2 嬉しいこと、楽しいこと…そして不安

※前話をお読みいただき、本当にありがとうございます。

温かいお言葉をくださった方もおり、本当に嬉しいです。ありがとうございます!!

この辺りからは当時の日記を元に書いていこうと思います。

けっこう詳細に書いてあって驚きました。そして、気持ちが二転三転、あっち行ったりこっち行ったり…年相応というかなんというか。とにかく悩んでました。

読みにくい点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。



《女子が好きな人=必ず男子》

 それが『普通』であり、それが理解できないのは『異常』なのだ、と私は思い込んだ。

 誰かに相談することもせず、ひとり胸の奥にしまい込んで、『普通』であることを取り繕うことにした。

 恋愛話になると好きでもない男子が気になると話し、女子の輪の中で『普通の女子』をした。

 何より怖かったのは、『ひとり』になること。そして、周りから嘲笑されたり嫌悪されたりすることだった。

 だからといって無理をしていたようには感じなかった。話題は恋愛話ばかりではなかったからだ。勉強、部活、テレビや音楽、アニメ、マンガ…私は、好きな男性俳優やアイドルもいたし、女子に人気があった男性の先生を素敵だな、と思いもしたからだ。

 友達には女性俳優やアイドルを素敵、好きだと言う子もいた。それを『レズビアン』だとは誰も嘲笑はしない。

 『好き』が違ったからだ。

 指向と嗜好というのか、LOVEとLIKEのような、恋愛として好きなのか人として好きなのか…まだまだ子供だった当時の私には、それをはっきり区別することはできなかったが、何となく違うものというのは理解できた。


 そうなると、

《私は本当に女子が好きなのか?それは人として好きなのではないか?》

《もしかして、レズビアンではない?》

《そもそも特定の女子が好きなわけじゃないじゃない!これから本当に好きだと思える人ができて、それは男の人かもしれない!!》

《思い違いなのかもしれない!!》

 そんな考えを自分の中でするようになった。

 自分の中の違和感をハッキリと認めてから数ヶ月、14歳になっていた。夏休み直前の頃だった。


 

 中2の夏休みは忙しなかった。部活では先輩の引退試合や世代交代も近かったし、学校の宿題はもちろん、受験準備の為の塾での夏期講習もあった。

 そこで人生初の経験をした。


 『恋人』と呼べる存在ができたのだ。


 小6から通塾していたが、本格的な夏期講習はこの年初めての参加だった。駅前にあった中規模の進学塾で、周辺の小中学校に通う生徒が集まっていた。

 同じ学校の友達も数名通っていたが、クラス編成はみんな別々だった。

 15名程度のクラスでの顔ぶりは、塾友達もいれば、顔見知り程度の子、夏期講習からの入塾組もいた。雰囲気はいつもと違ったが、居心地が悪いということもない感じだった。

 塾なのだから居心地も友達もあまり関係無いのだが、SNSもない当時は他校の生徒と交流できる数少ない場で、それが楽しかったりした。

 授業前に塾友やそこから繋がる子と話す。他校と自校の違いなんかでは盛り上がったりしたものだ。自然と高校受験の話も出る。

 兄姉がいる子は受験時の体験談を聞いてきてくれたり、まだぼんやりとしか考えていない志望校の話なんかもした。

 当時の私が志望していたのは、家から1時間程度の設立されて10年程度の高校。人気も高く、学力も高め。私の学力で目指せなくはないが、まだまだ頑張りが足りないレベルだった。

 地元の公立、少し遠方の私立、県内屈指の秀才校など各々が学校名を口にする中で、私と同じ学校名を出した子がいた。

 第一印象は、思ったことをハッキリと言う子。高い身長で長い髪をいつも丁寧にポニーテールにしていた。他校の子で、顔は見たことがあったが話したのはこの時が初めてだった。

 なんとなく私が苦手とするタイプで、最初は仲良くはならないだろうなぁと思った。しかし、志望校が同じことや話してみると共通点も多く、2人で話すことも増えた。


 その子のことをみーちゃん(仮名)と呼ぶようになり、彼女は私のことをフーちゃん(仮名)と呼んだ。

 友達は私のことを名前で呼んだり、フックーやフクと呼ぶことが殆ど。〝〇〇ちゃん〟なんて呼ばれることは無かった。私が嫌がったからだ。

 だけど、彼女に呼ばれるのは嫌ではなかった。むしろ新鮮で不思議な感じがした。


 みーちゃんと私は学校も違えば、住んでいる場所も駅を挟んだ真逆の方向。ちょうど中間に塾があった。

 だから塾前に駅で待ち合わせるようになった。早めに落ち合って、なんでもない話をダラダラすることもあった。

 塾以外で会うようになった。図書館やファーストフード店で勉強をしたり、ただ話をしているだけ、なんて日もあった。

 お互いの家へ電話をする回数が増えた。ケータイ普及前で、メールやLINEなんて手軽にできる連絡手段は無かった。親の目が気になることもあったけれど、とにかく楽しかった。

