紫  1





「おにおに豆だ。」


豆太郎は入所者たちのおやつを出していた。

そして手に持ったのはおにおに豆と書かれたパッケージだ。

裏に紫垣しがき製菓と書いてある。

一寸法師の近隣に紫垣製菓はある。

なのでここでは昔からその製品を扱っていた。


昨日のN横キッズ達のそばにその社用車が寄り男が降りて来た。


鬼を見ながらそれは何となく見ていたが、

男は去り際に子供達にお金を渡していた。


「おお、豆ちゃん、今日のおやつは豆か。」

「わしゃ、もうちっと柔らかいのが良いの。」

「他のお菓子もあるからどれでも良いよ。食べ過ぎるなよ。」


彼らにおやつを分けながら豆太郎は考えを巡らす。


「でもなあ、おにおに豆は昔より味が落ちたのう。」


ひとりの年寄りが言う。


「そうなのか?」

「うん、昔は豆の味がしっかりしていて美味かったが、

ここ何年か紙みたいにパサパサじゃ。」


彼の心に何かが引っかかる。


「調べてみるか。」


彼は呟いた。




鬼が嫌う柊の苗字と豆の名を持つ柊豆太郎は鬼退治の家系だ。

愛用のスリングショットで固く焼しめた大豆を発射し鬼を払う。

そして彼と一緒にいる桃介とピーチは神獣の血が流れる彼の守護獣だ。


小さな頃から一緒に育ち今に至る。

普通の犬ではないので寿命も長い。

豆太郎と桃介、ピーチは深い絆で結ばれている。




その日の夕方、犬の散歩を装って

ネットで調べた紫垣製菓の近くに豆太郎と犬達は来た。


「豆の匂いはするが……。」


豆太郎が鼻を効かす。


「なんだかすごく嫌だわ。」


ピーチが呟く。


「俺も何だか嫌だ。」


桃介も言う。


丁度退社時間だろうか門から続々と従業員が出て来るが、

何となくどんよりしている。

間違いなくこの会社には何かあると豆太郎は思った。


だがどうやって中を調べるか。


中に入り込んでも良いがどうやって入るか。

彼の本能はマジでヤバい、と警報を鳴らしている。


考えながら犬が行く方向にぶらぶら歩いていると、

一人の女性が向こうから歩いて来た。


桃介とピーチがその女性を見る。

その人も何か考え事をしながら歩いているようだった。

その人とすれ違う時、犬がその女性の匂いを嗅いだ。

女性ははっとして犬を見降ろす。


「この人、神官さんの匂いがする。」


桃介が喋った。

豆太郎と女性の目が合う。


「神獣ですか。」


女性が言った。

それを聞いてこの人は普通の人ではないと豆太郎は分かった。


「驚かないんですか?」

「はは、まあ、実家にも神獣がいたんで。」


桃介とピーチは尻尾を振って女性のそばに寄った。


荒木田あらきだゆかりと言います。」

「柊豆太郎です、よろしく。」




二人は近場の公園に行き、ベンチに座った。


「驚いたな、こんな所でこのような人と会うなんて。」


豆太郎が言う。


「私もびっくりです。ここで神獣と会うなんて。

でもなんて立派な神獣……。」


桃介とピーチが尻尾を振る。


「ところで荒木田さん、どうしてこんな所に。」


紫は少しばかり躊躇する。

だが、もしかするとこれも縁なのかもしれない。

紫は話すことにした。


「あの紫垣製菓ってご存知ですか。」


豆太郎は驚いた。


「知ってますよ。さっき見に行っていた。」

「あそこにいる人に用があったのですが、

その、怖くて。」


これは何かしら関係があるのかもしれないと豆太郎は思った。


「荒木田さん、」

「紫と呼んでください。」

「俺も豆太郎で結構です。物凄く大事な話があります。

多分俺達が会ったのは偶然じゃないと思う。」







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