N横キッズ  3





「くそう、炒り豆か。」

「あれは嫌だな。当たると痛いし。」

「おにおに豆か、ふざけた名前を付けやがって。」


千角が髪を纏めて金のかんざしで頭の上に止めた。


最初にいた猫の手通りのアーケードのそばだ。


もう明け方近く、

少しばかり空が明るくなりかけている。


夜中にいた子供たちがビルの壁にもたれて数人眠っている。

小さな赤い玉が一角と千角に見えた。


人気ひとけもないしついでに抜こうか。」


一角が一尺鈎針を出す。

眠っている子にそれを刺そうとした時だ。


「!!!」


すぐ後ろの千角の気配が変わる。

振り向くと彼はうずくまっていた。

一角がはっと思った瞬間、

眼鏡が飛び額に目が眩むほどのショックと痛みを受けて

彼も思わずうずくまった。


彼らはしばらく動けない。


「鬼ども、参ったか。」


男の声だ。


「俺はひいらぎ豆太郎だ。」


スリングショットを構えてキリリとした顔立ちのあの男が現れた。

その両脇に白い犬が二匹いる。


「こいつらは桃介とピーチだ。

何かすると喉笛に噛みつくぞ。」


うずくまったままの千角がぶるぶると震えだす。


「動くなよ。」


震えてはいるが様子がおかしい。

千角からは含み笑いのような声がする。


豆太郎は恐る恐る彼に近づく。

すると千角がいきなり仰向けになるとげらげらと笑いだした。


「桃介とピーチ!」


傍らにうずくまっていた一角もいつの間にかそのまま笑い転げている。


「くく、くそっ、お前ら、また豆を喰らうか!」


顔を真っ赤にして怒り出した豆太郎を二人は見た。


「ごめん、ごめん、あまりにも露骨に鬼ヶ島だから。」

「名前の柊豆太郎っておい……。」

「うるせぇ!当てるぞ!」


犬も唸り出す。

そして目にもとまらぬ速さでスリングから玉が発射された。


二人はぎりぎりでそれを交わす。


「豆太郎君、良い腕をしてるね。

今は喰らったけど今度は当たらないからね。」

「桃介ちゃん、ピーチちゃんまたね~~~。」


二人はアーケードの上に飛びあがった。


豆太郎は悔し気に二人を見る。

そして二人は消えた。


「なあ、豆太郎。」


桃介が言う。


「あいつら鬼だけど全然腐った臭いはしなかったな。」

「そうね、まだ人を食べていないのかも。」


ピーチも言う。

豆太郎も腕組みをして考える。


「そうだな、今まで見た鬼とは違うな。

さっきも人を食べるという感じじゃなかったし。」


豆太郎は眼鏡をかけていた鬼が持っていた道具を思い出す。

金色の大きな鈎針の様だった。


「赤い紐がついていたな。」


そしてあの鬼を撃った時に眼鏡が飛んだのを思い出した。

その場所に行くとブリッジが折れたメガネが落ちていた。


彼はそれを拾い匂いを嗅いだ。

鬼臭いが腐った臭いはしなかった。


「なんだろうな、あいつら。」


そして豆太郎は壁近くで眠りこけている子供に向かって叫んだ。


「お前ら!始発で帰れ!」


犬も吠え立てる。

驚いて起きた子供たちは飛び起きて走って逃げて行った。







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