獣は檻の中で目を光らせる☆☆
奥の部屋に入ると大きな窓が広がり、窓に向かって一台の机と椅子が置かれている。マザーコンピューターを立ち上げると無数の空中ディスプレイが表示される。ナイアとユミルの主な仕事場だ。
手前にある研究室の机には円筒ガラス容器に入った光る蝶が置かれていた。それを囲むように4人が集まる。
「なんだこれは。中の蝶は死んでいるのか?」
容器の下に落ち重なった蝶たちは動かない。それを怪訝な顔でリオが見た。
「昨日採ったばっかなのに!? 死んじゃうの早くない!?」
レイドも容器内の様子に目を見張る。
「眠ってるんだよ。これが俺からの報告。蝶が眠る習性は自然のものと変わらない。眠るには、というか起きるには条件がある」
「条件?」とレイドが返すと、ナイアがスティックライトを持ってくる。電気を消すと、ライトのスイッチを入れる。
「ネオンライトですか?」
「うん。これをね、かざすと……」
真っ暗な部屋の中で怪しく光るピンクのネオンが蝶を照らす。すると先ほどまでびくともしなかった蝶たちが次々と羽ばたきだし、黄色い光を放っていく。ガラス瓶の中はあっという間に光で満ちた。
「どうもこの蝶はネオンの光に反応して起きるみたいだね。この都市でしか生まれないし動けないって感じかな」
ライトを消し部屋の電気をつけるとまた蝶は容器の底にハラハラと落ちていき動かなくなった。
「じゃあこいつらはこの都市のどこかで産まれてるってことですか?」
「産まれてるのか、生み出されてるのか。どうだろうね」
ユミルがようやく和傘を畳む。レイドが不思議な表情でユミルを見た。
「久我も何か分かったことがあったと言っていたな」
「まだ実験してみないと分からないけどね。昨日レイドくんがこれを引き付けている時ジャミングが起こったでしょ」
「ああ、結局衛星からの電波を妨害されてたんでしたっけ?」
「たぶん元凶はこいつ。僕はこいつらがテクノロジーで生み出されてると推測する」
「数日で消えちゃうのもおかしいしね」
ナイアが口をはさむ。
「これを製造している場所があるかもしれないんだな?」
リオが腕を組みそう言い放つと他の3人も押し黙る。蝶が人工的に作り出されているということは、誰かが故意に人を襲わせているという事になる。いよいよ話がきな臭くなる。
4人が誰ともなしに言葉を発せなくなっていると、CSポールの警察隊が一人部屋に飛び込んできた。
「すみません! 今ネットニュース見れますか!? ちょっと……大変なことに」
4人が急いで奥の部屋に駆けこむとユミルがマザーコンピューターを起動させる。とたんにいくつものディスプレイが立ち上がり、さまざまな回路のネットニュースを映し出した。
コンソールのような画面が映し出され、黒字にネオングリーンの英数字が羅列していく。大量に画面を埋め尽くした文字がバラバラになりコンソールを這いずり回る。たびたび画面が乱れ、あの光る蝶が映し出される。まるでサブミナル・メッセージだ。
「これって今都市の人みんなが見れてるんですよね?」
ナイアが自分の端末でアクセスすると、同じようなコンソールが映る画面をレイドに見せる。
映し出された文字列をユミルの黒目が小刻みに揺れ、読み取っていく。
「何か分かるか、久我」
「いや、この文字には意味はない。ただの挑発だよ」
バラバラになった文字たちが何かを形成していく。メッセージがブラックスクリーンに映し出された。
「EFDFNCFS UXFOUZ-GJGUI CVUUFSGMZ PVUCSFBL」
「はあ!? なんだこの文字。どういう意味ですか!?」
レイドが目を凝らし画面を見つめ叫ぶ。
「Butterfly outbreak。暗号とも言えないほどの単純な変換方式だよ。注目を集めるための演出かな。もうネット上では書き込みが溢れてるんじゃない?」
ユミルが静かに答えた。この状況を楽しむかのような犯行声明に気分が悪くなる。
「アウトブレーク? あの蝶を大量放出でもさせる気か?」
ますます困惑の表情を浮かべるナイアが眉間によった皺を指で抑える。
「日にちと場所は分からないのか」
「12月25日」
ユミルが画面を見つめたまま答えた。
「クリスマス!? んだよ! リア充爆破しろってやつか!?」
いよいよレイドが吠えるが、冗談を言っている場合ではなくなった。蝶の対処はSA-F00に託されているからだ。
「どうするよ、リーダー」
一同がリオを見つめた。厄介ごとを押し付けられたとリオが大きく息を吐く。
「何者かによって故意に起こされている事件だと分かった以上、蝶の駆除だけではすまなくなった。ホシの捕獲も必須だ」
「蝶を製造している施設があったとして、これから探す? あと9日しかないけど」
「これまでもそういう類の情報が入ってきていない以上、足で稼ぐのは期待ができないな。昨日から換算して10日後ということはそれまでに蝶を放つつもりはないだろう。25日に照準を合わせる」
「大量放出って、どうやって食い止めるんすか!? 昨日みたいに一か所に固めることが出来るのか分かんないですよ」
リオが腕を組み、顎に手を当てたまま目を瞑る。少し開いた瞳からはただならぬ覚悟が垣間見えた。
「ネオンを消灯させる」
「「「ええ!?」」」
「そんなこと、出来るんですか!?」
「それってあのカグラに頼むってこと?」
「リオくん、さすがにその権限は……難しいんじゃない?」
リオが小さく舌打ちをすると面倒くさそうに口を開く。
「ネオンのことは俺がなんとかする。蝶はかならずどこかの施設から放たれる。放たれたところを探れ、久我。冴島は久我が場所を突き止め次第直ちに向かえ。場所が確定ならネオンを消す。時間との戦いだ」
「オレは?」とナイアが手を上げる。
「お前はその後に蝶製造の解明という大役が待っている、安心しろ」
リオの圧にナイアが聞かなければよかったと苦笑する。
「じゃあ俺は突っ込んで行って、何が何でも犯人捕えます! 俺の命に代えてでも」
レイドが腕を鳴らしているとユミルがレイドのほっぺをぶにっと挟む。
「命を粗末にする子はこのチームにはいらないからね」
「
ユミルが納得した顔でレイドの頬から手を離し解放する。
「ところで、蝶の発生源を突き止める方法がまだないですよね……?」
「そうだよ、ネオンの光に反応することと、ジャミングの元凶になってることは分かったけど。蝶自体が電波を発してるってわけじゃないんでしょ?」
レイドとナイアがユミルの方を見ると、ユミルがにっと不敵に笑う。
「それは任してよ」
「では、この流れで作戦は進めていく。来る25日に向けて、お前たち備えておけよ」
「「「はい」」」
まだ見ぬ凶悪犯を誅伐すべく、4人は気合を入れた。
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