 みーちゃんとの会話は苦手なものが無かった。恋愛とか男の子の話は出なかった。将来の夢、好きな音楽や本の話、前日のドラマやアニメ、バラエティの話、好きなものが似てたのもある。

 とにかく彼女との時間は、昔から仲の良い友達と一緒にいる楽しさとは違う楽しさだった。

 胸の中がふわふわするような、くすぐったくなるような時間。ソワソワするような事もあったけど、それは嫌な感覚ではなかった。


 今だったら『恋』と言い切れる。だけど、当時は分からなかった。分からないフリをしていたのかもしれない。

 それを『恋』だと認めたら、自分は『レズビアン』だと認めてしまうから。

 

 そんなみーちゃんとの付き合いも、8月の半ばになると終わりが近づくような気がした。

 新学期が始まったら、学校が始まり塾も通常クラスに戻る。会える機会は格段に減る。

 そんな思いを抱き始めた時、彼女と映画に行くことになった。

 前の晩からドキドキしていた。

 何を着るか悩んだし、ショートの髪に強い寝癖がついて、朝取れなかったらどうしようと不安になった。スキンケアなんて碌にしないくせに、ちょっとだけ母親のクリームを塗ってみたりした。

  


 行き先は、電車で20分。2つ先の街で、私達にとってはものすごい都会に感じた。

 アメリカのコメディ映画のシリーズものを見た。

 今も再放送されることがあるので内容は鮮明だが、当時は見たばかりなのに映画の内容はうろ覚えだった気がする。とにかく2人で出掛けたこと、そっちの方が重要だった。

 だがそれは私だけが感じていること、だと思っていた。


「私、フーちゃんが好きなんだと思う。友達としてじゃなくて…気持ち悪いよね?ハッキリ言ってくれていいよ。これからは無視されたって平気だよ」


 そう言われて驚いた。そして、彼女はなんて強い人なんだろう、と思った。

 自分の想いを口にできる。

 異性に告白するのだってとても勇気のいることなのに、同性へ、突き放されることを覚悟して言えたのだから。

 その時、彼女の想いを気持ち悪いなんて感じなかった。

 今まで自分が悩み、恐怖を感じていたことなどは一瞬で吹き飛んだ。

 ただただ純粋に、自分も『彼女が好き』だと思えた。今まで、彼女といると感じていた気持ちは『好き』だから生まれたものなんだ、と。 

  

「私も、みーちゃんが好き」


 自然と口から出た。

 

 帰り道、彼女と手を繋いだ。

 周りから変に見られるかな?なんて2人で言いながら。

 『ひとり』は怖いけど、『ふたり』だったら平気な気がした。だからなのか、意外と人の目は気にならなかった。

 地元の駅で少し話して、家に帰った。

 その晩、電話でも話した。

 友達だと思っていた時と違う気持ちで、だからといって会話に特別な変化は無かった。いつも通り。

 苦手な数学の話、得意な歴史の話、塾の先生の変な癖の話…それなのにすごく特別な話をしている気がした。

 唯一違ったのは、


「また映画に行こう!」

『今度は、〇〇なんてどう?』

「面白そう!!いつ行く?」


 なんて会話が自然とできたことだ。

 今までは図書館に行くのですら探り探りに話していたのにだ。

 なんとなく目の前が開けたような気がした。しかし、これを誰かに言えるのか?

 『同性の恋人』がいる、と言えるのか?

 ふと、頭を過った。


《みーちゃんのことは好き。だけど、これを他の人には…言えない、》


 それを彼女本人に相談することはできなかった。彼女にも「誰かに話す?」とは聞けなかった。

 それは、彼女自身を傷付ける行為のような気がしたからだ。


 楽しくて、嬉しくて仕方なかったのに、それと同時に新しい不安も生まれた。

 

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それでも今まで生きてきました。 フクロウ @OWL-CHOUETTE

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