赭丹導





「ばあちゃーん。」


千角が引き戸を開けた。


「ほーーーい。」


遠くから声がする。梅蕙ばいけいだ。


「入れ、今手が離せん。」


一角と千角が中に入ると

梅蕙がVRゴーグルをつけてゲームをしていた。

「おお、おばあちゃん、それっ……!」


一角が珍しく叫ぶ。


「買ったのか!」

「ああ、面白そうだったからな。スマホで注文した。」

「後で僕にもやらせて!」

「ええよ。」


一通り皆でゲームを遊んだ後、

三人は現世から持って来たお菓子を食べ始めた。


「なんだい、今これが流行ってるのかい。」


焼き芋のスイーツだ。


「美味いだろ、甘くてさ。」

「みんな食べてるよ、だからおばあちゃんに買って来たんだ。」


梅蕙がスイーツを食べる。


「美味いよ、美味いけどさ、若い子は食べ慣れていないから良いけど、

あたしは昔イモはいやんなる程食べたから今度は違うのを買って来ておくれよ。

バスクチーズケーキとかさ。」


二人は顔を見合わせて複雑な表情になった。


「ああ、ごめんよ、せっかく買って来てくれたんだよね、

美味い美味いよ。ありがとうよ。」


その顔を見て梅蕙が慌てて言い訳をした。


「いいよ、今日は急だったし、また今度来る時は欲しいものを教えてよ。」


一角が言う。


「ところであんた達、何の用があったんだい。

玉はいくつ見つけた。」

「これだよ。」


千角が髪の毛から鈎針を出す。


「おお、これは立派な逆数珠ぎゃくじゅずだ。」

「あれ一つない。」


千角が数を数える。

学校で子どもから抜いた3個と、親からの2個、

そしてN横キッズの1個で6個あるはずだった。


「五つしかないよ。」


一角も見る。


「本当だ、一つない。

でもそれぞれの玉の大きさが変わってる。

一つはすごく小さかったけど今は全部揃っているよ。」


梅蕙が言う。


「この玉は邪念の量によって大きさは違う。

でもこれは一緒にしておくうちに大きさが揃うよ。」

「そうなんだ。」


千角が指を舐めながら言った。


「それとばあちゃん、あかい装束の男達がいたんだけど知ってる?」

「僕達は油断しちゃって結界に捉えられて捕まる所だった。

でも逃げたよ。」


梅蕙の目がギラリと光る。


「多分それはな赭丹導あかにどうだ。」

「あかにどう?」

「そうだ、昔あいつらも逆数珠を狙っていた。

と言うかあいつらまだいたのか。」

「まだいたのかってどういう事?」


梅蕙が大きく息を吸う。


「前にこの逆数珠をこちらに持って帰った時にはじけたと言っただろう。

あれは赭丹導に邪魔されたんだよ。」

「200年前だよね。」

「そうだ、あいつらはこれを集めて世界を破壊すると言っていたよ。

そう言う宗教みたいなものかね、まだ続いていたんだ。

あたし達はそんな事関係なく宝が欲しかったからね、

それだけで集めていたんだが、

横取りされそうになってバーンと紐がちぎれて飛び散った。」

「世界を破壊するってあいつら人間だったぞ。」


千角が驚く。


「ああ、人だ。

だが人を滅ぼして清浄な世界にするんだと。」


一角と千角が顔を見合わす。


「意味が分からんな。」

「意味が分からんぜ。」


梅蕙が頷く。


「あたしも分からん。

第一清浄な世界になったらあたし達鬼も消えるぞ。

人の闇の部分が鬼だからな。

人と鬼は裏表だ。」

「人を助けるためにばーちゃんは逆数珠を集めたのか。」

「いんや。」


梅蕙はにやりと笑う。


「欲しかったからだよ。

あいつらの邪魔をするのも楽しかったしな。」

「さすがおばあちゃんだ。」


三人は笑う。


「ただ、逆数珠のありかを示す巻物は一つで

お前達が持っているものだけだ。

それは絶対に盗られるなよ。」

「うん。」

「そう言えば、」


一角が思い出す。


「紫垣製菓の常務の男が腹の中に大きな玉を持っていたよ。

そして口からその粒が出ていて、

他の人間の口に入るとそれがその人間の中で大きくなっていたな。」


梅蕙の顔色が変わる。


「お前それって……。」


彼女の顔色を見てただ事でないことを二人は感じた。


「玉を増やしているんじゃないか。

どうしてそんな事が出来るのか分からんが、

ほって置いたら玉が無限に増える。

そして巻物は全く意味はなくなる。自分で新しい玉が増やせるからな。」







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