N横キッズ  2





一角と千角はあの男の車を追った。


所々で車は止まり、そこにはたいてい少年少女がいた。

男が話しかけてお金を渡していく。


そして彼らには見えていないだろうが、

男の口から赤い小さな粒が出て周りはそれを吸い込んでいた。


「玉の養殖みたいだな。」


どこかの若い彼らの集まり場所で、

その中の一人の少年のみぞおちに禍々しく光り輝く赤い玉があった。

それは立派な大きさになっていた。


男がそれを見て少年を呼んだ。

少し話をする。

すると少年は嬉しそうな顔をして男の車に乗り込み行ってしまった。


残った彼らは悔しそうな顔をしたがそれもすぐに消え、

さっきまでのように地べたに座り込んで話し出した。


「あれ、多分玉を抜くんだよな。」

「どうかな、結構大きかったからな。」

「横取りしようぜ。」


車は人気のない道路を通っていた。

この辺りはオフィス街だ。

このような場所は夜中の方が静まり返っている。


車が信号で止まった時だ。


信号が急に瞬いた。

運転手が驚いて身を前にして上を見た。

だが見えない。


驚いて左右を見渡すとフロントグラスに人の顔が出た。

ボンネットに人が乗っていたので、その陰で信号が見えなかったのだ。

運転手は後ろを見て叫んだ。


「常務!」


常務と呼ばれた男は胸元に手を入れる。


ボンネットに乗った男はニヤニヤ笑いながら

そこに足を広げて座っていた。

千角だ。


「誰だ!」


運転手が叫ぶ。


「いや、違う。」


後ろにいる男が言った。


「鬼かもな。」


彼の隣にいる少年がぎくりとして常務の顔を見た。

そして叫び声をあげると車の外に飛び出した。


「うわわあああ!!」

「待て!」


男は制止しようとしたが間に合わない。


逃げた少年がそこに現れた細身の男に首の後ろを掴まれて倒された。

それは一角だった。


一角は素早く少年を仰向けにするとみぞおちに

あの金の鈎針を突っ込んだ。

それを引き出すとそこには赤い玉があった。

少年は既に気を失っている。


車の開いたドアからあの男が出て来た。

運転手は恐ろしさでハンドルに顔をつけて身動きできなかった。


「お前達、鬼か。」


一角のそばに千角がふわりと飛ぶ。

彼の手には巨大な金棒があった。

まとめていた髪は解けてざんばら髪だ。

一角はネクタイを解きそれを手に巻く。

するとそれは黒い鞭になった。


「そうだよ、おじさん。」


千角が答えた。


「若いな。」


男がにやりと笑う。


「わっかものでーす!」


千角がふざけた調子で言った。

だが一角は返事をしない。


「油断するなよ、あいつ胸元に何か隠してる。」


男がその手をゆっくりと出した。

お菓子のパッケージだ。


そこには「おにおに豆」と書いてある。


一角と千角はそれを見て素早く飛び跳ねた。

男がその飛んだ方に見上げると、近くのビルの屋上に二人がいた。


そして姿が消える。


「取られたな。」


男は呟いた。


「常務、紫垣しがき常務……。」


運転手がやっと車から出て来た。

信号は既に元に戻っている。


「車を動かせ。」


紫垣と呼ばれた男は倒れている少年を担いで車に戻った。


「常務、今のあれ、なんですか。」


震える声で運転手が聞いた。


「鬼だ。見た事がないのか。」

「あ、ありませんよ。」


運転手が震える声で言う。


「お前、うちのおにおに豆を持っていないのか。」

「お菓子ですよね、どうして……。」

「炒った大豆だから鬼避おによけだ。渡されただろう。」

「食べちゃいました。」


紫垣は苦笑いする。


「喰うのは結構だがな、これから多分何度もこんなことがあるかもしれん。

おにおに豆をいつも持っておくんだな。車にも置け。

もし耐えられんならすぐこの仕事をやめちゃえ。

使えん男はポイポイしちゃうぞ。」


紫垣の言い方に運転手は無言になった。

ふざけているようで口調は冷徹極まりなかった。


「ま、俺も初めて鬼を見たがな。

おい、車を出せ。」


運転手がエンジンをかけた。


「このガキ、駅前に捨ててこないとな。」

「死んだんですか。」

「死んでねぇよ。

でももう使い物にならん。こいつこそポイポイだ。」





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