる事も付与する事もできる。ただそれには成約が必要になってくる。周りにペラペラ喋られてしまったら大変なことになってしまうから。


 ボスに俺の奴隷として買っても良いか尋ねると、しっかり面倒見ろよ?と言って許可してくれた。後は値段次第なのだが…800万ガルドだと言う。少し安めに出品していると言っていたので本来は3千万〜4千万位なのだろう。


 それでも純血エルフにしては破格な値段らしい。そもそも前衛エルフな時点で外れと言う。そこに失明までしてしまったのだから。


 奴隷のオークションに競りは無い。早い者勝ちらしい。何せ競れば競るほど損をするのであるから。


 俺はエルフの番号である「6番」と声を出して伝えるだけで落札である。遂に奴隷の俺が奴隷持ちとなった。


 もちろん彼女の役にたってあげたいと言う思いは9割位で、残り1割は……絶世の美女だからだ。というのもあるが、エルフは魔法に縁のある種族だと認識している。魔法の中でも俗に言う精霊とコンタクトを取れると思う…。ラノベ調べですが…。


 後でボスに部屋の拡張をお願いしようかな…。ほんとワガママな奴隷でスイマセン…。





 






 


 


 

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