紫垣製菓  2





深夜だ。

人の姿はどこにもない。


紫垣製菓はそれほど大きくない会社だ。

門のすぐそばに事務所があり、そのずっと奥が菓子工場らしい。

今は真っ暗でどこも動いていないがほのかに豆の香りがする。


「うわー、入りたくねぇ。」


人にとっては美味しい香りでも彼らには不快らしい。

二人は門を軽く飛び越えて中に入った。


だが、入った途端、異様な気配で全身に鳥肌が立った。


そこは結界の真ん中だった。


罠が仕掛けられていたのだ。

二人は動けなくなった。


建物の奥からあか装束しょうぞくの数人の男が現れた。

そして、


「来たな、鬼の小僧。」


あの紫垣だ。


「ああ、お久し振り。」


千角がにやりと笑いふざけた調子で答えた。

紫垣はずかずかと二人に近づく。

周りのあか装束の男達もじゅを唱えながら近づいて来る。


すると二人の体が上から押さえつけられるように

這うような形になり全く動けなくなった。


「鬼は間近で見るのは初めてだが、こんなに弱いのか。」


二人は悔しそうな顔をする。


「こんなかんざしをつけやがって。」


紫垣が千角の髪をとめている簪を抜いた。


「常務、いけません!」


赭装束の一人が叫ぶ。


その途端、千角の髪が一気に広がり、

丸くドームのように地面に突き刺さった。

その勢いで紫垣は飛ばされる。

そして一角の眼鏡の硝子が液体になり

髪が作ったドームの床の様に広がった。


それで戒めが解けたのか

一角が立ち上がりネクタイを鞭に変え、

紫垣の手から飛んだ簪を拾って二人の姿は消えた。


その後にはずたずたに引き裂かれた円陣の結界だけがあった。


「あんたは馬鹿か。ど素人は引っ込んでろ。」


一人の赭装束が座り込んでいる紫垣に近寄り、

胸ぐらをつかんで立たせた。


「おい!止めろ!常務すみません。」


別の赭装束がそれを止めようとした。

だが紫垣が自分の胸倉を掴んでいる男の顔を掴む。

そして口を開け息を吸うと

掴んでいる男の口から赤い粒が勢いよく出て来て

それを吸い込んだ。


吸われた男は力なく崩れ落ちる。

死んではいないようだが意識は無い。


「ど素人で悪かったな。

お前の赤い玉ムシャムシャしちゃうゾ。」


紫垣は見下すように倒れた男を眺めた。

周りは息を飲んでそれを見ているだけだ。





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