第7話
「同棲よ、同棲。同じ所に棲むで同棲と書くのよ?学年首席さん?」
「いや、その発想はないだろ…学年次席さん」
「いえ?常に一緒にいると言ったら同棲するのが手っ取り早く効率的よ」
そうはならんやろ、とツッコミが飛んできそうではあるが夏目の目は本気である。
「いや、でも」
「何よ、私は本気よ」
不覚にも見とれてしまっているのだ。
プロポーションこそない、いやスレンダーだが凛した表情、整っている顔立ち、吸い込まれそうな瞳、まさに日本の宝。大和撫子と一緒に暮らして自分を制御し切れる自身は志希には無い、それを抜きにしても誰かと住むと言うのは志希にとって容易なものでは無い。長らく一緒に住む、という行為自体か少ないからだ。
「でも、お前が不幸になる…」
「それは心配ないわ、あなたに負の感情を出さなければ問題は無いのよ」
「なんでわかる」
「だって何も起きなかったじゃない1週間も一緒にいて」
「それは一緒にいる時間が少なかったからじゃないのか?」
「いいえ、だいたい引き金が引かれてからことが起こるのは30分後よ。これはもう実験済みなの」
「つまり私はあなたに負の感情を向けない限り何も起きないの、裸を覗いたりとかしたら保証は無いわね」
「ならその可能性もあるし同棲は無理だ」
「なら気をつければいいじゃない、私を不幸にしたくなければね」
(えぇ、それって)
この女横暴である。
横暴、理不尽の塊である
「貴方はしないって私は断言できるわ」
「なにがわかるんだよ」
「分かるわよ、あなたと少しでも過ごして話をして、それだけで十分わかるわ」
「なんで断言できるんだ!こんな、俺に対して!」
「そうね、でもできるわ」
「あなたは優しいもの」
夏目は分かっているのだろう、昔から自分の力をコントロールするのに数多くの人で検証してきたのだ。
それをなしにして彼女は社長令嬢であるが故多くのパーティ等に参加をしている、他にも彼女の顔色を伺う親の部下、取引相手、メイドや執事などを見続けているのだ。もはや特技の領域であろう
「優しくない人間が不幸にしたくないからと言って自分から遠ざけるかしら?負の感情を向けられていても無意識に引き金を引かぬよう聞こえない振り、音楽で音を消し能天気に考えてきたのはそれもあるんじゃないかしら?」
(え?能天気?どこがよ)
すみませんお嬢様、こいつの能天気は元からです、それに能天気ではなくただのアホなんです。
しかしそれ以外はまるでこれまでの人生を見てきたかのように見透かしていた
「の、能天気?でもそれ以外は当たってる。なんで、わかるんだよ…」
「分かるわよ、だってこれから私たちはパートナーよ?それに私もそうしてきたからよ」
「え?ピザの具全部とっても美味しいかとかもやってたの?」
「はぁ?やってないわよそんなこと」
(もしかして、能天気じゃなくてただの、アホの子なの…?)
事実である。
事実がゆえ、志希はアホだと全く気づいていないのだ。
「まぁいいわ、同棲したらそれも辞めてちょうだいね、あとタバコも」
「え、、ピザは辞めるけどタバコも?それは死ねるんだけど」
「それで死んでたら人類みんな喫煙者よ…少なくとも私の前では吸わないでちょうだい」
「てか、同棲は本気なのかよ…」
「ずっと言ってるじゃない」
夏目は最初から今に至ってまで全て本気である。
同棲も対処法だとして割り切っているからこそ出来るのだろう、しかし何故そこまでして志希にするのか。哀れだからなのか、それとも他に犠牲者を増やしたくないからなのか。しかし回答は違った
「なんでそこまでするんだよ」
「あなたのためにしている訳じゃないわ…いえ嘘よあなたの為でもあるの」
「え、なんで嘘ついたの?今笑えないよ?」
「黙って聞きなさい」
「あなたがかわいそうなのももちろんあるわ。でもそれを抜きにしたとして…単純に友達を助けたいと思うのは違うのかしら…?」
「とも、だち?」
「え、もしかして、私の、勘違い…?」
友達、志希とは縁のない話だった。
たしかに昔は彼にも友達はいた、そう過去形だが居たのだ。
もちろん友達はいた、しかしふとした弾みに喧嘩、その結果死んでしまった。最初はただの事故だと思われたがそれが、もう1人、もう1人と続くと他の子の友達も関わらせるのを辞める。
子供たちも気味悪がって近づかなくなり、そういったものとは無縁になっていった。
そんな彼に彼女は友達と呼んでくれたのだ。
「ほん、とに?友達なの?俺と?お前が?」
「え?違う?勘違い?えええええ」
「ち、ちがう!ただおれが友達として思ってもいいのかと思って…」
「私は、そうだと思ってるけど…」
「あ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛」
「ちょっと!なんで泣くの?え?お腹すいたの!?」
やっぱり彼女も大概アホの子なのかもしれない。
これは不幸に好かれた彼の報われない物語だ。
ただ、少しくらいなら報われてもいいと思う
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