旅立ち(ロールプレイ)

「つまり、俺たちと一緒に旅をしたいってことか」フラップが訊ねた。

「ああそうだ。『旅に同行したい』という言葉にそれ以外の意味があるのか?」

 エレオニールが二人を呼び止めて、旅への同行を申し出たのだ。

 フラップは厄介なことになったと内心頭を抱えた。

「でも、俺たちはシーカーでは――」

「承知の上だ」エレオニールがフラップの言葉を遮る。

「むしろ好都合とでも言っておこう」

「しかし、こいつは……」フラップがリンネに視線を向ける。

「あっ、私はギルドに所属してないからまだ無職なの。だから最初は役に立たないかも知れないけど、薬草にはかなり詳しいから怪我の手当てなら任せて」

 リンネは凄腕のシーカーの申し出に興奮しきっている。

「そういうことじゃないんだが……」

 フラップが困惑しているのには、実は別の理由があった。


 約1年前、ウーノスから遥か西方の地域を治める『キャスロック王国』でフラップはエレオニールに出会った。

 エレオニールは王室直属の騎士団『インペリアルオーダー』に所属していた。その中でもエレオニールは断トツの強さを誇り、その名を轟かせていた。しかし、騎士団長の座を巡る権力争いへ巻き込まれてしまう。挙句の果てに『ヘルベルト』という男から反逆罪の濡れ衣を着せられ、騎士団を追われる身となった。エレオニールはそれを機に完全にロールプレイを止め、私怨を晴らすためなら手段を択ばないプレイヤー、所謂となった。

 エレオニールは初対面でフラップがデバッカーだと見抜き、修正前のチート情報をリークしてくれたら大金を払うと持ちかけた。フラップはを証明するために金が必要だったため、それに応じたのだった。


「どうする? 返答によっては私にも考えがある」エレオニールが返答を促す。

 フラップは苦悶の表情を浮かべた。もし誘いを断って過去の不正行為を暴露されたら、フラップはアカウントを剥奪されるだろう。。かと言って、エレオニールを連れて各地で不具合を探し回っていれば、他のデバッカーに目を付けられるのは必至である。どうしたら悪目立ちすることなく、自分の目的を遂行できるのだろう。フラップは黙り込んで考えた。


「ねぇ、シーカーは魔王を倒した人が一番偉いんでしょ? エレオニールも魔王を倒すために旅しているんだよね?」リンネが訊ねる。

「以前は私も王の勅命で魔王デモンゲノム討伐に命を懸けていたが、今は別の目的がある」

「じゃあ、私と一緒だね。シーカーにはずっとなりたいと思ってたけど、実は私も魔王討伐には興味ないんだよね」

 リンネが舌を出して笑った。

 しばらく俯いて考え込んでいたフラップが、ふいに何か思いついた様子で顔をあげた。

「よしわかった。そこまで言うのなら、エレオニールと一緒に旅へ出ようじゃないか」

「えっ、ほんとに?」リンネが声を弾ませた。

「ただし、1つだけ条件がある」

「どんな条件だ。言ってみろ」エレオニールは鋭い目つきでフラップを見つめる。

「それは……」

 フラップは大きく息を吐き出してから、重々しく口を開いた。

「魔王デモンゲノムの討伐することだ」

 思いもかけないフラップの言葉に、エレオニールとリンネはしばし絶句した。

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