エピローグ ~『グノムからの報告』~


 タリー領での事件から月日が流れ、リグゼは十三歳になった。エルド領の領地経営も順風満帆で、経済力、軍事力共に男爵家の領域を遥かに超えていた。


(子爵家に昇格する話も来ているし、このままいけば本当にイーグル領を超えられるかもな)


 そうなればリグゼの発言力はグノムさえ超える。アリアの将来を自由に決定するだけの権力を手中にできるのだ。


(領地だけじゃない。能力も高めないとな)


 リグゼは日々成長している。現在の彼のステイタスは既に大賢者クラスに到達していた。


――――――――――――――――――

『名前』リグゼ・イーグル

『魔力値』1500000(ランクS)

『成長曲線』ランクS

『固有魔術』

 鑑定(ランクS)

 召喚(ランクS)

『基礎魔術』

 錬金(ランクD)

 命令(ランクD)

 炎(ランクE)

 水(ランクE)

 雷(ランクE)

 土(ランクE)

 風(ランクE)

 回復(ランクE)

 強化(ランクF)

 煙幕(ランクE)

『劣化魔術』

 時間操作(ランクS→ランクD)

 転移(ランクA→ランクD)

『召喚獣』

 グランドタートル(ランクA)

 ゴブリンキング(ランクB)

 シルバータイガー(ランクC)

 レッサーウルフ(ランクE)

――――――――――――――――――


(成長する中で得られた最大の成果は《転移》の魔術だな)


 リグゼの《鑑定》は視認さえすれば、その魔術をコピーすることができる。この力を活用し、物資移動を行っていた。


 おかげで食料などの輸送が楽になった。領地が反映したのも、この《転移》の力の功績が大きい。


(ただ俺の《転移》は劣化版だからな。完璧に扱えるランパートと比べればまだまだだが……)


 《鑑定》はランクD以下なら完璧に術式をコピーできるが、ランクC以上なら性能を落とした状態で模倣する。


 そのため本来なら自由自在に移動できる《転移》が、予めマーキングした場所にしか移動できない制約がついてしまった。


(まぁ、それでも使い道はあるんだがな)


 リグゼは《転移》を発動させ、目的地へと飛ぶ。辿り着いたのはグノムの私室だ。急に現れた彼に対し、グノムは眉一つ動かさない。この光景に慣れていたからだ。


「時間通りだな」

「グノムとの約束だ。きっちり守るさ」

「あの生意気だったリグゼが大人になったものだな~」

「軽口はいいから。さっそく本題に移ろうぜ。例の調査を報告してくれ」

「焦らずともしっかり説明してやる」


 机に積まれた書類から一枚の紙を受け取る。そこにはリグゼの予想していた通りの内容が記されていた。


「アーノルド王子の勢力は大きく力を落としているのか……」

「薬物の件が露呈したからだな」


 帝国の手引きで、タリー領に薬物をばら撒いた黒幕はアーノルドだった。これを突き止めたのはレンのお手柄である。


(あいつがルーザーの後を尾行させたからだな)


 すべてを失ったルーザーは必ず黒幕に助けを求めるはずだと、レンはランパートに尾行を命じたのだ。


 その結果、アーノルドたちとの密会現場を押さえることに成功した。さすがのパノラも《武王》相手では気配を察知できなかったのが勝因だろう。


 レンは手に入れた事実を元に、王宮へと抗議を入れた。証拠はなくとも、人の動きはどうしても痕跡が残る。


 アーノルドがタリー領を訪れていたことは知られていたため、その抗議内容を信じる者も多く表れた。


 王子は清廉潔白が求められるため、破滅せずとも、噂だけで痛手になる。特に帝国との仲を密にすればするほど、薬をばら撒いていた噂に信憑性を持たせることになる。彼の動きを封じることにも繋がっていた。


「アーノルド王子が次期国王になる道は閉ざされた。我々、イーグル領もどの王子を擁立するか考えなくてはな」

「俺はアーノルド以外なら誰でもいいぞ」

「こんな売国奴と手を組むことはないから安心しろ……それにしても、アリアを嫁がせなくてよかったな」

「婚約を断ってくれたことだけは感謝だな」


 もしアリアとの婚約が成立していたら、彼女まで売国奴の烙印を押されていただろう。


「アリアといえば見合いの話が来ているそうだな」

「おう、予想以上にな」


 アリアは銀髪のせいで外見こそ人気はないが、それ以外は完璧だ。聖女としての評判に、魔術の実力、そしてエルド領の次期領主候補の地位。彼女の夫の座は魅力的に映るに違いない。


「ただそれでも男爵家の次男や三男ばかりだ。理想はレンが結婚してくれることだが……」

「断られたのだろう?」

「姉としてしか見れないとさ。作戦が裏目に出たな」


 元々の予定では、幼少期から共に過ごすことで、アリアの内面に惚れてもらう想定だった。しかし共にいたからこそ、異性ではなく、姉弟として意識してしまったのだ。


「実に残念だが、まぁ、レンがそう言うなら仕方がないからな」

「リグゼよ……本当に残念なのか?」

「俺が妹の幸せを願わない理由があるのか?」

「それは……いや、なんでもない……忘れてくれ」


 意味深な態度を取りながら、グノムは言葉を濁す。


「変な奴だな……まぁいい。俺はそろそろ行くぞ」

「予定でもあるのか?」

「これからサテラと修行だからな」


 リグゼは挨拶を済ませ、《転移》の魔術でその場から去る。その消えていく姿をグノムは微笑まし気に見つめるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る